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気が付けば、さっきまでびびってた癖に、安心してぶらついてることに気付いた。
モーリスさんを信頼してるのか、おれが単純なのか。多分どっちもだけど。
「一応注意はされてたんですけど」
「?」
「逃げようとしないもんですねえ」
「え、いやだって今から遥陽見るし……てか遥陽残して逃げたりはしないですよ」
「ハルヒ様が一緒だったら逃げるんですか?」
「うーん、どうだろ、逃げても知らない世界ではどうにもならなさそうだし……でも待遇やばそうなら逃げるかな」
「それ俺に言っていいんですか」
「モーリスさんだし……」
そうですか、と嬉しそうに笑うモーリスさん。
なんだかんだこの人、おれが逃げたいんだって打ち明けたら手伝ってくれそうな感じもしてきた。
今のとこその予定はないけどさ。
「始まりそうですね」
音楽が流れて、ざわざわし出す。モーリスさんが指さす方を見て、なるほどあそこから挨拶する訳ね、と納得した。
漫画とかでみたことあるぞ、高いとこから挨拶するやつ。それなら攻撃とかされにくいもんね。
「見えるかなあ」
ひとがいるのは見えるんだけど、遠くて表情までは見えなさそう。
マイクみたいなものがある世界でもなさそうだし、声も聞こえなさそうだ、遥陽は声張るタイプじゃないし。
「まあ今日は確認出来るくらいでいいんじゃないですか」
「うん……でもいつか会わせて貰えるかな」
「後で一緒にお願いしてみましょう、ジル様に」
「前お願いした時歯切れ悪かったんだよなあ……」
期待と不安が混じる。どうにか出来ないってのはなんでこうももどかしいのか。
「あれ……いや、あの人は王様……と、王妃様?」
「そうです」
高そうな服を着てるのはわかるけど、案の定顔は見えない。
召喚された時、居たような気もするし……でも王妃様は居なかった気もする。
ううん、断定出来ない。
「あの後ろにいるのは?王子様とお姫様?」
「第一王子と第二王子と第三王子と王女様です」
同じく顔は見えない。
3人の王子は同じくらいだけど、王女様だけ小さい。末っ子王女か、さぞ可愛がられてることだろう。
「あのさ、顔がはっきり見えないから間違ってたらあれなんだけど」
「はい?」
「……あの金髪のひと、もしかしてジル」
「そうですよ」
なんで今更?という表情のモーリスさんに、開いた口が塞がらない。
聞いてない、聞いてないぞ王子とか聞いてない!
そりゃあ、多少は偉いひとなんだろうなとは思ったけど、王子なんて聞いてない!
「その、立ち位置的にジルって第一王子……」
「王太子様ですよ」
倒れそう。
おれはそんなひとに文句を言ったり一緒に寝たり、その、ちょっと、えっちなことをしてしまっ……
「……おれ首切られたりしない?」
「……召喚された方は肝が据わってるなと思ってました」
「知らないよお……王子とか知ってたらもっと敬語とか使ってたよお……」
幾らジルから要らないと言われたとはいえ、呼び捨てだったよお……
「まあジル様はそういうの気にされないので大丈夫でしょう」
「気にしろよお……いや気にされたら困るけどぉ……」
「ユキ様は気に入られてるので大丈夫ですよ」
「ううう、でもあとで謝ろ……てかなんで毎晩来てくれるんだろ」
「ですからユキ様はジル様のお気に入りですので」
「でもそれならモーリスさんとかにまたお願いするんじゃない?」
「まさか、あの時すごかったんですからね、止めて下さいよ」
「?」
「あ、あの方が神子様では?」
「!」
またモーリスさんに促されて見上げる。
おれみたいにフードを被った、小柄なひとがいる。
殆どフードで髪も顔も隠れてるけど……でも何となくわかる。
ずっと一緒にいたから。
遥陽だ。
あれはちゃんと遥陽だ。
痩せた?うん、なんか痩せた気がする、すっぽり頭と躰が覆われてて、はっきりは見えないけど……遠いし、でもなんか、その、ちょっと小さくなった気がする。
ご飯食べれてない?口に合わない?おれより大事にされてると思ってたけど勘違いだった?
おれのこと気にしてる?こわいこと、辛いことあった?
おれより繊細だから、おれにはわからないこといっぱいあるよね?
ちゃんと眠れてる?力のせいで酷使されたりしてない?
遥陽、遥陽、遥陽、ここからじゃなくて、ちゃんと声が聞きたい、話がしたい、安心したい、させたい。
何の力にもなれなくてごめん、ごめんね、足でまといでしかなくて、ごめん。
「遥陽……」
「あまり見えませんねえ」
「もっと近くに行ったらだめかな?」
「うーん、少しなら……でもあまり、ユキ様が目立つのは好ましくないですねえ」
「ちょっとなら!ちょっとならいいでしょ!ね!」
「あ、ちょっと……」
モーリスさんの腕を取って走り出す。
もうちょっとだけ、近くで見たい。
遥陽からおれに気付いて貰うのは難しいかもしれない、でも少し、声くらい、聞こえないかなって。
風でフードが飛んで脱げないよう、抑えながらモーリスさんも走る。
忘れてた、髪を見られたら目立つんだっけ。
フードを脱いで、遥陽に気付いて貰う……ってのはだめかな?
