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第三章 清廉なるティタニエラ
第六話 それぞれの課題②
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「何だよ不思議って」
総司は苦笑して、それからミスティルを見た。
「ティタニエラに来てからドタバタして、ミスティルのことをゆっくり聞く暇もなかったな、そういえば」
「ちょっとはお話ししましたけどね。お二人の旅の話はとても面白かった」
ミスティルの家に泊まった昨晩は既に、ジャンジットテリオスの打倒に向けた話し合いばかりで、ミスティルと世間話をする暇もなかった。
「今日は休むしかないわけだけど、聞かせてくれよ、ミスティルの話をさ」
「そ、そうやって改めて振られると、ちょっと難しいというか気恥ずかしいですけど」
ミスティルは可愛らしい照れ笑いを浮かべ、本当に気恥ずかしそうにもじもじしたが、しかしやがて、総司の質問にぽつぽつと答えるような形で、彼女のことを語ってくれた。
ミスティルはエルフの中でも特別な力を持つ存在だった。
ヒトが持たざるエルフの古代魔法は、しかしエルフであればだれでも使える、という次元の代物ではない。ミスティルがその力を持つのは、彼女がエルフの中でも特筆して強力な魔力を持つが故であり、クローディアが特に目を掛けている理由の一つでもある。
彼女自身の先祖やその家系に特別さはなかった。父親を病で亡くしており、母は閉鎖的なエルフの中では珍しく外の世界に憧れており、好奇心旺盛で冒険家を名乗っていた。ミスティルが幼い頃、彼女をクローディアに預け、カイオディウムの女神教を学びに行く道中で、物珍しいエルフということで悪党に捕まり、必死で抵抗するも多勢に無勢、最後には自害したという。
その話を聞いた総司は、流石にミスティルを止め、首を振った。
「悪い、とんでもないことを聞いた……」
「いいえ、良いんですよ。いっぱい悲しみましたけれど、里の皆のおかげでもうずいぶん前に立ち直りましたから」
そう穏やかに語るミスティルを、総司は――――何か信じられない、自分の考えの及びもつかない、まるで化け物でも見るような目で、見つめる。
日常の中で見ることのない眼差しに、ミスティルの方も思わずぎょっとした。
「ど、どうしました……?」
「それほどの……お、親を殺されるようなことがあって……しかも、俺とリシア、ベルは親の仇と同じ種族で……それでお前は、何で? 俺達を友達だって……?」
「だって、ソウシさん達が母を殺したわけじゃないでしょう?」
何を言っているんだ、とでも言いたげにミスティルが顔をしかめた。
「その悪党たちにもしこの先出会ったとしたら、私も穏やかではいられないと思いますよ。でも、あなた達には関係がないし……私はヒトそのものが嫌いではないです。最初に会ったときに言いませんでしたか? 会ってみたいと思っていたんです」
「……そりゃ、正論というか……客観的な立場ならそう言えるだろうが……」
「それにあなた達は全く悪人ではないじゃないですか。顔も知らない誰かのために命を賭けるお人よしと、それに忠実に付き従う騎士様、そしてちょっと斜に構えてるけど、多分とても優しい聖職者様。良いヒトばかりだなって、確信してますし」
エルフの隠れ里でもすさまじい人気を誇っており、だれしもに好かれていたミスティル。その人気の一端が垣間見えた気がした。
彼女は愛が深すぎる。とても素直で清廉な気質であることには間違いないが、しかしその無邪気な笑顔の裏に深遠なる物の考え方を持っており、総司よりも精神的にずっと完成されている。完成された器は、年齢相応の、ある意味では不合理にもなり得る感情に流されることもない。
その視点、その器は、ともすれば――――
「……まるで女神の視点だな」
「ええ!?」
総司がぽつりとつぶやいた一言に仰天し、ミスティルはぶんぶんと首を振った。
「と、とんでもないことです! 恐れ多くも女神様の……な、なんという……」
