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息を整えながら塔を見上げる。
しまった、近くに来すぎて、逆になんも見えない。
後ろに下がるとモーリスさんにぶつかる。
「モーリスさん」
「背負いませんよ」
「だって全然見えない」
「近過ぎるんですよ、背負ったら目立ちすぎるので駄目です」
「肩車じゃなくておんぶでいいから!おんぶ!」
「駄目です」
「けちー」
背中でぐいぐいモーリスさんを押しながら後ろに下がっていく。
んー、端っこまで来てくれたら見えるんだけど、この位置じゃ誰も見えない。
けちとは言ってみたけど、肩車されたって見えないんじゃないかな。
遠くだと顔は見えないし声は聞こえないし、近くでも姿が見えないなんて。難しい。
ただ、周りの人の声はよく聞こえる。
神子様ありがたいだの王子格好良いだの王女かわいいだの。
今は隠れてて見えない神子様だけど、フード取ったら超かわいいんだからな!と謎の優越感で見上げる。
まあやっぱり見えないんですけど。
「この式典ってもうすぐ終わります?」
「挨拶だけですからね」
「じゃあ終わっちゃうじゃん、やっぱりおんぶして!」
「あっユキ様、よじ登らない!子供ですか!」
後でちゃんと謝るから!このチャンスを逃してなるものか!とモーリスの背中にジャンプしてると、ざわざわしたひとの声の中に、ゆき、とか細く呼ぶ声がした。
「……遥陽」
「優希」
真上から、覗き込むように見下ろす影。
おれの声が聞こえたのか、遥陽が泣きそうな顔でこっちを見ていた。
やっぱり痩せた、頬が痩けた気がする。声が元気ない。
「優希、優希、大丈夫だった……?」
「大丈夫!大丈夫だよ!」
そこでモーリスさんに口を塞がれ、そのまま抱えて走られた。
「んっ、ん──!?」
「優希!」
「目立ち過ぎちゃ駄目って言ったでしょ!」
鍛えられた躰にはおれくらい軽かったのかもしれない。
遥陽の声が遠くなる、すぐに聞こえなくなった。
人目のつかないところに隠れるように連れていかれ、何かあってからじゃ遅いんですよ、と怒られた。
でもそんなの正直どうでもよくて、おれが召喚の失敗作なのがバレようが、不吉な黒髪がバレようが、そんなのより、そんなのよりも、あの遥陽の顔が頭から離れない。
不安そうだった、でもおれをみて、少し安心したような表情にもなった。
おれの声に気付いてくれた、姿は見えなかっただろうに。
ひとりで不安なんだ、おれがジルたちに守られてるように、遥陽にも安心出来るひとはいる?
すぐに行ってあげたい、大丈夫だよ、おれは一緒だよって。
「……」
「……泣かないで下さい」
「泣いてないっ……」
「……帰りましょうか」
「……遥陽のとこ、行きたい」
モーリスさんに言ったって仕方ないのに。わかってるのに。
駄々っ子みたいなことを言ってしまう。
モーリスさんも多分それがわかってるから、無言でおれを引いて連れて帰ってくれた。
ジルにお願いしよう、土下座したっていい。
お願いしてお願いして、遥陽に会わせて下さいって。
◇◇◇
「なんでだめなんですかあ!」
「いや、駄目とは言ってないが」
「そうやって濁すのは絶対会わせてくれないやつじゃないですか!」
土下座してもお願いしようと思ってたのにぶち切れてしまった。
夜、いつものようにきてくれたジルに、遥陽の話をして、心配だから少しでもいいからと頼んでみた。
曖昧に、その内、とか言うものだから、いつになるか、明日でも今からでもいいから会いたいというおれに、歯切れの悪い返事を返してくる。そりゃあぶち切れるってもんだ。
「ていうか!おれ、第一王子とか聞いてないんですけど!」
「わざわざ言うのもおかしいだろう」
「第一王子とか言わない方がおかしいでしょ!つーか第一王子なのになんでそれくらいしてくれないんですかあ!」
別に逃げる手伝いをしろとか言ってる訳じゃない、会ってお互い安心したいだけなのに。
「……会いたいだけなのに」
「……申し訳ない、色々……あって」
「お役所仕事め……」
「オヤクショ……?」
「……もういいです」
「ユキ……」
「もういいです、自分で会いに行く」
「無理に決まってるだろう」
そう断言されて、頭に来た。
無理だって?そうでしょうね!見張りがあちこちいますもんね!
仮にお城に潜り込めたとして、あの広さから遥陽の部屋を見つけるまでに捕まるでしょうね!下手したら殺されるかもしれないですね!
でも仕方ないじゃん、誰も手伝ってくれないなら、ひとりでどうにかするしかないじゃん、いい考えなんてなんにもないけど!
