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「あまり俺がキャロルと過ごすのを良しとしないひともいるからね」
「あ……でもうつったりとか、しないもんでしょ」
「頭が固いというか、融通が利かないひとは一定数いるものだよ」
王太子と呪われた王女っていうところが難しいのかな、本人たちはそういうものでないってわかってるし、あんなに仲良さそうなのに。
やっぱり面倒くさい、こんな世界。
「でも嬉しいよ、ユキが気にしてくれて」
「……そりゃ気になるよ、おれ、なんも出来ないけどさ、でもキャロルが寂しいっていうなら、やっぱりジルは帰って……」
「ユキ」
「……!」
有無を言わせない強い瞳に口を噤んだ。
そんなおれを見て、ジルはにこ、と笑う。こういう時は余計なことを言わない方がいい。墓穴を掘る自信もある。
「アンヌがきっともう食事の用意をしている、急ごう、また抱えようか?」
「い、いい、歩けるっ」
ジルの出した腕を払い、先を歩く。今日は寝惚けてない、自分の足で帰れる。
後ろから楽しそうな笑い声が聞こえた。
そんな中思い出すのはキャロルとのやり取り。
何故キャロルは別館に行くことに良い顔をされないのか、ジルの母親はどうなっているのか、そして、婚約者のこと。
どれもさらりと訊くのは躊躇われた。重い質問過ぎる。
でもどれも気になる。訊きたい。
嘘を吐かないでねと言ったのは自分。言えないなら言えないでいいと言ったのも自分。
くっそー、全部話せって言えばよかった?
だってそんなこと言えないし、全部話されてもそれはそれで困るし。プライバシーもあるし、言えないことは言わなくていいよって気を遣ったつもりだった。
格好つけやがってばかばかばか、訊きにくくなったじゃないか。
「あ、ユキ、そっちじゃなくてこっちだよ」
「……おれは方向音痴じゃない!」
「うん?」
「この城が迷路みたいなだけだ」
「ふ、そうだね」
「普通ならちゃんと道覚えられる!」
「わかったわかった、ユキに隠し通路もあるなんて言ったら騒ぎそうだ」
「何それお城みたい!あ、お城だわ」
モーリスさんにからかわれたことを思い出してむきになってしまう。
堪えきれなくなって笑うジルに、今度そこ教えてねと言って、今度は並んで歩いた。
時を見て訊いてみよう。きっとさっき苦い顔をしていたのはキャロルがいたから。キャロルに聞かせる話ではないから。
だからきっと、ふたりなら話してくれる。
夜でも明日でも、その後でも。大丈夫、ちゃんと空気を読めば教えてくれる筈だ。
◇◇◇
「……もしかしてジルの部屋とか作った方がいいやつでは」
「え?」
今日も無事に夕飯を済ませ風呂を済ませおれの部屋に集合!である。
よくよく考えれば、まあ自分がお願いしたのが発端ではあるんだけど、モーリスさんは隣の部屋で寝てくれるのに、なんでジルだけ同じベッドで寝るのだろう。
……いやそれは下心があったのはこないだのことでわかったけど。
でもこんなに連日来てくれるなら、違うベッドでゆっくり寝た方がいいのではないだろうか。
「……ユキひとりで寝たいの?」
「や、そんな、ことは……」
正直ある。
だってこんなとこに呼ばれる前は当然ひとりで寝ていた訳で。
ここでだって別にこの広い別館にひとり!みたいな状況がいやだっただけで、隣の部屋にモーリスさんが寝てくれればそれで良かったし、別に『一緒に寝る』ことが重要な訳じゃない。
ジルと寝ると無駄に緊張するし、綺麗な顔が近くにあるのも心臓に悪い。
でもだからといって一緒に寝たくない訳でもなくて、ベッドは無駄に広いしふたりで横になっても何回寝返り打てるんだってくらい余裕があるし、ジルの体温は心地よい。
だから絶対に一緒いるのが嫌って訳じゃないんだけど。慣れちゃったし、ジルが泊まってるのに一緒じゃないのは違和感だったりするんだろうけど。
でもこんだけ連日だと、ジルはどうなんだろう、おれの我儘に付き合わせ過ぎじゃなかろうかとか、そういうの考えちゃう。
「ジル、は落ち着かないとか、疲れが取れないとかないのかなって……」
「とんでもない、この時間が楽しみですらあるのに。ユキとのこの時間が俺にはご褒美なんだよ」
「ひゃわ……」
「?」
「イケメンの超近距離攻撃こっわ……」
その台詞をそんなに近くで言う必要あるんですかね、ってくらいのきらきらオーラをどストレートで喰らい、おれのライフはゼロだ。もうすきにして。
横になったおれににこにこしながら布団を掛ける。世話焼きだな、王子様の癖に。普通される側だろうに。
「おやすみ」
「……うん」
「……」
「……」
「寝れない?キャロルとあんな時間まで寝てるから」
「……」
正直に言います、ちょっと何かされるのかなって思ってたんです。
一昨日あんなことをして、昨日はまだ躰辛いでしょと気を遣われて、今日は元気に過ごして、明日は一緒におれの力の鑑定とやらに行く。そんなの休みみたいなもんじゃん。
だから、その、休みなら大丈夫だよねって、なんかされるんじゃないかなって思ってました。
おれがしたい訳じゃなくてね、一般的にね?そんなものなのかなってね?
いや、だってジルってば当たり前のようにかわいいかわいい言うし、おれのユキなんて言われちゃったし、どこにだってキスしてくるし、その、今日はなかったなって。
普通のジルならおやすみって言った時に、おでことかにキスするのが当たり前になってたっていうかあれ?
