【完結】召喚失敗された彼がしあわせになるまで

鯖猫ちかこ

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 ◇◇◇

 その日はゆっくりお風呂に入って、アンヌさんの美味しい夕飯を食べて、ちょっと話をして、一緒にベッドに入った。
 夜、ジルが来るかなあと思ったけど来なかった。
 そういえば最近ジルと一緒に寝てない。おれが断ってたんだけど。
 遥陽の体温を感じながら、ジルとは全然違うな、と考える。
 こんなに華奢じゃなくて包み込まれるようで、もっと骨っぽくて。体温は遥陽の方が高い。ふわふわの猫っ毛はちょっと似てるかもしれない。でももっと、透けるようにきらきらしていて……

「なあに?」
「……あ、ごめん」

 じっと遥陽を見てしまっていたことを謝る。
 隣にいるのは遥陽なのに、なんでおれ、気がついたらジルのことばっかり考えてしまうんだろう。
 最初に優しくしてくれたから、最初にあんなことをしてきたひとだから、刷り込みのようにジルを追ってしまうんだろうか。

 正直、遥陽に慣れてしまったおれは面食いだと思う。
 クラスの女子より、大抵のアイドルなんかより、遥陽の方がかわいいじゃんと思っていたし、好みもあると思うんだけど、男性アイドルでさえ、遥陽の方が顔整ってるしな、なんて比べちゃってたから。
 なのにこの世界には綺麗な顔のひとがごろごろいるんだもん。
 勿論遥陽の顔の方が好みだったりするんだけど、きらきら度は負けてない。
 ジルもティノも、流石王子様って感じだし、なんならモーリスさんだってイケメンだ。
 アンヌさんも今だって綺麗だけど、若い頃はもっと綺麗だっただろうし、本当にただのメイドさん?実は愛人だったりしない?ってくらい、イレーヌさんもリンダさんも美人だ。
 ジルに似た、あの絵の女のひとも。
 おれだけ平凡かもしれない。
 逆にレアでは……
 そうか、物珍しいからこそジルはかわいいかわいい言うのかもしれない。なるほど謎が解けてしまった。

「何日こうしてられるかなあ」
「もうそろそろ呼び出されそう」
「……そんなに色々してたの?」
「うーん、勉強とかはまあ延ばしても大丈夫なんだろうけど。怪我とか病気なんかはね……ちょっと気になることもあるし」
「あっそうだ!」

 気になることと言えば、すっかり忘れていた、あの体液云々のやつを。
 体液云々ってこわくない?
 躰から出る液体って、唾液、涙、血、そういったものでしょ?他にもあるけど。
 ほんのちょっとの採血とかならわかるけど、日常的なら困るし、ほら、無理矢理唾液欲しさのキスとか、それ以上を狙われたり、それどころかどこかに監禁されて、殺さないように生かしながら毎日体液を摂取される……と思ったらこわくない?おぞましい。
 自分で考えついたことにぞわりとしてしまう。こわい。思いついてしまったのがこわい。
 だって遥陽には治す力はあっても戦う力はない訳で、そんなことされたらきっと逃げられない。

「うん、僕も同じようなことを思ったことがあって……ティノに訊いてみたんだけど。そうされないように守るとは言ってくれたんだけど、余計に監視がキツくなったかなあ」
「うえ、助かるけどそれもやだなあ」
「どこに行くにもティノが一緒だし、外にすら出して貰えないし、息が詰まっちゃうなって」

 全部が信じらんないような内容だ。いや、遥陽が嘘吐いてるとかそういうんじゃなくて。
 ずっと平和な中で生きてきて、急にそんなやばい世界で生きることになるとかわからないじゃないか。

 ……おれもあんな、熱いお茶を弾くような、訳のわからない力じゃなくて、遥陽を助けられる力があったら良かったのに。

「……一緒に逃げる?」
「え」
「今なら逃げられるよ、ここの金目のものちょっと持っていけばさ」
「……無理だよ、優希ここから出たことそんなにないでしょ、一応ここだって敷地内だよ」

 お城の。
 つまり見張りがごろごろいるってことだろう。
 だめかあ、と漏らすと、優希にはここにいてほしい、と呟かれた。
 でもそんな、おれだけ安全なところにいるなんて。
 ……これから先はどうなるのかわかんないけどさ。

「優希がここにいてくれたら僕も安心出来るし、ティノたちもたまにはここに来てもいいって言ったし、優希だって一緒にご飯食べて一緒に寝てくれるって言ったじゃん」
「……うん」
「そっちの方がやる気でる」
「……」
「そんな不満そうな顔しないでよ、嬉しいんだから」
「嬉しい?」
「うん、優希が僕のことを考えてくれたのが嬉しい。だから僕もまたここに来ていいんだなって思えたし」
「毎日でも来ていいよ!」

 遥陽の手をぎゅっと握る。
 細い指。こんなに小さかったっけ。
 泣きたくなる。
 こんなに強かったっけ。
 おれだけひとり、こどものままのようだ。

「優希」
「……」
「もう眠いかな」

 遥陽の問い掛けに、目を瞑って寝た振りをした。
 そんなおれの頭を軽く撫でて、やっぱり優希にはこのままでいて欲しい、と小さく小さく呟いて、おやすみ、と閉じた。

 このままでいていいのかな。もっとしないといけないことがあるんじゃないかな。世界を守るとか、そんなでっかいことじゃなくて。
 おれはこのままじゃおれだけしか守れないんじゃないかな。
 だいじな誰かを、守ることは出来ないのかな。

 何かが進展して、でも何かが後退していく。
 ままならない世界が酷くもどかしかった。
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