35 / 161
35
しおりを挟む
脱衣所で服を脱ぎながら、なんでこんなことに?と考える。
何か問題が?普通でしょう?という顔のジルに、恥ずかしいからやだ、を貫けなかった。
おれだって普通は気にしないよ、銭湯も温泉も普通に皆で入ってたよ、多分モーリスさんが一緒に入るとなってもここまで反対はしなかったよ、貧相な躰を恥ずかしいと思うことはあっても、こんな、ジルと入るのは恥ずかしいだなんて思うのは……
そりゃ、あんなことをしたからに決まってるじゃないか。
なのにジルはそんなこと一切なかったかのように振る舞うから、おれの夢かと思ったこともあるくらいだ。
でもあの時、次は、とか言ってた気がする。
貞操の危機である。
……やっぱり止めておくか。うん、一日くらいお風呂に入らなくたって死にはしない。
…………
「ユキ、そっちは出口だよ」
「……まちがえたァ」
がっしり肩を掴まれて、綺麗にしようね、と大きな浴槽に連行される。
せめてもの抵抗はタオルを巻くことだけ。
あとは出来るだけ早く洗って出ちゃおう。
そう思ってるのに、ジルが笑顔で躰を洗ってあげよう、とか言う。
首を傾げてしまう。このひとはほんとに国の第一王子なのだろうか。普通は王子様はそんなことしないのではないか。
なんかほら、イメージ的には、複数人の従者から躰を洗われるような、そんな感じの……
「自分で洗う……」
「この間はさせてくれたじゃない」
「……!」
あれは!躰が動かなくて!頭がぼおっとしてる間に綺麗にされただけ!
「ふつーは自分で洗うの!」
「それはそうだが」
「ジルは従者さんと入るの?洗ってもらうの?」
「俺はひとりがすきだな」
「おれもなの!」
「……迷惑だったかな」
「うぐ」
言葉に詰まる。長いきらきらした睫毛を伏せて、そんな悲しそうな顔して……そんな、そんな顔したって……か、顔が良い、ではなくて。
「か、からだは自分であらう……」
「髪ならいいってことかな」
ぱあっと嬉しそうに返してくる。いや別にいいとは言ってないんだけど。躰はだめって言っただけで。ポジティブだな。
……髪、髪かあ……髪なら、まあ……躰よりはその……自分でやりたいけど、まあ……髪なら……
「絶対頭だけだからね」
「わかった」
真面目な顔で頷く。こんな大きな図体してそんなかわいいことを。結構純粋なんだろうか。
ちょっと笑ってしまう。おれより大分おとなに見えるのに、たまに犬のように見えてしまう。
ところでここにはシャワーはあるけど、日本の銭湯のように椅子がある訳ではない。
シャワーも固定されている。つまり立ったまま洗われる訳なんだけど、それがまた結構気まずい。
ジルに背中を向けたまま洗って貰うんだけど、なんか思ってたのと違う。
……すっぽりジルに収まる形で髪を洗われている。
立ったままってなんか……なんか所在ない感じ。
耳元で痛くない?流すよ、なんて言われる度に、びく、としてしまう。
早く終わってほしい、これ、美容院で髪洗ってもらうときより、ぞわぞわして、やばい、反応しちゃいそう、やばい。
立ってるのがきつい。
なにも変なことなんてしてない、頭を触られてるだけなのに、自分だけが反応してるのが恥ずかしい。こんなことなら許さなきゃ良かった。
「終わったよ、目をあけて大丈夫」
「……ありがと」
「ふふ」
「なに、なんでわらうの」
「嫌がってた割にちゃんとお礼を言うんだと思って」
一応嫌がってたのをわかってはいるんだ。
後ろを振り向いて軽く睨むと、嬉しそうに微笑まれてしまった。……こんなことの何が楽しいんだろう。
でもあんまり嬉しそうにしているものだから、おれもなんかした方がいいのかな、と思って、おれも髪洗った方がいい?と訊くと、届かないだろうからいいよ、とか言う。流石に手ぐらい届く。
ただ、やりにくいのは目に見えてる。大人しく引っ込んで、ジルが自分で洗ってる内にこれ幸いと躰を洗ってしまう。
そしてさっさと上がろうとしたおれの腕を掴んで、早いよ、とにっこり笑うジル。水も滴るいい男である。
子供の頃、ちゃんとお風呂に肩まで浸からないと上がらせて貰えなかったことを思い出す。
逃げ出したい。だけどジルの瞳から逃げられない。
不思議なことに、ジルの綺麗な碧の瞳はおれの力も思考も奪っていく。魔法のよう。
手を引かれて浴槽に入る。
軽く泳げそうなくらい広いのに、ジルはべったりおれの真横だ。
ちょっと離れようかな、とお尻を浮かせても、笑顔で横についてくる。それを二回繰り返して諦めた。どうやら離れる気はないらしい。
……それにしても近い。肩が当たる。
ちら、と横を見て、少し溜息が出た。
王子様って、もっと細いのかと思っていた。室内に篭ってばかりのイメージで。
ジルも訓練か何かしてるのだろうか。モーリスさん達のように筋肉!って感じではないけど、それでも綺麗な躰をしている。
「何かある?」
「や……ジルも何か訓練かなにかしてるのかなって」
「たまに騎士団に混ぜて貰ってるかな」
「王子なのに?」
「自分の身とだいじな者を守れるくらいの力はなくちゃ」
「……そう」
一々笑顔を挟んでくるから、無駄にどきっとしてしまう。
直視出来なくて、またふいと視線を逸らしてしまった。
何か問題が?普通でしょう?という顔のジルに、恥ずかしいからやだ、を貫けなかった。
おれだって普通は気にしないよ、銭湯も温泉も普通に皆で入ってたよ、多分モーリスさんが一緒に入るとなってもここまで反対はしなかったよ、貧相な躰を恥ずかしいと思うことはあっても、こんな、ジルと入るのは恥ずかしいだなんて思うのは……
そりゃ、あんなことをしたからに決まってるじゃないか。
なのにジルはそんなこと一切なかったかのように振る舞うから、おれの夢かと思ったこともあるくらいだ。
でもあの時、次は、とか言ってた気がする。
貞操の危機である。
……やっぱり止めておくか。うん、一日くらいお風呂に入らなくたって死にはしない。
…………
「ユキ、そっちは出口だよ」
「……まちがえたァ」
がっしり肩を掴まれて、綺麗にしようね、と大きな浴槽に連行される。
せめてもの抵抗はタオルを巻くことだけ。
あとは出来るだけ早く洗って出ちゃおう。
そう思ってるのに、ジルが笑顔で躰を洗ってあげよう、とか言う。
首を傾げてしまう。このひとはほんとに国の第一王子なのだろうか。普通は王子様はそんなことしないのではないか。
なんかほら、イメージ的には、複数人の従者から躰を洗われるような、そんな感じの……
「自分で洗う……」
「この間はさせてくれたじゃない」
「……!」
あれは!躰が動かなくて!頭がぼおっとしてる間に綺麗にされただけ!
