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「……大丈夫か」
そろそろとジルが声を掛けてきた。一応気まずさがあるらしい。
そりゃそうだ、数日戦争のようだったから。
ジルのこと、ずっと無視してたもんね、ガキくさいかもしれないけど、言葉で勝てる気もしなくて。
まだ怒ってるよ、だって結局おれの作戦勝ちだもん。
体調不良で神子様呼び出し作戦成功だもん。
ジルがお膳立てしてくれた訳じゃないもん。
でも結局、ジルが動いてくれたから遥陽が来てくれた訳で。
その分位は感謝してる。
でも王太子だって黙ってたのも、積極的に動いてくれなかったのもまだ本当に怒ってる。
……優しくして貰ってると思ってたのに、そうじゃなかったからかな。
「これ……」
「スープだ」
「もう食べられるか?」
「……うん」
さっきのお腹の音をばっちり聞かれてたのを思い出して、なんかちょっと恥ずかしい。
零さないように両手で受け取り、ありがと、と言うと驚いた顔をする。
失礼な、ちゃんとお礼位言えます。
「あったかい」
水くらいしか口にしてなかったから、優しい味のスープが沁みる。
断食状態の躰に固形物は流石に不味いだろうから、スープで慣らして……明日は普通のご飯食べれるかなあ、なんて呑気なことを考えてしまう。
抱きついたまま寝てる遥陽に零すことがないように気を付けながらスプーンを口に運ぶ。美味しい。
起きたら遥陽も食べないかな、やっぱりこの感じ、寝てないだけじゃないと思うんだ。
食事もそんなにしてないんじゃないかな。
「……すまなかった」
「え」
「もっと早く会わせることが出来たら良かった」
謝ってくるジルに、いいよなんて素直に言えなくて、ほんとですよと嫌味を言ってしまう。
困ったような顔をするジルを見て溜飲を下げようとするけど、なんだかもやもやは取れなくて、視線を逸らす。
何でだろ、やっぱりショックだったのかな。
ジルにはもっと、おれを優先してもらいたかったのかな。
そんなの普通に考えたら無理だってわかることなのに。
「私からも……申し訳ない」
「……」
もうひとりの方からも謝られる。自己紹介すらまだだってのに先に謝られるってなんなんだろう。
「おれもですけど……でも遥陽がこんなになってる説明の方が聞きたいです」
「それは……」
言い淀むジルを抑えて、遠目だと白髪だと思ってた、シルバーの髪の男が喋りだした。
彼はティノ、第二王子とのことだった。
ジルがこちらにばかり来るからか、ティノが遥陽のとこにはよく行ってたらしい。
なんだ?つまりティノが原因ってことか?
ついつい目付きが悪くなってしまう。
遥陽がこっちに来て、おれと引き離されて、基本的には勉強ばかりだったという。
神子様として、力の使い方、国のことなんかを教えられ、たまに騎士団の方へ出向き、実際に怪我した団員で練習していたとか。
最初こそおれを人質としてとられてるからか、嫌々ながらもやっていたが、段々食事も摂らず、口数も少なくなり、おれに会わせてほしいと言う回数も増えた。
それでも許して貰えなかったところでのあの式典だ。
その後おれの話を聞き、治させてほしいと懇願したが受け入れて貰えず、とうとうおれに会わせなきゃ舌を噛んで死んでやるとまで騒ぎ出した為、今回連れてこられたらしい。
怒りで目の前が真っ赤になった。
くそばっかりじゃねーか。
きっと、最初こそ適当にやってればいいと思ったのだろうが、勉強をさせられる内に不安になったのだろう。
誰も信用出来なくて、食事も不安で、でも誰にも頼れなくて。
もうおれだけしか信じられなくて、こんなに窶れてしまった。
おれにとってのジルのように、ティノは遥陽に何もしてくれなかったってことか。
きっと睨みつけると、また申し訳ないと頭を下げられた。
欲しいのはそんな言葉じゃないんだけど。
「遥陽が安心した生活が出来ないなら返して」
「……え」
「おれに返して。おれがちゃんとご飯食べさせて、ちゃんと寝かせる。遥陽に可哀想な生活させないで」
「それは……」
「触んないで!」
遥陽の髪に触れそうなティノの手を叩き落とす。
こいつ信用出来ない。こんなになるまで放っておくなんて。
