【完結】召喚失敗された彼がしあわせになるまで

鯖猫ちかこ

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「ユキ様は笑ってた方がかわいいですよ」
「……そのかわいいっての嫌です」
「ええー、別に嫌味とかじゃないですよ」

 でもこの国じゃ、おれみたいな黒髪黒目は不吉らしいですし、と拗ねてみせると、2人は目を丸くした。

「確かに初めてユキ様みたいな髪色は見ましたが」
「でもお似合いですよ、ねえ?」
「ええ、とてもお似合いです、私は好きですよ、綺麗だわ」
「俺もいいと思いますよ、つか、そんなこと言ってんのは古い奴等くらいですから!」
「……あは、ジルと同じこと言ってる」

 思わず笑うと、2人も安心したのか笑顔になる。

「ほら、やっぱり笑った方がかわいいです」
「そうですよ、本心ですわ」
「じゃあもうそれでいいです」

 なんというか、まあ孫とか弟のかわいいなんだろうけど、悪意がないならいいか。
 というか、この2人にこの話を引っ張っても無駄な気がした。それなら素直に甘えた方が良さそうだ。

「モーリスさんはジルと幼馴染って聞きました」
「あー……うん、まあねえ、小さい頃の遊び相手みたいなものですよ」
「へー」
「何か言ってました?」
「モーリスさんとアンヌさんは信用していいって言ってました!」
「あらまあ」
「まあ」

 そう言ったのはジルなのにな。なんで俺が良い子だって頭撫でられてんだろ。
 ちょっと犬の気持ちがわかったぞ。

 暫く雑談をしていると、アンヌさんがそろそろお昼の準備をしてくると立ち上がった。
 手伝うと言いかけて、2人の視線を感じてベンチに腰を下ろす。おれは学習の出来る男だ。

 アンヌさんの小さな背中を見送って、温くなった残りのアイスティーを飲み干した。
 ふう、と息が漏れる。
 悩みはいっぱいあるが、平和だ。
 空が青くて、遠くで鳥が鳴いてて、さわさわと葉の揺れる音に甘いにおい。
 置かれてる状況は多分良くないんだろうけど、ここにいれば大丈夫なのかもしれないなって思った。
 ジル以外にもおれに優しくしてくれる人がいるなら。

「普段モーリスさんたちはどこにいるんですか?」
「騎士団用の宿舎があるんですよ、うちは弟がいるから家が狭くてね、たまに戻るけど大体は宿舎ですね」
「へえ、アンヌさんもなんかそういうとこあるんですかね、使用人部屋みたいな」
「アンヌさんは家族と住んでるんだったかな」
「へー」
「そういうの気になるんですか?」
「全然知らないことだし、この世界の普通ってのがわからないから訊かなきゃって……おれもその宿舎とか行ったらだめですかね」
「……騎士団に入りたい?」

 この細腕じゃなあ、とまじまじと見てくる。
 失礼な、運動とかしてないからその通りなんですけど。

「そんなんじゃないです、おれに向いてないことくらいわかるし」
「じゃあひとりで寂しいとか?」
「!」

 その通りで間違いはないんだけど、言葉にされると恥ずかしい。
 子供扱いするなとか、かわいいとか言うなって言っといて、結局子供っぽいことをしてるのは自分なんだよなあ。
 でも普通に考えてさ、このでっかい家にひとりっきりって大分こわくない?
 幽霊とかさ、殺人鬼とか出そうじゃん。だって魔力がある世界だよ、何あってもおかしくないじゃん。

「図星かー、でも流石に宿舎にはなあ……」
「……」
「じゃあ隣にでも泊まりましょうか」
「えっ」
「どうせ暫くここに通うんですし。いいですよ」
「えっでも、え、い、いいんですか、そんなあっさり」
「俺今何やってもいいってお達しですからねー、後で着替えとか取りに行きますよ」

 神じゃないだろうか。感動した。言ってみるもんだな!
 悩みがひとつ減ったので、なんだか素直にお腹が空いたな、と思ってしまった。

「やっぱりユキ様かわいいですね」
「えっ」
「すごい顔に出てますよ」
「……だって夜ほんとにこわいんだよ、あの広さにひとりだよ、今日確認して余計こわくなっちゃったじゃん、幽霊とか殺人鬼とか絶対出るよ」
「絶対って……確認して回りたいって言ったのユキ様じゃないですか」
「そうですけど……」
「まあ幽霊はどうしようもないですけど、殺人鬼なら返り討ちにしてやりますよ」
「ウワァタノモシイ」
「心が籠ってないですね」

 形として敬語なんだけど、やっぱり弟と同じように見てるからか、モーリスさんの言葉にはからかいが入ってる。
 慣れるとそれが楽しくなってきた。
 敬語じゃなくていいんだけど、やっぱりそれは難しいんだろうな。
 普段年上に敬語で話しかけられることなんてないからちょっとやりにくい、ちょっとだけ。

 そんなやり取りをしていたらアンヌさんが昼食を持ってきてくれた。
 ワゴンいっぱいのそれは食べ切れない、と思ったけど、モーリスさんがぺろっと食べきってしまった。
 流石だ、鍛えてる分その躰の維持の為に食べる量も多いんだな……

 昼食が終わると、早速荷物を取りに行ってくるとモーリスさんは出て行った。
 その背中を見ながら、私も残れればいいんですがと申し訳なさそうに言うアンヌさんに慌てて大丈夫ですと伝える。
 家族もいるだろうし、無理になんて言えない。
 ただその分、夕食や朝食はお任せ下さいね、と笑ってくれた。
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