「ふぅ、は、うう、やっぱりおれも筋トレしなくちゃ……」
近くに着いた頃には息切れがすごい。隣のモーリスさんは全然落ち着いてるのに。
元々そんな運動なんてしてなかったけど、確かにここに来てから更に何もしてない。
部屋に籠って、偶に庭を散歩する程度だから。
モーリスさんを信頼してるのか、おれが単純なのか。多分どっちもだけど。
「一応注意はされてたんですけど」
「?」
「逃げようとしないもんですねえ」
「え、いやだって今から遥陽見るし……てか遥陽残して逃げたりはしないですよ」
「ハルヒ様が一緒だったら逃げるんですか?」
「うーん、どうだろ、逃げても知らない世界ではどうにもならなさそうだし……でも待遇やばそうなら逃げるかな」
「それ俺に言っていいんですか」
「モーリスさんだし……」
そうですか、と嬉しそうに笑うモーリスさん。
なんだかんだこの人、おれが逃げたいんだって打ち明けたら手伝ってくれそうな感じもしてきた。
今のとこその予定はないけどさ。
「始まりそうですね」
音楽が流れて、ざわざわし出す。モーリスさんが指さす方を見て、なるほどあそこから挨拶する訳ね、と納得した。
漫画とかでみたことあるぞ、高いとこから挨拶するやつ。それなら攻撃とかされにくいもんね。
「見えるかなあ」
ひとがいるのは見えるんだけど、遠くて表情までは見えなさそう。
マイクみたいなものがある世界でもなさそうだし、声も聞こえなさそうだ、遥陽は声張るタイプじゃないし。
「まあ今日は確認出来るくらいでいいんじゃないですか」
「うん……でもいつか会わせて貰えるかな」
「後で一緒にお願いしてみましょう、ジル様に」
「前お願いした時歯切れ悪かったんだよなあ……」
期待と不安が混じる。どうにか出来ないってのはなんでこうももどかしいのか。
「あれ……いや、あの人は王様……と、王妃様?」
「そうです」
高そうな服を着てるのはわかるけど、案の定顔は見えない。
召喚された時、居たような気もするし……でも王妃様は居なかった気もする。
ううん、断定出来ない。
「あの後ろにいるのは?王子様とお姫様?」
「第一王子と第二王子と第三王子と王女様です」
同じく顔は見えない。
3人の王子は同じくらいだけど、王女様だけ小さい。末っ子王女か、さぞ可愛がられてることだろう。
「あのさ、顔がはっきり見えないから間違ってたらあれなんだけど」
「はい?」
「……あの金髪のひと、もしかしてジル」
「そうですよ」
なんで今更?という表情のモーリスさんに、開いた口が塞がらない。
聞いてない、聞いてないぞ王子とか聞いてない!
そりゃあ、多少は偉いひとなんだろうなとは思ったけど、王子なんて聞いてない!
「その、立ち位置的にジルって第一王子……」
「王太子様ですよ」
倒れそう。
おれはそんなひとに文句を言ったり一緒に寝たり、その、ちょっと、えっちなことをしてしまっ……
「……おれ首切られたりしない?」
「……召喚された方は肝が据わってるなと思ってました」
「知らないよお……王子とか知ってたらもっと敬語とか使ってたよお……」
幾らジルから要らないと言われたとはいえ、呼び捨てだったよお……
「まあジル様はそういうの気にされないので大丈夫でしょう」
「気にしろよお……いや気にされたら困るけどぉ……」
「ユキ様は気に入られてるので大丈夫ですよ」
「ううう、でもあとで謝ろ……てかなんで毎晩来てくれるんだろ」
「ですからユキ様はジル様のお気に入りですので」
「でもそれならモーリスさんとかにまたお願いするんじゃない?」
「まさか、あの時すごかったんですからね、止めて下さいよ」
「?」
「あ、あの方が神子様では?」
「!」
またモーリスさんに促されて見上げる。
おれみたいにフードを被った、小柄なひとがいる。
殆どフードで髪も顔も隠れてるけど……でも何となくわかる。
ずっと一緒にいたから。
遥陽だ。
あれはちゃんと遥陽だ。
痩せた?うん、なんか痩せた気がする、すっぽり頭と躰が覆われてて、はっきりは見えないけど……遠いし、でもなんか、その、ちょっと小さくなった気がする。
ご飯食べれてない?口に合わない?おれより大事にされてると思ってたけど勘違いだった?
おれのこと気にしてる?こわいこと、辛いことあった?
おれより繊細だから、おれにはわからないこといっぱいあるよね?
ちゃんと眠れてる?力のせいで酷使されたりしてない?
遥陽、遥陽、遥陽、ここからじゃなくて、ちゃんと声が聞きたい、話がしたい、安心したい、させたい。
何の力にもなれなくてごめん、ごめんね、足でまといでしかなくて、ごめん。
「遥陽……」
「あまり見えませんねえ」
「もっと近くに行ったらだめかな?」
「うーん、少しなら……でもあまり、ユキ様が目立つのは好ましくないですねえ」
「ちょっとなら!ちょっとならいいでしょ!ね!」
「あ、ちょっと……」
モーリスさんの腕を取って走り出す。
もうちょっとだけ、近くで見たい。
遥陽からおれに気付いて貰うのは難しいかもしれない、でも少し、声くらい、聞こえないかなって。
風でフードが飛んで脱げないよう、抑えながらモーリスさんも走る。
忘れてた、髪を見られたら目立つんだっけ。
フードを脱いで、遥陽に気付いて貰う……ってのはだめかな?
「ふぅ、は、うう、やっぱりおれも筋トレしなくちゃ……」
近くに着いた頃には息切れがすごい。隣のモーリスさんは全然落ち着いてるのに。
元々そんな運動なんてしてなかったけど、確かにここに来てから更に何もしてない。
部屋に籠って、偶に庭を散歩する程度だから。
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