舌噛んで死んでやると騒ぐまで放っておくなんて。
信じらんない。王子様がなんだ、人間の心がないのか。
「ふたりとも出てって」
「ユキ」
「遥陽が安心出来ないでしょ、出てって!」
ジルも纏めて出ていってと言ったものだから、ふたりとも真っ青だ。
今は言い訳なんて聞いてやらない。
「ユキ様」
「……アンヌさん」
扉からおずおず出てきたのはアンヌさんだった。
そうか、まだ明るいからアンヌさんもいたのか、と思うと、なんだかほっとして……ほっとして、泣いてしまった。
「ユキ」
「ユキ様」
「……スープ、美味しかったです」
「ええ……食べて頂けて嬉しいですわ」
「遥陽が起きたら遥陽にも作ってくれる?」
「ええ、ええ、幾らでも」
優しい声。今はそれが嬉しくて、頼りで、アンヌさんだけにいて欲しかった。
「……アンヌ、頼んでいいか」
「ええ、何が出来る訳ではございませんが、ユキ様が許して下さるのなら」
「ユキ、またちゃんと話をしよう」
「……」
答えられなかった。
ジルは悲しそうな顔をして、おれから空の食器を取ると、ティノを連れて部屋を出ていった。
「……さあ、ユキ様もおやすみになって」
「でも」
「私が見張ってますわ、ジル様でもお入れしません」
「……」
「お話は後でも出来ますからね、今はゆっくり休んで下さいな」
遥陽のお陰で躰は元気になった。
だけど、野菜たっぷりのスープでお腹も満たされて、お腹の中から温かくて、遥陽の体温も暖かくて、泣いたからかな、眠くもあって。
アンヌさんの優しい声と、暖かくて小さな手で頭を優しく撫でられて、睡魔が……
「おやすみなさい」
「おやすみ、なさい……」
だめだ、舌が回らない。
瞼が重くなって、おれも遥陽を抱き締めたまま、落ちてしまった。
そろそろとジルが声を掛けてきた。一応気まずさがあるらしい。
そりゃそうだ、数日戦争のようだったから。
ジルのこと、ずっと無視してたもんね、ガキくさいかもしれないけど、言葉で勝てる気もしなくて。
まだ怒ってるよ、だって結局おれの作戦勝ちだもん。
体調不良で神子様呼び出し作戦成功だもん。
ジルがお膳立てしてくれた訳じゃないもん。
でも結局、ジルが動いてくれたから遥陽が来てくれた訳で。
その分位は感謝してる。
でも王太子だって黙ってたのも、積極的に動いてくれなかったのもまだ本当に怒ってる。
……優しくして貰ってると思ってたのに、そうじゃなかったからかな。
「これ……」
「スープだ」
「もう食べられるか?」
「……うん」
さっきのお腹の音をばっちり聞かれてたのを思い出して、なんかちょっと恥ずかしい。
零さないように両手で受け取り、ありがと、と言うと驚いた顔をする。
失礼な、ちゃんとお礼位言えます。
「あったかい」
水くらいしか口にしてなかったから、優しい味のスープが沁みる。
断食状態の躰に固形物は流石に不味いだろうから、スープで慣らして……明日は普通のご飯食べれるかなあ、なんて呑気なことを考えてしまう。
抱きついたまま寝てる遥陽に零すことがないように気を付けながらスプーンを口に運ぶ。美味しい。
起きたら遥陽も食べないかな、やっぱりこの感じ、寝てないだけじゃないと思うんだ。
食事もそんなにしてないんじゃないかな。
「……すまなかった」
「え」
「もっと早く会わせることが出来たら良かった」
謝ってくるジルに、いいよなんて素直に言えなくて、ほんとですよと嫌味を言ってしまう。
困ったような顔をするジルを見て溜飲を下げようとするけど、なんだかもやもやは取れなくて、視線を逸らす。
何でだろ、やっぱりショックだったのかな。
ジルにはもっと、おれを優先してもらいたかったのかな。
そんなの普通に考えたら無理だってわかることなのに。
「私からも……申し訳ない」
「……」
もうひとりの方からも謝られる。自己紹介すらまだだってのに先に謝られるってなんなんだろう。
「おれもですけど……でも遥陽がこんなになってる説明の方が聞きたいです」
「それは……」
言い淀むジルを抑えて、遠目だと白髪だと思ってた、シルバーの髪の男が喋りだした。
彼はティノ、第二王子とのことだった。
ジルがこちらにばかり来るからか、ティノが遥陽のとこにはよく行ってたらしい。
なんだ?つまりティノが原因ってことか?
ついつい目付きが悪くなってしまう。
遥陽がこっちに来て、おれと引き離されて、基本的には勉強ばかりだったという。
神子様として、力の使い方、国のことなんかを教えられ、たまに騎士団の方へ出向き、実際に怪我した団員で練習していたとか。
最初こそおれを人質としてとられてるからか、嫌々ながらもやっていたが、段々食事も摂らず、口数も少なくなり、おれに会わせてほしいと言う回数も増えた。
それでも許して貰えなかったところでのあの式典だ。
その後おれの話を聞き、治させてほしいと懇願したが受け入れて貰えず、とうとうおれに会わせなきゃ舌を噛んで死んでやるとまで騒ぎ出した為、今回連れてこられたらしい。
怒りで目の前が真っ赤になった。
くそばっかりじゃねーか。
きっと、最初こそ適当にやってればいいと思ったのだろうが、勉強をさせられる内に不安になったのだろう。
誰も信用出来なくて、食事も不安で、でも誰にも頼れなくて。
もうおれだけしか信じられなくて、こんなに窶れてしまった。
おれにとってのジルのように、ティノは遥陽に何もしてくれなかったってことか。
きっと睨みつけると、また申し訳ないと頭を下げられた。
欲しいのはそんな言葉じゃないんだけど。
「遥陽が安心した生活が出来ないなら返して」
「……え」
「おれに返して。おれがちゃんとご飯食べさせて、ちゃんと寝かせる。遥陽に可哀想な生活させないで」
「それは……」
「触んないで!」
遥陽の髪に触れそうなティノの手を叩き落とす。
こいつ信用出来ない。こんなになるまで放っておくなんて。
舌噛んで死んでやると騒ぐまで放っておくなんて。
信じらんない。王子様がなんだ、人間の心がないのか。
「ふたりとも出てって」
「ユキ」
「遥陽が安心出来ないでしょ、出てって!」
ジルも纏めて出ていってと言ったものだから、ふたりとも真っ青だ。
今は言い訳なんて聞いてやらない。
「ユキ様」
「……アンヌさん」
扉からおずおず出てきたのはアンヌさんだった。
そうか、まだ明るいからアンヌさんもいたのか、と思うと、なんだかほっとして……ほっとして、泣いてしまった。
「ユキ」
「ユキ様」
「……スープ、美味しかったです」
「ええ……食べて頂けて嬉しいですわ」
「遥陽が起きたら遥陽にも作ってくれる?」
「ええ、ええ、幾らでも」
優しい声。今はそれが嬉しくて、頼りで、アンヌさんだけにいて欲しかった。
「……アンヌ、頼んでいいか」
「ええ、何が出来る訳ではございませんが、ユキ様が許して下さるのなら」
「ユキ、またちゃんと話をしよう」
「……」
答えられなかった。
ジルは悲しそうな顔をして、おれから空の食器を取ると、ティノを連れて部屋を出ていった。
「……さあ、ユキ様もおやすみになって」
「でも」
「私が見張ってますわ、ジル様でもお入れしません」
「……」
「お話は後でも出来ますからね、今はゆっくり休んで下さいな」
遥陽のお陰で躰は元気になった。
だけど、野菜たっぷりのスープでお腹も満たされて、お腹の中から温かくて、遥陽の体温も暖かくて、泣いたからかな、眠くもあって。
アンヌさんの優しい声と、暖かくて小さな手で頭を優しく撫でられて、睡魔が……
「おやすみなさい」
「おやすみ、なさい……」
だめだ、舌が回らない。
瞼が重くなって、おれも遥陽を抱き締めたまま、落ちてしまった。
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