「ふつーは自分で洗うの!」
「それはそうだが」
「ジルは従者さんと入るの?洗ってもらうの?」
「俺はひとりがすきだな」
「おれもなの!」
「……迷惑だったかな」
「うぐ」
言葉に詰まる。長いきらきらした睫毛を伏せて、そんな悲しそうな顔して……そんな、そんな顔したって……か、顔が良い、ではなくて。
「か、からだは自分であらう……」
「髪ならいいってことかな」
ぱあっと嬉しそうに返してくる。いや別にいいとは言ってないんだけど。躰はだめって言っただけで。ポジティブだな。
……髪、髪かあ……髪なら、まあ……躰よりはその……自分でやりたいけど、まあ……髪なら……
「絶対頭だけだからね」
「わかった」
真面目な顔で頷く。こんな大きな図体してそんなかわいいことを。結構純粋なんだろうか。
ちょっと笑ってしまう。おれより大分おとなに見えるのに、たまに犬のように見えてしまう。
ところでここにはシャワーはあるけど、日本の銭湯のように椅子がある訳ではない。
シャワーも固定されている。つまり立ったまま洗われる訳なんだけど、それがまた結構気まずい。
ジルに背中を向けたまま洗って貰うんだけど、なんか思ってたのと違う。
……すっぽりジルに収まる形で髪を洗われている。
立ったままってなんか……なんか所在ない感じ。
耳元で痛くない?流すよ、なんて言われる度に、びく、としてしまう。
早く終わってほしい、これ、美容院で髪洗ってもらうときより、ぞわぞわして、やばい、反応しちゃいそう、やばい。
立ってるのがきつい。
なにも変なことなんてしてない、頭を触られてるだけなのに、自分だけが反応してるのが恥ずかしい。こんなことなら許さなきゃ良かった。
「終わったよ、目をあけて大丈夫」
「……ありがと」
「ふふ」
「なに、なんでわらうの」
「嫌がってた割にちゃんとお礼を言うんだと思って」
一応嫌がってたのをわかってはいるんだ。
後ろを振り向いて軽く睨むと、嬉しそうに微笑まれてしまった。……こんなことの何が楽しいんだろう。
でもあんまり嬉しそうにしているものだから、おれもなんかした方がいいのかな、と思って、おれも髪洗った方がいい?と訊くと、届かないだろうからいいよ、とか言う。流石に手ぐらい届く。
ただ、やりにくいのは目に見えてる。大人しく引っ込んで、ジルが自分で洗ってる内にこれ幸いと躰を洗ってしまう。
そしてさっさと上がろうとしたおれの腕を掴んで、早いよ、とにっこり笑うジル。水も滴るいい男である。
子供の頃、ちゃんとお風呂に肩まで浸からないと上がらせて貰えなかったことを思い出す。
逃げ出したい。だけどジルの瞳から逃げられない。
不思議なことに、ジルの綺麗な碧の瞳はおれの力も思考も奪っていく。魔法のよう。
手を引かれて浴槽に入る。
軽く泳げそうなくらい広いのに、ジルはべったりおれの真横だ。
ちょっと離れようかな、とお尻を浮かせても、笑顔で横についてくる。それを二回繰り返して諦めた。どうやら離れる気はないらしい。
……それにしても近い。肩が当たる。
ちら、と横を見て、少し溜息が出た。
王子様って、もっと細いのかと思っていた。室内に篭ってばかりのイメージで。
ジルも訓練か何かしてるのだろうか。モーリスさん達のように筋肉!って感じではないけど、それでも綺麗な躰をしている。
「何かある?」
「や……ジルも何か訓練かなにかしてるのかなって」
「たまに騎士団に混ぜて貰ってるかな」
「王子なのに?」
「自分の身とだいじな者を守れるくらいの力はなくちゃ」
「……そう」
一々笑顔を挟んでくるから、無駄にどきっとしてしまう。
直視出来なくて、またふいと視線を逸らしてしまった。
243
あなたにおすすめの小説
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる