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「ふあ」
やばい寝てた。膝に感じる子供体温があたたかくて。涎垂れてないよな?
口許を袖で軽く拭いながら、まだすやすやと寝ているキャロルを見下ろす。
頬にかかった細い絹糸のような髪を避けてやる。ピンクのふくふくとしたほっぺたに小さなお口。お人形さんみたい。安心したような寝顔に笑みが溢れてしまう。
「かわいい」
「うん」
「えっなんでジルいんの」
「絵画にしておきたいくらいかわいい」
「えっえ、えっ?」
「ユキ様静かにしないとキャロル様が起きますよ」
「うっ……え、いやおれ?」
思わず零した言葉に相槌を打たれて、顔を上げると向かいのソファにこっちを見ているジルと目が合った。
いやガン見じゃねーか。
仕事は?終わった?もうそんな時間?と考えてるおれに、真顔でアホみたいなことを言う。
確かにキャロルは写真にでも残しておきたいくらいかわいい寝顔をしてるんだけど。
「早く迎えにこようと思って仕事を終わらせてきたんだが、お陰ですごくいいものが見れたよ」
「……」
「ずるいな、モーリスは俺が来るまでこんな愛おしいものを独り占めしてたなんて」
「守ってたと言って下さいよ」
じとー、とモーリスさんに言うのが嫌味なのか冗談なのかが汲み取れない。冗談だとしたらわかりにくいんだよなあ……
膝の上でんん、と少し動いたキャロルに慌てて、まだ起きなくていいよというようにぽんぽんとしてやると、むにゃむにゃ言いながらもまた寝息を立てる。
きょうだいもいないし、親戚の子を世話したこともないけど、意外と小さな子の面倒見れるものなんだな。
安堵してまた前を向くと、ジルが目を細めておれを見ていた。
視線が煩い、おれじゃなくてキャロルを見てろ。
「仲良くしてくれて嬉しいよ」
「……だってめっちゃかわいい、キャロル」
「そうだろう」
「おれ暇だし、キャロルと遊びに来てもいいかな」
「……助かるよ、俺達じゃそんなに構ってあげられないから」
「やった、遥陽とも会えるしね~、あんまり構って貰えないお兄ちゃんよか、おれの方がキャロルと仲良くなっちゃったりして」
「それは困るな」
「やーいシスコン」
「だめだよ」
「?」
「ユキは俺のだからね」
「……!」
言葉が出なかった。
寝てるとはいえ幼い妹の前で、モーリスさんの前で言いやがった。
ジルの後ろに立つモーリスさんはモーリスさんでにやにやしている。
この空間で羞恥心を持っているのはおれだけなのか。甘過ぎて恥ずかし過ぎて溶けてしまいそう。
「そろそろキャロルを起こそうか、夜眠れなくなってしまう」
「こんなによく寝てるのに」
「夜、暗い中眠れない方がかわいそうだろう」
「それもそう、か?」
「ユキは違うの?」
「だっておれはジルがいる……し」
考えなしに言ってしまってから失言に気付いた。少しは考えろ馬鹿。
……ほら、ジルが超笑顔じゃんか。喜ばせるつもりで言ったんじゃないのに。
「そうだね、俺がいるもんね」
ほら~!ご機嫌じゃんかー!くっそー、なんか悔しい、なんでおれが自分でモーリスさんの前で墓穴掘らなきゃいけんのだ、たまにはジルが墓穴掘れ、あるのかしらんけど!
「ほらキャロル、もう起きようか」
「ん~……ん、」
「夜眠れないとおばけが出るよ」
「おばけいや……」
「ん、おはよう」
「じるにいさま……」
キャロルの前まで移動して、ジルが起こす。
目を覚ましたキャロルはまだまだ眠そうにジルに手を伸ばした。いやおれの膝の上でやるもんだからふたりとも近いんだよ、きらきらの供給過多。
「キャロおきたらユキにいさまかえっちゃう……」
ジルに抱きついて、拗ねたように言うキャロルに心臓を撃ち抜かれた。連れて帰りたい。
「また来るよ、ジルとも約束したからね、絶対」
「ほんと?ユキにいさまはキャロのこといやじゃない?」
「いやじゃないよ、おれもまたキャロルと遊びたいな」
ジルから離れたキャロルは少しもじもじと躊躇って、それからおれにも抱きついてきた。
かわいい。でもそれでいて少し悲しい。
こんなに小さな女の子が呪いのことを気にしているものだから。
「ぜったいね、やくそくしたもんね?」
「うん、絶対、近い内に来るよ」
泣きそうなキャロルを置いていくのは胸が傷んだ。
でもここにずっといる訳にもいかないから、後はキャロルお付の従者さんが来るまで残るというモーリスさんを残して、おれとジルは別館に戻ることになった。
歩きながらもずっとキャロルの顔が頭から離れない。
笑った顔、寂しそうな顔、穏やかな寝顔、甘えた顔。
あああ、置いてくの辛い。ずっと一緒にいられる間柄でもないから仕方ないし、そもそも今日初めて会ったっていうのに。
「……ジルはさ、えっと、いや、最初に一緒にいてほしいって言ったおれが言うのもなんだけど、てかこんなこと知らなかったから仕方ないんだけど、その、えっとさ……ほら」
「どうしたの」
「あの、うん、んー、おれと一緒にいていいのかなって……普通その、キャロルの方優先した方がいいよねって」
「キャロルのことが気になる?」
そりゃ気になるよ、と返すおれに、ずっと一緒にいれないから大丈夫だよ、とジルが少し寂しそうに言う。
その返答に首を傾げた。
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