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ごくん、と喉が鳴った。
視線を逸らせなかった。それはまるで否定しているかのようだから。
瞳を閉じれなかった。それは期待しているかのようだから。……間違ってないのだけど。
「……イヴのことは、小さな頃から覚えているから」
「……?」
「年齢がどうにもなあ……はっきりしなくて」
「はあ……」
「でもずっとかわいかったのは覚えてるよ」
ずっとずっと、ずうっと。
こどもの時から、少年の時も、青年になっても。
お前はずっとかわいかったよ、
そう話す彼の瞳はレオンだ。おれが帰ってからも、イヴになってからも、ずっと一緒にいたひと。
知りたい、あの後の話を。
気付いてくれた?気付かなかった?イヴは大丈夫だった?怯えてなかった?暗いところにひとりでさみしかったよね、おれのこと、怒ってなかった?レオンとアルベールに愛されたこと怒ってなかった?
話を聞いた?おれのこと、どう思った?狡い奴だって、卑怯だって思った?おれがイヴの振りをしていたって、嫌になった?
ねえその後は?
「イヴは嘘が吐けない奴だったよ」
「……!」
「どう見たって不審だったし、アルベールの予知も戻ってきた、あのタイミングだったのはすぐわかった」
「予知……」
「問い詰めればすぐに話す正直な良い子だったな」
アルベールの予知はだいじなひとや家族はあまり見えないと言っていた。
特にイヴのものはもやもやしていると。それに少し、安心と優越感があった。
イヴと伊吹が混じってるから更に見え辛くなってるのかもしれない、ばれにくくて助かるという思いと、自分が特別だいじに思われてるようで。それはまあ、イヴのことだってわかってたけど。
そうか、イヴだけになったから、母さまたちみたいに、全部ではなくてもまた見えるようにはなったのか。
それで少しはおかしいと思ってくれたのだろうか。
イヴから聞いた話と相俟って、伊吹の存在を信じてくれたのだろうか。
「……お前も嘘が吐けなさそうだ」
「……」
「伊吹のことだって、こどもの頃から知っておきたかったよ」
まあそうなったら尚更手を出せなくなりそうだけど、と苦笑して、写真ないの?と指先を撫でた。
写真なんてない。
女の子の格好をさせられていた時に何枚か撮ったけれど、多分それは愛莉が生まれた時に処理された。
偽物なんていらないから。
黙り込んだおれに何かしら思うところがあったのだろう、玲於さんは写真は嫌いかと訊いてきた。
すきではない。別に残すようなものでもないし。
でもそうだな、玲於さんのものがあるなら見たいかもしれない。幼い頃のレオンを思い出すような。
「嫌じゃないならこれからたくさん撮っておこう」
「え」
「今の伊吹がいちばん若いんだ、歳なんて今から嫌でも取ってく」
「それは……まあ、」
「十八の伊吹も残しておこうな」
「……それは、玲於さんも一緒に?」
「ああ、一緒に」
胸がきゅう、となった。
それはまだ、これからも、一緒にいてもいいという許可。
おれといるのは嫌じゃないということ。
「ねえ、僕ちょっと席外しますね」
電話、と残して杏さんが病室を出た。
多分それは嘘だ。だってさっき玲於さんが着いたと連絡があった時はバイブ音が鳴ったのに、今度はなんの音もしなかったから。
気を遣われたということなんだろうな。
あいつも嘘が下手くそだな、と玲於さんは苦笑して、またおれに向き直った。
お前がいなくなったのはすぐにわかったよ、と言う。
「あの日、起きたらもうイヴに戻っていた」
「……なんでわかったんですか?何か言ってましたか、怒ってましたか」
「泣いてたんだよ、イヴが」
その言葉に背中がひやりとした。
そうだろうな、とわかっていてもやはりショックだった。
言い訳なら沢山出てくる。
だって仕方ないじゃないか、別におれは行きたくて前世に戻った訳じゃあないし、なんなら関係性の進まない彼等の手助けをさせられに行ったようなもので、おれが恨まれるのは間違ってる。
そりゃあ初めては全部おれが掻っ攫っていったようなものだし、でもその分恥ずかしいのも痛いのも全部おれが請け負ったようなものだ。
イヴはもう黙って愛されていればいいという状態で……いや、それが良くないものだとはわかっているけど。
「ぽっかり穴が空いたような気持ちだったんだと」
「……どういう、」
「怒ってなんかない、イヴも俺たちも、だいじなものが消えたような、そんな喪失感があったんだよ」
アンリがいなくなった時、違和感があったのは、おれだけだと思っていた。
もしかして、ジャンにだって何かを失ったような焦りがあったのだろうか。今となってはもう確認出来ない。
その訳のわからない喪失感、アルベールの戻った予知、何を失くしたのだと問い質した時のイヴの答え。
そこでレオンとアルベールは気付く。
伊吹の残した忘れないでという呪いに。見つけてほしいと呟いた意味に。
元通りだけれど、そういう話じゃない。確かにあったものがない。
忘れる訳がない。
見つけ方なんて、どこにいるかなんてわからないのに、伊吹の言葉だけが残されてしまった。
視線を逸らせなかった。それはまるで否定しているかのようだから。
瞳を閉じれなかった。それは期待しているかのようだから。……間違ってないのだけど。
「……イヴのことは、小さな頃から覚えているから」
「……?」
「年齢がどうにもなあ……はっきりしなくて」
「はあ……」
「でもずっとかわいかったのは覚えてるよ」
ずっとずっと、ずうっと。
こどもの時から、少年の時も、青年になっても。
お前はずっとかわいかったよ、
そう話す彼の瞳はレオンだ。おれが帰ってからも、イヴになってからも、ずっと一緒にいたひと。
知りたい、あの後の話を。
気付いてくれた?気付かなかった?イヴは大丈夫だった?怯えてなかった?暗いところにひとりでさみしかったよね、おれのこと、怒ってなかった?レオンとアルベールに愛されたこと怒ってなかった?