「もうやだ!ジルのこと信じたおれが馬鹿だった!もういいです、もう期待しないです、もういいです!」
「ユキ」
「来てくれてありがとうございました!おやすみなさい!さよなら!」
ベッドに頭まで潜り込んで怒鳴るように言う。
戸惑うように、一緒にいなくていいのか訊くジルに、モーリスさんが泊まってくれるから大丈夫です!と言い返す。
えっ俺?と巻き込まれたモーリスさんが素っ頓狂な声を出したのが聞こえたけどごめん、もうおれ止まらないんだ。
「……モーリスが隣の部屋に泊まると?」
「……だからジルは帰って大丈夫です」
はあ、と溜息が聞こえて、ちょっとこわかった、けど、謝ったりはしなかった。
モーリスさんとジルが何か話してる声がする。内容は聞き取れないけど。
でもおれはこの不貞腐れた態度を改めることが出来なかった。
しまった、近くに来すぎて、逆になんも見えない。
後ろに下がるとモーリスさんにぶつかる。
「モーリスさん」
「背負いませんよ」
「だって全然見えない」
「近過ぎるんですよ、背負ったら目立ちすぎるので駄目です」
「肩車じゃなくておんぶでいいから!おんぶ!」
「駄目です」
「けちー」
背中でぐいぐいモーリスさんを押しながら後ろに下がっていく。
んー、端っこまで来てくれたら見えるんだけど、この位置じゃ誰も見えない。
けちとは言ってみたけど、肩車されたって見えないんじゃないかな。
遠くだと顔は見えないし声は聞こえないし、近くでも姿が見えないなんて。難しい。
ただ、周りの人の声はよく聞こえる。
神子様ありがたいだの王子格好良いだの王女かわいいだの。
今は隠れてて見えない神子様だけど、フード取ったら超かわいいんだからな!と謎の優越感で見上げる。
まあやっぱり見えないんですけど。
「この式典ってもうすぐ終わります?」
「挨拶だけですからね」
「じゃあ終わっちゃうじゃん、やっぱりおんぶして!」
「あっユキ様、よじ登らない!子供ですか!」
後でちゃんと謝るから!このチャンスを逃してなるものか!とモーリスの背中にジャンプしてると、ざわざわしたひとの声の中に、ゆき、とか細く呼ぶ声がした。
「……遥陽」
「優希」
真上から、覗き込むように見下ろす影。
おれの声が聞こえたのか、遥陽が泣きそうな顔でこっちを見ていた。
やっぱり痩せた、頬が痩けた気がする。声が元気ない。
「優希、優希、大丈夫だった……?」
「大丈夫!大丈夫だよ!」
そこでモーリスさんに口を塞がれ、そのまま抱えて走られた。
「んっ、ん──!?」
「優希!」
「目立ち過ぎちゃ駄目って言ったでしょ!」
鍛えられた躰にはおれくらい軽かったのかもしれない。
遥陽の声が遠くなる、すぐに聞こえなくなった。
人目のつかないところに隠れるように連れていかれ、何かあってからじゃ遅いんですよ、と怒られた。
でもそんなの正直どうでもよくて、おれが召喚の失敗作なのがバレようが、不吉な黒髪がバレようが、そんなのより、そんなのよりも、あの遥陽の顔が頭から離れない。
不安そうだった、でもおれをみて、少し安心したような表情にもなった。
おれの声に気付いてくれた、姿は見えなかっただろうに。
ひとりで不安なんだ、おれがジルたちに守られてるように、遥陽にも安心出来るひとはいる?
すぐに行ってあげたい、大丈夫だよ、おれは一緒だよって。
「……」
「……泣かないで下さい」
「泣いてないっ……」
「……帰りましょうか」
「……遥陽のとこ、行きたい」
モーリスさんに言ったって仕方ないのに。わかってるのに。
駄々っ子みたいなことを言ってしまう。
モーリスさんも多分それがわかってるから、無言でおれを引いて連れて帰ってくれた。
ジルにお願いしよう、土下座したっていい。
お願いしてお願いして、遥陽に会わせて下さいって。
◇◇◇
「なんでだめなんですかあ!」
「いや、駄目とは言ってないが」
「そうやって濁すのは絶対会わせてくれないやつじゃないですか!」
土下座してもお願いしようと思ってたのにぶち切れてしまった。
夜、いつものようにきてくれたジルに、遥陽の話をして、心配だから少しでもいいからと頼んでみた。
曖昧に、その内、とか言うものだから、いつになるか、明日でも今からでもいいから会いたいというおれに、歯切れの悪い返事を返してくる。そりゃあぶち切れるってもんだ。
「ていうか!おれ、第一王子とか聞いてないんですけど!」
「わざわざ言うのもおかしいだろう」
「第一王子とか言わない方がおかしいでしょ!つーか第一王子なのになんでそれくらいしてくれないんですかあ!」
別に逃げる手伝いをしろとか言ってる訳じゃない、会ってお互い安心したいだけなのに。
「……会いたいだけなのに」
「……申し訳ない、色々……あって」
「お役所仕事め……」
「オヤクショ……?」
「……もういいです」
「ユキ……」
「もういいです、自分で会いに行く」
「無理に決まってるだろう」
そう断言されて、頭に来た。
無理だって?そうでしょうね!見張りがあちこちいますもんね!
仮にお城に潜り込めたとして、あの広さから遥陽の部屋を見つけるまでに捕まるでしょうね!下手したら殺されるかもしれないですね!
でも仕方ないじゃん、誰も手伝ってくれないなら、ひとりでどうにかするしかないじゃん、いい考えなんてなんにもないけど!
「もうやだ!ジルのこと信じたおれが馬鹿だった!もういいです、もう期待しないです、もういいです!」
「ユキ」
「来てくれてありがとうございました!おやすみなさい!さよなら!」
ベッドに頭まで潜り込んで怒鳴るように言う。
戸惑うように、一緒にいなくていいのか訊くジルに、モーリスさんが泊まってくれるから大丈夫です!と言い返す。
えっ俺?と巻き込まれたモーリスさんが素っ頓狂な声を出したのが聞こえたけどごめん、もうおれ止まらないんだ。
「……モーリスが隣の部屋に泊まると?」
「……だからジルは帰って大丈夫です」
はあ、と溜息が聞こえて、ちょっとこわかった、けど、謝ったりはしなかった。
モーリスさんとジルが何か話してる声がする。内容は聞き取れないけど。
でもおれはこの不貞腐れた態度を改めることが出来なかった。
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