【完結】召喚失敗された彼がしあわせになるまで

鯖猫ちかこ

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「え、なんて」

 今ちゅうって言った?
 鼠の鳴き声とか、そんなボケじゃなくて、その、キスのことでいいのか?
 え?おれと?
 まじで?
 動揺が隠せなくて、ジル達を見る。ふたりともぽかんとしていた。
 どうやらふたりにも同じように聞こえたようだ。

「ちゅう?」
「うん……」
「ちゅうって、あのちゅう?」
「うん」

 自分でも何訊いてんだ、と思った。だってこの空気の中出てくる単語じゃなくない?嫌とか、そんなんじゃなくて。

「えっと」
「……優希のそれがただの風邪なのか、流行病とか、疲れからきてるのか、呪いかとかわからない」
「えっ呪い」

 そんなパターンまであるの?怪我とか病気とか以外に?
 そんで、遥陽はそんな勉強までしてんの?こわすぎない?

「だから、これが確実で……」
「ちゅーすんのが?」

 こくりと頷く。
 だから、嫌じゃない、嫌じゃないよ、でもなんでキス?
 確実じゃなくても他の方法で先に試してみてもいいんじゃないのかな。

「……優希が嫌なら、しない」
「おれは……別に、っていうか、遥陽の方が」
「僕は優希がいい」
「えっ」

 告白されたのかと思ってしまった。
 そんな訳はないのに。何か理由がある筈なのに。

「待って待って待って、遥陽そんなキャラじゃなかったじゃん、ちょっと待って、おれ今頭働いてないから、だからもうちょいわかりやすくお願い」
「……うん」

 じっとおれの瞳を見て、また視線を逸らして、おれの手を握って、ぽつりと口を開く。

「た、たいえきが」
「たいえき」
「……その、効果が、強いらしくて」
「たいえきがこうかが」

 そこまで口にして、体液だと気付いた。
 体液。

「は……?」
「悪用しないとは言ってたけど、もし、この先、その、そんなことがあったら……しないでいいとは言ってたけど、多分実際は嫌とか言う暇もないんじゃないかって……だから」
「だから……?」
「最初は、優希がいい……」

 神子様だから大事に扱われてるんだと思ってた。
 そんなに、思い詰めたような、こんな哀しい顔をすることはないと思ってた。
 思ってたよりもずっと、この世界はおかしいのかもしれない。

「だめなら」
「いいよ」
「え……」
「遥陽だもん、おれは大丈夫!」
「優希……」
「そうだよね、変な奴とか、そんな訳のわからん奴相手とかだったら治す目的でもやっぱやだよな、てかそういうの、ほんとにしなくていんだよ、おれ、遥陽の力とかよくわかってないけど、でもそんな、体液……使うとか、そこまでしなくていいと思う」
「ゆき……」
「でも最初はもうおれで済ましちゃお、ね!」

 目を真っ赤にして泣く遥陽の肩を抱く。大丈夫。全然出来る。嫌悪感なんてない。かわいい。よし。大丈夫。
 大丈夫だけど、経験値的には大丈夫じゃあない。
 体液ってことは、ちょっと唇を当てるだけじゃ駄目だよね、舌……所謂ディープキスってやつだよね……
 どうしよう、普通のキスすらしたことないおれに、さらっとそんなことが出来るのだろうか。

「……優希、目を瞑ってて」
「え」

 遥陽の綺麗な顔が近い。
 ふわふわの茶色い髪に、大きなぱっちりした瞳。今は隈がすごいけど、窶れた疲れてる顔だけど、相変わらず天使みたいだ。
 その大きな瞳が伏し目がちになって、長い睫毛が影を作り、あ、綺麗だな、と思った所で真っ暗になった。

「ん……」
「ぅ、ン、んん」

 少しかさついた、でも柔らかい唇。
 ほんの少し、本当にほんの少しだけ入った熱い舌。
 ちょっとした罪悪感。

「……大丈夫?」
「だいじょぶ……あ、なんか、元気になった気がする」
「良かった……」

 そこでくるるとお腹が鳴った。コントか。
 慌てたように、ジルがアンヌさんを呼ぶ声がする。
 躰のだるさはどっかに行って、今あるのは空腹だけ。
 もしかしたらやっぱり何か違う要因で躰を壊してたりしたのかなってくらい、軽くなった気がする。
 そんなおれとは違い、遥陽が体調が悪そうだ。
 なんで?力を使ったから?まさかおれの体調不良がうつった?そんなことある?
 遥陽の力を詳しく知らないから、ただおろおろするしか出来なくて、ジル達に救いを求めてしまう。
 でも、ジル達が動く前に遥陽に止められた。

「ごめん、違うの、これは……優希のせいとかじゃなくて……優希に力を使ったから疲れたとかでもなくて……ただ、普通に、疲れてて……あんまり、ちゃんと、寝られなくて」
「遥陽……」
「久しぶりに優希と会えて安心しちゃったのかな……今、すっごい眠くて……でも、ひとりじゃなくて、このまま……このまま、寝ていい……?」

 肩に凭れ掛かっていう遥陽に、いいよ、としか言えない。
 ただそのままの姿勢だとちゃんと眠れなさそうだから、ちゃんと横になるように促すと、遥陽の頭も回ってないのかもしれない、腕はおれの腰に回したまま、横になってすぐ目を閉じてしまった。
 布団を引き上げて、遥陽に掛けてやる。
 ぽんぽんと遥陽の頭を撫でていると、すぐに穏やかな寝息が聞こえてきた。

 遅くなってごめん、格好良く助けられなくてごめん。

 そう思いながら、遥陽の寝顔を見ていた。
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