……あれ?もしかして、
「釣った魚に餌はやらないタイプ……?」
「魚?」
「……なんでもない」
やべ、口に出してた。
「あ……でもうつったりとか、しないもんでしょ」
「頭が固いというか、融通が利かないひとは一定数いるものだよ」
王太子と呪われた王女っていうところが難しいのかな、本人たちはそういうものでないってわかってるし、あんなに仲良さそうなのに。
やっぱり面倒くさい、こんな世界。
「でも嬉しいよ、ユキが気にしてくれて」
「……そりゃ気になるよ、おれ、なんも出来ないけどさ、でもキャロルが寂しいっていうなら、やっぱりジルは帰って……」
「ユキ」
「……!」
有無を言わせない強い瞳に口を噤んだ。
そんなおれを見て、ジルはにこ、と笑う。こういう時は余計なことを言わない方がいい。墓穴を掘る自信もある。
「アンヌがきっともう食事の用意をしている、急ごう、また抱えようか?」
「い、いい、歩けるっ」
ジルの出した腕を払い、先を歩く。今日は寝惚けてない、自分の足で帰れる。
後ろから楽しそうな笑い声が聞こえた。
そんな中思い出すのはキャロルとのやり取り。
何故キャロルは別館に行くことに良い顔をされないのか、ジルの母親はどうなっているのか、そして、婚約者のこと。
どれもさらりと訊くのは躊躇われた。重い質問過ぎる。
でもどれも気になる。訊きたい。
嘘を吐かないでねと言ったのは自分。言えないなら言えないでいいと言ったのも自分。
くっそー、全部話せって言えばよかった?
だってそんなこと言えないし、全部話されてもそれはそれで困るし。プライバシーもあるし、言えないことは言わなくていいよって気を遣ったつもりだった。
格好つけやがってばかばかばか、訊きにくくなったじゃないか。
「あ、ユキ、そっちじゃなくてこっちだよ」
「……おれは方向音痴じゃない!」
「うん?」
「この城が迷路みたいなだけだ」
「ふ、そうだね」
「普通ならちゃんと道覚えられる!」
「わかったわかった、ユキに隠し通路もあるなんて言ったら騒ぎそうだ」
「何それお城みたい!あ、お城だわ」
モーリスさんにからかわれたことを思い出してむきになってしまう。
堪えきれなくなって笑うジルに、今度そこ教えてねと言って、今度は並んで歩いた。
時を見て訊いてみよう。きっとさっき苦い顔をしていたのはキャロルがいたから。キャロルに聞かせる話ではないから。
だからきっと、ふたりなら話してくれる。
夜でも明日でも、その後でも。大丈夫、ちゃんと空気を読めば教えてくれる筈だ。
◇◇◇
「……もしかしてジルの部屋とか作った方がいいやつでは」
「え?」
今日も無事に夕飯を済ませ風呂を済ませおれの部屋に集合!である。
よくよく考えれば、まあ自分がお願いしたのが発端ではあるんだけど、モーリスさんは隣の部屋で寝てくれるのに、なんでジルだけ同じベッドで寝るのだろう。
……いやそれは下心があったのはこないだのことでわかったけど。
でもこんなに連日来てくれるなら、違うベッドでゆっくり寝た方がいいのではないだろうか。
「……ユキひとりで寝たいの?」
「や、そんな、ことは……」
正直ある。
だってこんなとこに呼ばれる前は当然ひとりで寝ていた訳で。
ここでだって別にこの広い別館にひとり!みたいな状況がいやだっただけで、隣の部屋にモーリスさんが寝てくれればそれで良かったし、別に『一緒に寝る』ことが重要な訳じゃない。
ジルと寝ると無駄に緊張するし、綺麗な顔が近くにあるのも心臓に悪い。
でもだからといって一緒に寝たくない訳でもなくて、ベッドは無駄に広いしふたりで横になっても何回寝返り打てるんだってくらい余裕があるし、ジルの体温は心地よい。
だから絶対に一緒いるのが嫌って訳じゃないんだけど。慣れちゃったし、ジルが泊まってるのに一緒じゃないのは違和感だったりするんだろうけど。
でもこんだけ連日だと、ジルはどうなんだろう、おれの我儘に付き合わせ過ぎじゃなかろうかとか、そういうの考えちゃう。
「ジル、は落ち着かないとか、疲れが取れないとかないのかなって……」
「とんでもない、この時間が楽しみですらあるのに。ユキとのこの時間が俺にはご褒美なんだよ」
「ひゃわ……」
「?」
「イケメンの超近距離攻撃こっわ……」
その台詞をそんなに近くで言う必要あるんですかね、ってくらいのきらきらオーラをどストレートで喰らい、おれのライフはゼロだ。もうすきにして。
横になったおれににこにこしながら布団を掛ける。世話焼きだな、王子様の癖に。普通される側だろうに。
「おやすみ」
「……うん」
「……」
「……」
「寝れない?キャロルとあんな時間まで寝てるから」
「……」
正直に言います、ちょっと何かされるのかなって思ってたんです。
一昨日あんなことをして、昨日はまだ躰辛いでしょと気を遣われて、今日は元気に過ごして、明日は一緒におれの力の鑑定とやらに行く。そんなの休みみたいなもんじゃん。
だから、その、休みなら大丈夫だよねって、なんかされるんじゃないかなって思ってました。
おれがしたい訳じゃなくてね、一般的にね?そんなものなのかなってね?
いや、だってジルってば当たり前のようにかわいいかわいい言うし、おれのユキなんて言われちゃったし、どこにだってキスしてくるし、その、今日はなかったなって。
普通のジルならおやすみって言った時に、おでことかにキスするのが当たり前になってたっていうかあれ?
……あれ?もしかして、
「釣った魚に餌はやらないタイプ……?」
「魚?」
「……なんでもない」
やべ、口に出してた。
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