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もう少しで、雨が降りそうな曇りの日だった。
委員会の手伝いで帰りが遅くなったことに焦る。
傘、持ってきてない!
盗まれるのがオチだし、置き傘なんてしてない。早く帰らねば。
慌てて教室に戻ると、静かな教室でひとり、安らかな寝息を立ててる少年がいた。
「遥陽!ごめん、もしかして待ってた!?」
「んー……?」
眠い目を擦り擦り起きた遥陽は、まだ少し夢の中なのかむにゃむにゃ言ってる。
くそ、かわいい仕草しやがって、おれじゃなかったらまた襲われてたぞ。
「委員会終わったあ?」
「うん」
「雨降りそうだったからさあ、どうせ優希傘持ってきてないでしょ」
「……うん」
「僕折り畳みあるからさ、待ってた」
ふにゃふにゃとしたまま笑顔を向けてくる。
色素の薄い茶色の猫っ毛と瞳、漫画に出てきそうなアイドルのような遥陽は変な奴によくモテる。
この気は利くけど頼りない幼馴染は、幼稚園の頃から天使のような少年で、誘拐されそうになったり知らない人と楽しそうにしてたり、誘拐されそうになったりで、その度におれや先生やおばさんが変質者を追い払ってきた。
人を疑わない真っ直ぐな純粋さは美点であり欠点だ。
どれだけおばさんに優希ちゃんだけが頼りよと言われてきたか。
少し大きくなれば男女問わず声を掛けられ、どれだけ手紙を貰い、連絡先を訊かれ、告白をされ、物を盗まれ、告白をされてきたか。
いい加減自衛しろと怒鳴りたくなる程、目を離せばどこかに連れていかれそうになる遥陽に、おれはずっと気を配って生きてきた。
お前は騎士か?双子なのか?とからかわれたこともある。
セットと思われた方が寧ろ楽だったので、否定せずにずっと一緒にいる。
その内大人になって、お互い違う道に行くんだろう。
それまでに遥陽をしっかりさせねば!と思うのだが……ずっと一緒に居るのが悪いのか?遥陽はふにゃふにゃしたままだ。
一度痛い目にあった方が……馬鹿馬鹿、それは流石に考えたらだめなやつだ。
「ゆき~?優希ちゃーん?どーした?雨降りそうだから頭いたい?」
「……遥陽が無防備すぎて頭いたい」
「あはは何それー」
「ずっと言ってんじゃん、昔から遥陽変な奴にすかれるんだからさ、危機感持ちなよ、誰もいない教室で襲われたりしたらどうすんだよ」
「そんな漫画みたいなことないよお、てかそんなのあったら気付くし!窓からも丸見えじゃーん」
「ちゅーくらいなら出来るだろ!」
「気付く気付く」
気付いても力で負けたらどうしようもないんだから気をつけてほしい。
自分のその顔にもうちょい気を遣え。
「いつもそういうけどさあ」
鞄を掴んで立ち上がりながら、遥陽は唇を尖らせる。
「優希だってかわいーんだから気をつけなって言っても、おれはちがう!ってゆーじゃん」
「お前の顔面と一緒にすんな」
「なんでなんでー、僕優希のがきれーな顔してると思うんだけど」
「……今日コンタクト忘れてんのか?」
「僕いつも裸眼だけどー?視力どっちもAです~」
ほら帰るよ、と腕を引かれて靴箱へ向かう。
しんとした廊下に、きゅっとゴムスリッパの足音が響く。
お腹空いたな、今日は母さんが寝坊してパンを買っただけだったから物足りなかったんだ。
この天気じゃ買い食いも躊躇われる。
待っててくれた遥陽も腹減ってないかな……
もう母さん晩御飯作ってるかな、お菓子とかあったっけ?
「えっ、何これ何これ何これ、えっちょ、え、ひかっ、え、光ってるんだけど!」
靴を履き終えた遥陽が間抜けな声を出す。
何を言ってるんだ、と顔を上げてぎょっとした。
遥陽の足元から青白い光があがっている。
「えっ、何それ、えっ、こわ、え、ちょ、遥陽!」
「ゆき……!」
思わず腕を伸ばした。
こっちに引き寄せるつもりだった。
遥陽もこちらに手を出してくる。その手を掴んだ瞬間だった。
おれと遥陽は眩しい光の中にいた。
委員会の手伝いで帰りが遅くなったことに焦る。
傘、持ってきてない!
盗まれるのがオチだし、置き傘なんてしてない。早く帰らねば。
慌てて教室に戻ると、静かな教室でひとり、安らかな寝息を立ててる少年がいた。
「遥陽!ごめん、もしかして待ってた!?」
「んー……?」
眠い目を擦り擦り起きた遥陽は、まだ少し夢の中なのかむにゃむにゃ言ってる。
くそ、かわいい仕草しやがって、おれじゃなかったらまた襲われてたぞ。
「委員会終わったあ?」
「うん」
「雨降りそうだったからさあ、どうせ優希傘持ってきてないでしょ」
「……うん」
「僕折り畳みあるからさ、待ってた」
ふにゃふにゃとしたまま笑顔を向けてくる。
色素の薄い茶色の猫っ毛と瞳、漫画に出てきそうなアイドルのような遥陽は変な奴によくモテる。
この気は利くけど頼りない幼馴染は、幼稚園の頃から天使のような少年で、誘拐されそうになったり知らない人と楽しそうにしてたり、誘拐されそうになったりで、その度におれや先生やおばさんが変質者を追い払ってきた。
人を疑わない真っ直ぐな純粋さは美点であり欠点だ。
どれだけおばさんに優希ちゃんだけが頼りよと言われてきたか。
少し大きくなれば男女問わず声を掛けられ、どれだけ手紙を貰い、連絡先を訊かれ、告白をされ、物を盗まれ、告白をされてきたか。
いい加減自衛しろと怒鳴りたくなる程、目を離せばどこかに連れていかれそうになる遥陽に、おれはずっと気を配って生きてきた。
お前は騎士か?双子なのか?とからかわれたこともある。
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一度痛い目にあった方が……馬鹿馬鹿、それは流石に考えたらだめなやつだ。
「ゆき~?優希ちゃーん?どーした?雨降りそうだから頭いたい?」
「……遥陽が無防備すぎて頭いたい」
「あはは何それー」
「ずっと言ってんじゃん、昔から遥陽変な奴にすかれるんだからさ、危機感持ちなよ、誰もいない教室で襲われたりしたらどうすんだよ」
「そんな漫画みたいなことないよお、てかそんなのあったら気付くし!窓からも丸見えじゃーん」
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「いつもそういうけどさあ」
鞄を掴んで立ち上がりながら、遥陽は唇を尖らせる。
「優希だってかわいーんだから気をつけなって言っても、おれはちがう!ってゆーじゃん」
「お前の顔面と一緒にすんな」
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「……今日コンタクト忘れてんのか?」
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待っててくれた遥陽も腹減ってないかな……
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靴を履き終えた遥陽が間抜けな声を出す。
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「えっ、何それ、えっ、こわ、え、ちょ、遥陽!」
「ゆき……!」
思わず腕を伸ばした。
こっちに引き寄せるつもりだった。
遥陽もこちらに手を出してくる。その手を掴んだ瞬間だった。
おれと遥陽は眩しい光の中にいた。
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