【完結】召喚失敗された彼がしあわせになるまで

鯖猫ちかこ

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 内心、少し気まずさがある。それがジルに伝わってるかどうかはわからないけど。
 やっぱり寝る前に話なんかしなきゃよかった。

「ユキ座って、走り出すよ」
「あ、うん」

 ジルに手を引かれて隣に座る。
 あれ、これ向かいの方がよかった?いや向かいも結構恥ずかしいかも。

「楽しみ?」
「え?あ、うん、遠足みたい!」
「エンソク?」
「遠出のことだよ、遠出」

 首を傾げつつも、まあユキが楽しいなら、と納得した様子のジル。
 本当にそういうとこはおれに甘い男だな!

 天気が良くてよかった。
 まだ早朝の空は眩しくて、爽やかで、本来ならまだ眠い時間なのに、この空気のせいで目が冴えてる。
 窓から見える景色がわくわくする。
 当たり前だが車のように速くなく、乗馬のような速さもない。
 それでも少し早く過ぎていく景色を見るのは楽しかった。

「どれくらいでつくのかな」
「今だと……午後……まあそんなとこかな」
「遠い?」
「そんなに遠くはないよ」
「観光とかは出来るのかな」
「観光?」
「他の街とか見れる?」
「今日は無理かな、また今度にしよう」

 残念だが仕方ない。今日はここからの景色だけで我慢だ。
 今度こそ通りがかりの景色ではなく、他の街なんかも見てみたりしたい。
 ずっと城付近にいる訳にもいかないだろうし。

「……ねえ、あれなに?」

 街を抜けて、林のような、何もない道を抜ける。
 向こうから何か視線を感じる。……なんか、馬車と並走しているような。
 おれの肩から外を見たジルはこともなげに、ああ、魔獣だよ、と言う。
 へー、あれが噂の……と落ち着ける訳もなく、えっ、大丈夫なの、襲ってこないの、と慌てて訊くと、あれは襲ってこないよ、とからからと笑う。
 笑うような話か?と外から目が離せない。

「あっ」

 木の間から飛び出たものが、やっぱり馬車に並走するもんだからびっくりして隣のジルにぶつかってしまった。
 出てきた生き物は、もこもこした、耳は垂れたうさぎみたいな、でも馬みたいな……羊?なんだこいつ、くりくりした大きな目がこっち見てるぞ、えっなんだ、かわいいなこいつ!

「魔獣こわくない!」
「そうでしょう」
「こいつ飼お!」
「飼いません」
「へえ、魔獣いいじゃん、乗ってみたい」
「寄ってくるタイプの懐こいのもいるからね」
「へえー……」

 すごい、魔法とか、こういう訳わからん生き物とか見るとファンタジーの世界だなと実感する。
 他にも色々いるんだろうか、いるだろうな、退治が必要なタイプもいるっぽいし。

「すごいな、触ったら気持ちよさそ」
「ふかふかしてるよ」
「触ったことあんの!?」
「ああ」
「すっげ、いいなあ!ねえ、でもさ、この馬車の馬は魔獣じゃないでしょ、猫もいるけど普通でしょ、魔獣との違いってなに?」
「魔力を持ってるかどうかかな」
「随分ぼんやりなんだな」
「彼等の動力が魔力なんだよ」
「?」

 話を聞いてみると、どうやら普通の生き物は血の通った、心臓が動力だけど、魔獣には心臓の代わりに魔石があって、それが動力になるらしい。
 おれには見分けが難しそうだ。
 心臓がないということは、倒す時は魔石を狙わないといけないのかな、大変そうだ。

「基本的に魔獣も他の生き物と変わらない、無害で大人しいものだよ、でも何らかの力で魔力が汚れた時、ひとを襲うことがある。そういう時は仕方ないけど処理をしないといけないんだ」
「……他の動物みたいに病気を治したりは」
「残念だが、一度汚れた魔石は元に戻らない。」
「シビアな世界だなあ……」

 並走するもふもふに、お前は長生きしろよ、と呟いてしまう。
 ガラスに映るジルが笑った気がした。
 う、そんな笑い方をするな、おれの心臓に効く。

「あの空飛んでるのは魔獣?普通の鳥?」
「あれは鷲かな」
「鷲!本物初めて見たかも、でか」

 じゃああれは?どこ?あの遠くにいる……ああ、あれはね、とジルとやり取りをしてて気付く。ジルが近い。
 そしてその近い原因はジルじゃなくておれだった。
 ジルの腕を掴むようにして、左右の窓へ誘導していた。
 ……一度ヤったからって恋人面すんなよっていうのはまさにおれに向けられたような言葉かもしれない。
 急に恥ずかしくなって手を離した。
 そうだ、別にジルと付き合ってる訳でもなし、一度ヤっただけ。婚約者がいるのも発覚した。手を引くべきはおれの方だ。

 手を離して俯いたおれに、ジルは違うものを感じたのかもしれない。ただの照れ隠しだと。
 ふ、と影が降りて、それに気付いて少し顔を上げたところで唇が重なった。

「んッ……んん……?」

 すぐに離れたけど、そのまま唇を指でなぞられる。
 ちょっと待て、馬車の中でそんな空気を出すな。

「嬉しい」
「え……」
「ユキが甘えてくれると嬉しい」
「あ、甘えた訳じゃ……」

 寧ろ手を離したんですけど。
 これからに対して自制しなきゃと思ったんですけど。
 なのにそんなに嬉しそうに微笑まれたら決心が鈍る。
 だめなのに、おれ、浮気相手になんて絶対ごめんなのに。
 本命にされても困るし……じゃあ二番目もありかもしんないけど、でもそんなのは婚約者に悪い。会ったこともないけど、でも、普通に考えたら浮気相手なんてくたばれって思われるものじゃん。
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