【完結】召喚失敗された彼がしあわせになるまで

鯖猫ちかこ

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「ユキに触ってもいいかな」

 その意味にわからないと言える程鈍感ではなかった。
 ただ、いいよ言える程慣れてる訳でもなかった。
 嫌な訳でもない。ただ恥ずかしいだけ。

「だめって言ったら止めてくれるの?」
「……善処する」

 苦しそうに言うジルに笑っちゃった。
 だって顔に本当は触りたいって書いてある。
 おれなんか触ってもなんも楽しくないのに。お城には美人のメイドさんも、綺麗な貴族もいるだろうに。何が楽しくてこんな貧相な躰に触れたいと思うんだろうね。

「約束してくれたら考える」
「約束?」
「うん」
「……言ってみて」
「遥陽といつでも会えるようにしてくれることと、遥陽に無茶をさせないこと、それと、おれに嘘吐かないでほしい」
「嘘?」
「言えないこともあるのわかるよ、普通ならさっきの呪いの話とか……王族のだいじな話とか言えないよね、だから、言えないなら言えないでいいけど……や、遥陽のこととか、それでも言えよってこともあるけど。それとはまた別で……嘘吐かれるより、まだ言えないとか教えてほしい」
「……わかった」
「あと」
「あと?」
「……痛いのはやだよ」
「……!」

 負けた。ジルの熱っぽい視線に。
 どんな顔をするのかな、と思った。ぱあっと笑うのだろうか、照れたように笑うのだろうか、こいつ上からだなってちょっとむっとするのだろうか。
 全部違った。
 目を細めて、愛おしむような、穏やかな表情だった。
 ……本当に、おれでいいんだ、ジルは。
 おれなんかに、触りたいんだ、そんな顔をする程。

 触るというのが、今までみたいに頭を撫でたり、頬を撫でたりするだけじゃないってわかってる。
 この間みたいな、ちょっとえっちなことをして終わりじゃないってことも。
 男同士でも出来るって知ってる。ただそこに関しての知識は深くない。手元に検索出来るものもない。完全にジル頼りだ。
 それでもジルを信じて、この身を投げ出すしかない。
 でもこんな表情をするひとが、酷いことをする訳がないから……ただジルに腕を伸ばした。

「ありがとう」
「……お礼言われるとなんか恥ずかしい」
「一等丁寧に扱うよ」
「……うん」

 初夜みたいな甘い空気。間違ってないんだけど。
 そうだった、ジルは元々こういう空気を出す男だった。
 こういう空気、おれには合わないのに。気恥ずかしくなるだけなのに。
 でもそんなに全身でおれのことを求めてくれてるような、そんな空気を出されたら、その気になってしまう。

 ジルの薄い碧い瞳におれが映る。
 きらきらしてるのは長い、金の睫毛のせいだ。多分そのせいで、ジルの中で俺もきらきらしてるのかもしれない。

「ん……」

 また唇が重なった。
 今度は心の準備ができていた気がする。
 心臓はどきどきうるさいけど、大丈夫、今度は舐められても吸われてもびっくりして押し返さないくらいの経験値は積んだから。

「ふ、んぅ、ん、んん」

 ……こんなに長くされるのは想定外だったけど。
 言葉の通り、おれを触る手もとても優しいし、キスだって乱暴なものじゃない。
 さっきの食べられそうだと思ったものより、ずっと優しいと思う。でも長いと息が苦しい。
 ジルが切り上げてくれないなら自分から切り上げるしかない。

「んう」

 少し顔を背けると、つう、と糸が引いたのが見える。
 やらしいことをしていた証拠みたいで、耳が熱くなった。
 冷静になると、国の第一王子となんてことをしてるんだ、おれは。
 いやその第一王子が乗り気なんだけど。

「ごめん、苦しかった?」
「へたくそでごめん……」
「大丈夫、かわいい」
「……」

 それがいいか悪いかは、普通ならむかっとくるところなんだろうけど、ジルは多分悪い意味で言ってるんじゃないんだよな、このひと、そういう嫌味は言わないんだ、ちょっと意地悪する時はあるけど。

「脱がせていい?」
「えっ、あっえ、」

 ジルの手が裾にかかる。
 脱ぐのは恥ずかしい。でもゆっくりジルに脱がされるより、自分で潔く脱ぐ方がましだと思う。
 だから、自分で脱ぐ、と言ってしまった。
 それなのにおれの手を握って、ジルは俺が脱がせたいんだと言う。
 そんなこと言っちゃうの……

「……脱がせて楽しいもの?」
「楽しいよ、ユキにすることは、なんでも」
「……そう」

 もうここまで来ると呆れも入ってくるかもしれない。
 嬉しそうに楽しそうに言うジルに反論する気も起きず、どうぞ、と委ねた。
 上着を剥がされ、下も剥がされ、あっという間に全裸だ。
 相手はまだちゃんと服を着てる中、自分だけ脱がされるのは恥ずかしい。
 でもジルを脱がすのも、脱いでというのも恥ずかしくて、それに、脱がれたところでまたどこを見ていいか困っちゃうからそのままでいい。お風呂で見たけど。

「ユキ、手を退けて」
「や、やだ」
「まだ恥ずかしいの?」
「恥ずかしいに決まってんじゃん……」
「綺麗だよ」
「……!」

 歯の浮くような甘い台詞に余計躰を隠したくなる。
 貧相だってわかってる。厚みのあるモーリスさんみたいな鍛えた躰でも、均整の取れた綺麗なジルの躰でもなければ、華奢な女の子の躰でも、色っぽい柔らかさのある女性の躰でもない。
 がりがりに近い、痩せた薄い躰だ。
 どこも綺麗じゃないっていうのに。
 ……もっとちゃんと食事摂らなきゃ。
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