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「ユキ様、少しでいいから何かお口に……」
「ごめん、いらない、ごめんなさい」
「ユキ様……」
アンヌさんがおろおろしている。申し訳ないと思う、おれの意地に付き合わせてしまって。
おれの思いついた考えは、自分が体調不良になる!だった。
倒れるくらい体調が悪くなれば、遥陽を呼んでもらえないかな、と。
結局ジルなり誰かに話が伝わって呼んでもらわないといけないし、そもそもモーリスさんなりアンヌさんなりにジルに伝えてもらわないといけないという、まさに他力本願なものだ。
あれだけジルに文句言って、期待しないなんて暴言吐いて、その癖考えついたのがこれ。
しかもおれなんか、回復させる必要なし、勝手に倒れてろと判断されるかもしれない。博打である。
でも、遥陽の耳に届いたら、絶対遥陽は行くって言ってくれる。それが許されるかはわからないけど。
もうひとつ心配なのは、所謂馬鹿は風邪ひかないというやつなのか、元々そんなに体調を崩すタイプではないということ。
どうやれば体調悪くなるというのだ、そんな簡単に熱が出せれば、今までサボり放題できたはずだ。
試しに水を頭から被ってみたんだけど割と平気だった。
なので、おれは食事を摂らないことを選んだ。
お腹は空くし、作ってくれたアンヌさんたちには悪いんだけど、こっちの方がおれにとっては確実かなって思って。
馬鹿正直にわざと食べないとは言えず、食欲がないと断り続けた。
案の定少し窶れてきて、体力もなくなって、アンヌさんもモーリスさんも……扉の外からジルもお願いだから食べてくれって懇願されたけど、でもそれをされればされる程、周りからも体調悪く見えてるんだな、と変な自信に繋がってしまった。
本当はちょっと、皆やジルに八つ当たりしてるってわかってるんだ。特にジルには酷いこと言ってるって。
でも第一王子なのに、って恨んでるのも本当で、何も出来ない自分にも苛立って、そんな自分が誤召喚されたのにも腹が立つ。
食べてないから頭も回らなくて、どんどんどんどん思考力が下がってるのもわかる。
ずっとずっとベッドに横になってて、口を開けば遥陽に会いたい、しか言わなかった。
どんどん寝てる時間が長くなって、おれなんでここにいるんだっけ、って思って、ただの穀潰しだなあ、って乾いた笑いが出て、また目を閉じて、これが夢ならいいのに、と泣いてしまった。
自分に出来ることが少なすぎて、馬鹿みたいで、自分に自信がなくなって、おれなんて消えてしまった方がいいのかもしれないなって、ああ、おれ、元気なのが取り柄だと思ってたけど、心が弱ってしまうことって意外と簡単にあるんだなって……
◇◇◇
「優希、優希……ねえ、ゆき……起きて、ねえ」
遥陽の声がする。
とうとう夢にも出てきちゃった。現実で出ないと意味ないのに。
「……優希、起きれない?元気ない?そんなに体調悪いの?」
「……ほんもの?」
「そうだよ、本物」
遥陽の華奢な手がおれの頭を撫でた。
……本物。ああやっぱり、窶れてしまってる。
この為に食事を抜いたおれの為に来てくれた遥陽も体調が悪そうで、思わず抱き締めてしまった。
「……っ」
声を詰まらせて、遥陽もおれにしがみついてくる。
ごめんね、ごめん、ごめんね、と小さい声で謝ってくる。
なんで。遥陽が謝ることじゃないのに。ただの被害者なのに。
「うっ、ぼ、僕のせいで、ごめっ、ごめんね、僕が……手、掴んじゃったから……」
「遥陽のせいじゃないじゃん……おれだって手ェ伸ばしたし、手を掴んだのはおれだよ」
「……来るの遅くなってごめん」
いいよ、と遥陽の背中を撫でる。
前に抱きついたことがある訳じゃない。だけどやっぱり、細くなったな、って思った。今はおれもなんだけど。
視線を横に逸らすと、扉のとこにジルと知らないひとがいた。
もう覚えてないし、そもそも顔がちゃんと見えなかったけど、多分式典の時にジルの横にいた……第二だか第三だかわからないけど王子だろう。あんな髪色だった気がする。
視線が合ったジルは、暗い顔をしていた。それどういう表情?
でも遥陽をここに連れてきてくれた。
聞こえたかどうかはわからない、ありがとう、と言った声が、思ったより小さかったから。
「体調悪いって、風邪とか?優希、風邪ひかないよね」
「はは……」
ずっと鼻を啜りながら遥陽が訊く。
遥陽だけならともかく、ジル達がいる手前、ただわざとご飯食べてないだけです、と言えず誤魔化してしまう。
「ごめん、僕、治せるとはいっても、原因とか、わからなくて……」
「でも治せるんだ」
「……うん、練習させられてるから」
「……」
ご飯食べてないだけでもどうにかなるのだろうか。
空腹は変わらないけど栄養が足りない所が補給されるとか?
まあなにか悪いことがある訳ではないだろうけど。
「どうやって治すの?なんか、魔法がぱーってなるの?」
「……ゆき」
「うん?」
「一生のお願い、使っていい?」
「え」
「……その、えっと」
「なになに」
「……ちゅうしていい?」
予想もしてなかった言葉に、時が止まった。
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