話を聞いた?おれのこと、どう思った?狡い奴だって、卑怯だって思った?おれがイヴの振りをしていたって、嫌になった?
ねえその後は?
「イヴは嘘が吐けない奴だったよ」
「……!」
「どう見たって不審だったし、アルベールの予知も戻ってきた、あのタイミングだったのはすぐわかった」
「予知……」
「問い詰めればすぐに話す正直な良い子だったな」
アルベールの予知はだいじなひとや家族はあまり見えないと言っていた。
特にイヴのものはもやもやしていると。それに少し、安心と優越感があった。
イヴと伊吹が混じってるから更に見え辛くなってるのかもしれない、ばれにくくて助かるという思いと、自分が特別だいじに思われてるようで。それはまあ、イヴのことだってわかってたけど。
そうか、イヴだけになったから、母さまたちみたいに、全部ではなくてもまた見えるようにはなったのか。
それで少しはおかしいと思ってくれたのだろうか。
イヴから聞いた話と相俟って、伊吹の存在を信じてくれたのだろうか。
「……お前も嘘が吐けなさそうだ」
「……」
「伊吹のことだって、こどもの頃から知っておきたかったよ」
まあそうなったら尚更手を出せなくなりそうだけど、と苦笑して、写真ないの?と指先を撫でた。
写真なんてない。
女の子の格好をさせられていた時に何枚か撮ったけれど、多分それは愛莉が生まれた時に処理された。
偽物なんていらないから。
黙り込んだおれに何かしら思うところがあったのだろう、玲於さんは写真は嫌いかと訊いてきた。
すきではない。別に残すようなものでもないし。
でもそうだな、玲於さんのものがあるなら見たいかもしれない。幼い頃のレオンを思い出すような。
「嫌じゃないならこれからたくさん撮っておこう」
「え」
「今の伊吹がいちばん若いんだ、歳なんて今から嫌でも取ってく」
「それは……まあ、」
「十八の伊吹も残しておこうな」
「……それは、玲於さんも一緒に?」
「ああ、一緒に」
胸がきゅう、となった。
それはまだ、これからも、一緒にいてもいいという許可。
おれといるのは嫌じゃないということ。
「ねえ、僕ちょっと席外しますね」
電話、と残して杏さんが病室を出た。
多分それは嘘だ。だってさっき玲於さんが着いたと連絡があった時はバイブ音が鳴ったのに、今度はなんの音もしなかったから。
気を遣われたということなんだろうな。
あいつも嘘が下手くそだな、と玲於さんは苦笑して、またおれに向き直った。
お前がいなくなったのはすぐにわかったよ、と言う。
「あの日、起きたらもうイヴに戻っていた」
「……なんでわかったんですか?何か言ってましたか、怒ってましたか」
「泣いてたんだよ、イヴが」
その言葉に背中がひやりとした。
そうだろうな、とわかっていてもやはりショックだった。
言い訳なら沢山出てくる。
だって仕方ないじゃないか、別におれは行きたくて前世に戻った訳じゃあないし、なんなら関係性の進まない彼等の手助けをさせられに行ったようなもので、おれが恨まれるのは間違ってる。
そりゃあ初めては全部おれが掻っ攫っていったようなものだし、でもその分恥ずかしいのも痛いのも全部おれが請け負ったようなものだ。
イヴはもう黙って愛されていればいいという状態で……いや、それが良くないものだとはわかっているけど。
「ぽっかり穴が空いたような気持ちだったんだと」
「……どういう、」
「怒ってなんかない、イヴも俺たちも、だいじなものが消えたような、そんな喪失感があったんだよ」
アンリがいなくなった時、違和感があったのは、おれだけだと思っていた。
もしかして、ジャンにだって何かを失ったような焦りがあったのだろうか。今となってはもう確認出来ない。
その訳のわからない喪失感、アルベールの戻った予知、何を失くしたのだと問い質した時のイヴの答え。
そこでレオンとアルベールは気付く。
伊吹の残した忘れないでという呪いに。見つけてほしいと呟いた意味に。
元通りだけれど、そういう話じゃない。確かにあったものがない。
忘れる訳がない。
見つけ方なんて、どこにいるかなんてわからないのに、伊吹の言葉だけが残されてしまった。
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