【完結】召喚失敗された彼がしあわせになるまで

鯖猫ちかこ

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 瞳を背けてもわかる、きっとジルは笑顔でこっちを見てる。
 何でだろう、こんな面白味も何もない顔と躰。
 遥陽のような綺麗な顔も、女性のような柔らかな躰でもないのに。
 あああ、視線が痛い。おれだって容姿が優れてれば流せてたと思うけど、こんな綺麗なひとに見つめられる程良いものを持ってる訳ではないのをわかってる。わかってるから反応に困る。

「あっ……たまったからもうそろそろ出ようかな~」
「まだそんなに経ってないぞ」
「おれ長風呂派じゃないから~」

 じゃっ、お先に……と上がろうとしたところで、ユキと話がしたかったんだけどな、と言われて足が止まる。
 ……話とは。

「今までの神子について調べてみたんだ」
「……そんで?」

 遥陽の話は聞いておきたい。
 素直に湯船に戻ると、おれが視線を逸らさないからか、やっぱり嬉しそうにする。
 弟や妹までいて、おれみたいなのと話をしても面白くないだろうに。あれか、そんなに畏まって話さないからおもしれー奴、のやつか。

「やはりユキは異例だったな」

 あれ、遥陽じゃなくておれの話だった。
 それもすごく大切な話なことに変わりはないんだけど。

「紅茶を弾いただろう」
「うん」
「あれは恐らく熱いものからユキを守ったということだろう」
「まあ……うん」
「ハルヒが癒しの神子ならユキは護りの神子なのかもしれないな」
「……おれは神子様じゃなくない?」
「確かに今までの神子は癒しの神子しか現れなかった」
「じゃあやっぱおれ神子とは違うよ、なんかほら、違うやつだよ、違うやつ」

 そこを今調べてるところなんだ、とジル。
 この国では魔法が使えるのは基本王族だけだと聞いた。
 それ以外は稀だとも。だからない訳ではない。
 でも基本的に、そういうひとは王室に呼ばれて、王室関係の仕事に就くそう。横暴に思えるけど、そんな力を持ってしまった一般人からしたら、ある意味守られた職場なのだろう。

「じゃあおれもそういう仕事に就く訳か」
「待ってくれそんな話じゃない」
「え?」
「ユキにはここに居て貰いたい」
「アンヌさんたちのお手伝い?」
「違う違う」
「何の仕事?」
「ユキに仕事をさせるつもりはないよ」

 思わず顔を顰めたおれに、どういう顔、と訊いてくる。
 何言ってんだよって顔だよ。

「そんな訳にいかないでしょ、遥陽だって働いてるのに」
「ううん、ユキはここにいるだけで仕事になるんだよね」
「なに言いたいかわかんない」

 ちゃぷ、とお湯が揺れる。ジルが動いたからだ。
 おれの頬に触れて、まだ確定ではないんだけど、と穏やかな声で言う。近い。近い近い。

「まず召喚の儀式で複数人現れること自体が珍しいことでもあるんだけど。更に神子以外に力を持った者が現れた例もない。同じ癒しの力を持ってた例もない。ユキは異例中の異例なんだ」

 でしょうね。そうでもなきゃそんなにびっくりはされないだろうし。

「聞いただろう、神子の力は絶大だ、軽い治療が出来ても、それは医療レベルの傷や病気を早く直せる程度。例えば瀕死の者を救えるのが癒しの神子なんだ。場合によって時間は掛かっても治すことは出来る」
「うん」
「ユキの力はまだどれくらいのレベルかはわからないが、護りの力は見覚えがある。これも大体は戦なんかで軽い防御としてや、防具に魔力を込めたり、その程度なんだが」
「ほう……」

 なるほど、じゃあもしこの城から出ていくことになっても食いっぱぐれることはなさそうだ、どこかで仕事くらいみつかるだろう。

「もしかすると、ユキにはそれ以上の力があるんじゃないかと」
「まさか!……あ、遥陽と一緒に召喚されたから、おれにも遥陽くらいの力があると思われてるのかな、あれ、おれほんとに関係ないよ、近くにいたから遥陽を助けようと腕を伸ばしちゃっただけ」
「……今度ユキの力を鑑定してもいいかな」
「鑑定するひととかいんの?」

 すっげ、ゲームみたい、と呟いてしまった。そんなこと今更なのに。

「まあおれは……殺されたりとか迫害とかされなければ鑑定くらい……なんか人体実験とかしないよね?ジルも一緒?」
「勿論、その時は同行するよ」
「んー、じゃあいいよ、王子様が守ってくれたら変なことされないよね」
「ユキには傷一つ付けさせないよ」

 うーん、一々甘ったるい。
 これがジルの素なんだろうけど、色々なことが重なって、勘違いしそうになるから止めてほしい。

「でもそれがおれがここにいるのと何の繋がりが?」
「うん?ああ、この国を護ってほしくて」
「……は?」
「この国を」
「聞こえた聞こえた聞こえた、そうじゃなくて、国を護るって……」
「うん」
「そんな力おれにはないよ」
「だからそれを確認しにいこう」
「……どうすんの、おれの護れる力がすっごく範囲狭かったら」
「それなら王子を近くで護る仕事をしてもらおうかな」

 にっこり笑う。流石におれでもわかる。
 これは第二王子や第三王子のことではなく、ジルの近くにいろということ。
 頬が熱くなる。
 違う、また勘違いするところだった。そういう意味じゃない。言葉そのままだ、純粋に皇太子を危険から護れ、そういう意味だ。

「……ごめんね、話が長くなってしまって。湯あたりしそうだ、上がろうか」

 思ってたより大事になってるみたいで、頭の中でやべえやべえとぐるぐるしてる。
 ほんのちょっと、力があればいいのになって思っただけなのに。
 国を護るような力があっても困るけど、今更めちゃくちゃ弱かったりするのが発覚してもちょっと……
 ……ジルにがっかりされたく、ない。
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