「……素晴らしいと思うが、でも、褒めてるばかりでもないんだぜ」
総司は真剣な表情でミスティルに言った。
「言い換えれば『異常』だ、ってことでもあるからな」
「……そう、でしょうか」
「俺のこと言えたもんじゃねえよ。ミスティルだって十分度が過ぎてると思うけど」
「……じゃあ」
ミスティルはにっこりと笑って、
「私たち、似た者同士ってことですね」
「んっ」
そんな切り返しが来るとは予想だにしていなかった総司が言葉に詰まった。そして参った、とばかり肩を竦める。
「古代魔法については聞いても良いか?」
「自分が扱えるものについてはもちろん知っていますけど……大老さまよりうまく説明できる自信はありませんが、頑張りましょう」
話題を切り替えてみると、ミスティルはちょっとばつが悪そうに頬をかいたが、すっと姿勢を正した。
「ミスティルが使うアレは、ものすごい威力だったよな。古代魔法ってのはそういう戦うための力なのか」
「いえ、決して。ただ戦いにも転用できるというだけで、本質はそこにはありません」
「あ、最初に言っておきたいんだけど」
総司がぱっと遮った。
「俺、魔法の知識は結構乏しくて……申し訳ないんだけど、わかりやすく頼む……」
「もちろんです!」
ミスティルは笑顔で頷いた。
「普通の魔法って、どういうものかって言うのは、ヒトの間ではどのように伝わっているのですか?」
「聞いた話じゃ、精霊の行いを“真似る”ものだとか?」
「そうです! では、伝承魔法が精霊の力を一時的に行使するものである、というのもご存じですね」
「だな。劣化版みたいな感じなんだろ?」
「そうですそうです! では古代魔法はというと、もう一段上になります」
「……精霊の力を、劣化させずに?」
「いえ、そういう『上』ではなく、更なる『上位』。古代魔法とは、“女神様の行いの一部を真似る”魔法、という位置づけです」
世界を構築する法則、概念への、ほんのわずかな干渉を可能とする魔法。それが古代魔法で在り、その所業はつまり、健在であれば世界に対して自在な干渉が可能であるリスティリアの女神、レヴァンチェスカの行いのわずかな部分を、女神ではない身で実現する所業である。
「本当にほんのわずかなのですが、古代魔法によって達成される事象は、女神様の御業をものすごーく劣化させて再現するような感じなのです。ほんのわずかで、ほんっとうにものすごーーーく劣化させても、女神様の御業は下界の生命にとってはとんでもない奇跡ですので、古代魔法とは強力であり、ヒトからすれば信じられないような次元の事象を引き起こしているように見える、というわけです」
「はーっ……」
総司は感心したように息を漏らした。
「説明うまいな!」
「そこですか!? 古代魔法ってすごいなって、そういう感想ではなく!?」
「いや、それも思ったけど」
「でも、やっぱり神獣には通じませんでした。いかに女神様の御業とはいえ、女神様を10とするなら1以下の力です。神獣とはまさしく女神の意思の代行者。古代魔法の更なる上位存在ともいえますからね……直撃すればそれなりには効いたと思うのですが、正面から力比べとなると」
ミスティルは両手をぱっと挙げて、
「まさにお手上げ、ですね」
「まあ、多分だけど」
ミスティルの言葉を受けて、総司はジャンジットテリオスとの会話を思い出す。
「アイツは“俺に”示してほしいんだろうな……レヴァンディオールを渡すに足る力の持ち主だということを」
「そう思います……ソウシさんのお話では、かの神獣はリシアさんやベルさんにも助言をしたということですが……その真意はやはり、あなたの見極めにある」
今のところ、神獣のお眼鏡に叶う力を示すことは出来ていない。
「……ミスティルの古代魔法があれば」
総司はふと思い出して、ミスティルに問いかけた。
「ベルの望みを叶えることも出来る、のか?」
「……そうですね」
ミスティルは少し暗い顔をして、わずかに頷いた。
「可能と思います。デミエル・ダリアなるカイオディウムの本拠地の護りを消し去ることも、そう難しいことではないでしょう」
「もし、クローディア様の命があったら、そうするか?」
「いいえ」
ミスティルは首を振った。
「殺人の手助けなんて、どう転んでもしていいものではないのです。ベルさんには考えを改めてもらうほかないでしょう」
総司は苦笑して、それからミスティルを見た。
「ティタニエラに来てからドタバタして、ミスティルのことをゆっくり聞く暇もなかったな、そういえば」
「ちょっとはお話ししましたけどね。お二人の旅の話はとても面白かった」
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ミスティルは可愛らしい照れ笑いを浮かべ、本当に気恥ずかしそうにもじもじしたが、しかしやがて、総司の質問にぽつぽつと答えるような形で、彼女のことを語ってくれた。
ミスティルはエルフの中でも特別な力を持つ存在だった。
ヒトが持たざるエルフの古代魔法は、しかしエルフであればだれでも使える、という次元の代物ではない。ミスティルがその力を持つのは、彼女がエルフの中でも特筆して強力な魔力を持つが故であり、クローディアが特に目を掛けている理由の一つでもある。
彼女自身の先祖やその家系に特別さはなかった。父親を病で亡くしており、母は閉鎖的なエルフの中では珍しく外の世界に憧れており、好奇心旺盛で冒険家を名乗っていた。ミスティルが幼い頃、彼女をクローディアに預け、カイオディウムの女神教を学びに行く道中で、物珍しいエルフということで悪党に捕まり、必死で抵抗するも多勢に無勢、最後には自害したという。
その話を聞いた総司は、流石にミスティルを止め、首を振った。
「悪い、とんでもないことを聞いた……」
「いいえ、良いんですよ。いっぱい悲しみましたけれど、里の皆のおかげでもうずいぶん前に立ち直りましたから」
そう穏やかに語るミスティルを、総司は――――何か信じられない、自分の考えの及びもつかない、まるで化け物でも見るような目で、見つめる。
日常の中で見ることのない眼差しに、ミスティルの方も思わずぎょっとした。
「ど、どうしました……?」
「それほどの……お、親を殺されるようなことがあって……しかも、俺とリシア、ベルは親の仇と同じ種族で……それでお前は、何で? 俺達を友達だって……?」
「だって、ソウシさん達が母を殺したわけじゃないでしょう?」
何を言っているんだ、とでも言いたげにミスティルが顔をしかめた。
「その悪党たちにもしこの先出会ったとしたら、私も穏やかではいられないと思いますよ。でも、あなた達には関係がないし……私はヒトそのものが嫌いではないです。最初に会ったときに言いませんでしたか? 会ってみたいと思っていたんです」
「……そりゃ、正論というか……客観的な立場ならそう言えるだろうが……」
「それにあなた達は全く悪人ではないじゃないですか。顔も知らない誰かのために命を賭けるお人よしと、それに忠実に付き従う騎士様、そしてちょっと斜に構えてるけど、多分とても優しい聖職者様。良いヒトばかりだなって、確信してますし」
エルフの隠れ里でもすさまじい人気を誇っており、だれしもに好かれていたミスティル。その人気の一端が垣間見えた気がした。
彼女は愛が深すぎる。とても素直で清廉な気質であることには間違いないが、しかしその無邪気な笑顔の裏に深遠なる物の考え方を持っており、総司よりも精神的にずっと完成されている。完成された器は、年齢相応の、ある意味では不合理にもなり得る感情に流されることもない。
その視点、その器は、ともすれば――――
「……まるで女神の視点だな」
「ええ!?」
総司がぽつりとつぶやいた一言に仰天し、ミスティルはぶんぶんと首を振った。
「と、とんでもないことです! 恐れ多くも女神様の……な、なんという……」
「……素晴らしいと思うが、でも、褒めてるばかりでもないんだぜ」
総司は真剣な表情でミスティルに言った。
「言い換えれば『異常』だ、ってことでもあるからな」
「……そう、でしょうか」
「俺のこと言えたもんじゃねえよ。ミスティルだって十分度が過ぎてると思うけど」
「……じゃあ」
ミスティルはにっこりと笑って、
「私たち、似た者同士ってことですね」
「んっ」
そんな切り返しが来るとは予想だにしていなかった総司が言葉に詰まった。そして参った、とばかり肩を竦める。
「古代魔法については聞いても良いか?」
「自分が扱えるものについてはもちろん知っていますけど……大老さまよりうまく説明できる自信はありませんが、頑張りましょう」
話題を切り替えてみると、ミスティルはちょっとばつが悪そうに頬をかいたが、すっと姿勢を正した。
「ミスティルが使うアレは、ものすごい威力だったよな。古代魔法ってのはそういう戦うための力なのか」
「いえ、決して。ただ戦いにも転用できるというだけで、本質はそこにはありません」
「あ、最初に言っておきたいんだけど」
総司がぱっと遮った。
「俺、魔法の知識は結構乏しくて……申し訳ないんだけど、わかりやすく頼む……」
「もちろんです!」
ミスティルは笑顔で頷いた。
「普通の魔法って、どういうものかって言うのは、ヒトの間ではどのように伝わっているのですか?」
「聞いた話じゃ、精霊の行いを“真似る”ものだとか?」
「そうです! では、伝承魔法が精霊の力を一時的に行使するものである、というのもご存じですね」
「だな。劣化版みたいな感じなんだろ?」
「そうですそうです! では古代魔法はというと、もう一段上になります」
「……精霊の力を、劣化させずに?」
「いえ、そういう『上』ではなく、更なる『上位』。古代魔法とは、“女神様の行いの一部を真似る”魔法、という位置づけです」
世界を構築する法則、概念への、ほんのわずかな干渉を可能とする魔法。それが古代魔法で在り、その所業はつまり、健在であれば世界に対して自在な干渉が可能であるリスティリアの女神、レヴァンチェスカの行いのわずかな部分を、女神ではない身で実現する所業である。
「本当にほんのわずかなのですが、古代魔法によって達成される事象は、女神様の御業をものすごーく劣化させて再現するような感じなのです。ほんのわずかで、ほんっとうにものすごーーーく劣化させても、女神様の御業は下界の生命にとってはとんでもない奇跡ですので、古代魔法とは強力であり、ヒトからすれば信じられないような次元の事象を引き起こしているように見える、というわけです」
「はーっ……」
総司は感心したように息を漏らした。
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「いや、それも思ったけど」
「でも、やっぱり神獣には通じませんでした。いかに女神様の御業とはいえ、女神様を10とするなら1以下の力です。神獣とはまさしく女神の意思の代行者。古代魔法の更なる上位存在ともいえますからね……直撃すればそれなりには効いたと思うのですが、正面から力比べとなると」
ミスティルは両手をぱっと挙げて、
「まさにお手上げ、ですね」
「まあ、多分だけど」
ミスティルの言葉を受けて、総司はジャンジットテリオスとの会話を思い出す。
「アイツは“俺に”示してほしいんだろうな……レヴァンディオールを渡すに足る力の持ち主だということを」
「そう思います……ソウシさんのお話では、かの神獣はリシアさんやベルさんにも助言をしたということですが……その真意はやはり、あなたの見極めにある」
今のところ、神獣のお眼鏡に叶う力を示すことは出来ていない。
「……ミスティルの古代魔法があれば」
総司はふと思い出して、ミスティルに問いかけた。
「ベルの望みを叶えることも出来る、のか?」
「……そうですね」
ミスティルは少し暗い顔をして、わずかに頷いた。
「可能と思います。デミエル・ダリアなるカイオディウムの本拠地の護りを消し去ることも、そう難しいことではないでしょう」
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