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「ひぁ……」
する、と指を絡ませられる。
指と指の間に、ジルの長くて細くて、でも骨っぽい指が滑って、なんだか背中がぞくっとした。
だめです、前後に護衛のいる馬車の中でする行為ではありません。
「じ、ジル、だめ」
「……」
「こ、れ、だめ」
「何で?」
「せなかっ……ぞわぞわ、するっから!」
「ユキは指先まで敏感だね、かわいい」
敏感がかわいいってなんだ、ていうか、そんなとこ、普通こんなにならない。
だからこれは、その、おれのせいじゃなくて、ジルがやらしく触るからだ。
「おれがっ……悪いんじゃな、」
「今日は香油も使ってないよ」
「~……ッ!」
「ふふ、真っ赤になっちゃって、ほんとにユキはかわいいなあ」
「っあ!」
おでこと鼻先にキスをされて、それから繋いだ手にも。
だめだめだめ、こんなところで甘ったるくなってたまるか。
「かっ、帰ってからっ……!」
「え」
「馬車の中はだめっ」
「……」
空気がしん、となって、恐る恐るジルの方を見る。今度はおれが言葉を失う番だった。
ジルが目を丸くしていたから。
そしてやっと、自分の失言を思い出して、頭の中が真っ白になった。
違う、そういう意味じゃない、いやそういう意味だけど、そう言いたかったんじゃない、この場をどうにかしたかっただけで、そんな、帰ったらシてもいいよ、って言いたかったんじゃない。
そんな、浮気相手になりたくないなんて思いながら、そういうことを許容するなんて。おれは馬鹿か、馬鹿です!
「え、うわ、ちが、や……やだもう、おれ、ジルといると頭、おかしくなるぅ……」
「そういうユキもかわいらしいよ」
「そういうとこ~……」
ジルがそんなことばっか言うから、おれの自己肯定感上がっちゃってんじゃないの?
王太子に愛されて当たり前みたいになってんじゃないの?
覆った指の隙間から、ちら、と見たジルは酷く嬉しそうで、何でだろう、何でそんなにしあわせそうに笑うんだろう。
おれにそんな価値があるのだろうか。
こんなに綺麗なひとを悦ばせるような。
◇◇◇
「お疲れさまでした~」
「……っす」
「いや本当に疲れてるじゃないですか、何してたんすか」
「……精神的にくる」
数時間、馬車に揺られて、目的地に着くとモーリスさんが扉を開けて、げっそりしたおれを見て呆れたような声を出す。
本当に疲れた。誓ってやらしいことはしてない。ただ、ジルの甘過ぎる言葉たちに耐え抜いただけだ。
馬車はまずい、非常にまずい。何がまずいって、逃げ場がない。ただひたすら甘い言葉を囁かれ続けた日本人がどうなるかわかりますか。一頻り溶けきった後、すん……てなります。もうすきにしろ、となりました。なりましたけど全てを受け入れられる訳でもないのです。
「ジル様は加減ってものを覚えた方がいいかもですねえ」
「なんだ」
「ユキ様の顔が死んでます」
「なんでだ」
「ジルのこういうとここわいんですよ」
「わかりますよ」
「なんでモーリスはわかるんだ」
「俺に嫉妬しないで下さい」
「ずるいぞ、ユキとわかりあえてるなんて」
「ええ……」
モーリスさんが引いてる。わかるよ、おれもわかる。
ジルって実は天然なんだろうか。
「ねえ、そんなことよりお腹空いた」
「先に食事にしますか?」
「でも鑑定?するひと待ってるんじゃないの?大丈夫?」
「挨拶だけして食堂かどこか借りましょうか」
「うん!」
昨日作ったお菓子と、アンヌさんが用意してくれた軽食がある。
おれが他所のひとのご飯は~とぐだぐだ言う前に用意してくれたアンヌさんわかってる、だいすき。
早起きのおれたちより早起きさせてしまったことは申し訳ないけど。今日はゆっくりしてくれてたらいいな。
「すごいね、こういうの、神殿っていうの?きれい」
「こちらです」
わくわくしてきた。
一々ゲームの世界みたいなんだもん。
鑑定ってどんなことするのかな。
そんなことを考えながら進んでいると、広い廊下で、真っ白の服を着た綺麗なひとが頭を下げてきた。
誰か知らないけど慌てておれも頭を下げる。挨拶は基本です。
「ようこそおいで下さいました、その方の鑑定をご希望ですね」
「ああ」
「セルジュと申します、宜しくお願いしますね」
「えっ、あ、えっと、」
「ユキだ、頼む」
差し出された白い手に戸惑っていると、ジルが名前を返してくれる。
また慌てて手を伸ばして握手。
綺麗なひとだが手が骨っぽい。声の感じもあって、頭の中であ、男のひとだ、と思った。
長いプラチナの髪がキャロルとティノを思い出す。
なんか全体的に白いひとだな……
「先に食事を摂りたい、食堂かどこか貸して貰えないか」
「ええどうぞ、お茶をお出ししましょう」
しん、とした廊下は歩く音だけがする。
こんなところでは無駄口も叩きにくい。おれは馬鹿な発言をしないようにきゅっと唇を閉じた。帰ってからモーリスさんたちに弄られるのはごめんだ。
少し歩いた先の食堂は、綺麗だけどまあ普通の食堂って感じで安心してしまった。
あんな神殿です!神聖な場所です!みたいなところだったら食事も喉を通らないだろう、良かった。
する、と指を絡ませられる。
指と指の間に、ジルの長くて細くて、でも骨っぽい指が滑って、なんだか背中がぞくっとした。
だめです、前後に護衛のいる馬車の中でする行為ではありません。
「じ、ジル、だめ」
「……」
「こ、れ、だめ」
「何で?」
「せなかっ……ぞわぞわ、するっから!」
「ユキは指先まで敏感だね、かわいい」
敏感がかわいいってなんだ、ていうか、そんなとこ、普通こんなにならない。
だからこれは、その、おれのせいじゃなくて、ジルがやらしく触るからだ。
「おれがっ……悪いんじゃな、」
「今日は香油も使ってないよ」
「~……ッ!」
「ふふ、真っ赤になっちゃって、ほんとにユキはかわいいなあ」
「っあ!」
おでこと鼻先にキスをされて、それから繋いだ手にも。
だめだめだめ、こんなところで甘ったるくなってたまるか。
「かっ、帰ってからっ……!」
「え」
「馬車の中はだめっ」
「……」
空気がしん、となって、恐る恐るジルの方を見る。今度はおれが言葉を失う番だった。
ジルが目を丸くしていたから。
そしてやっと、自分の失言を思い出して、頭の中が真っ白になった。
違う、そういう意味じゃない、いやそういう意味だけど、そう言いたかったんじゃない、この場をどうにかしたかっただけで、そんな、帰ったらシてもいいよ、って言いたかったんじゃない。
そんな、浮気相手になりたくないなんて思いながら、そういうことを許容するなんて。おれは馬鹿か、馬鹿です!
「え、うわ、ちが、や……やだもう、おれ、ジルといると頭、おかしくなるぅ……」
「そういうユキもかわいらしいよ」
「そういうとこ~……」
ジルがそんなことばっか言うから、おれの自己肯定感上がっちゃってんじゃないの?
王太子に愛されて当たり前みたいになってんじゃないの?
覆った指の隙間から、ちら、と見たジルは酷く嬉しそうで、何でだろう、何でそんなにしあわせそうに笑うんだろう。
おれにそんな価値があるのだろうか。
こんなに綺麗なひとを悦ばせるような。
◇◇◇
「お疲れさまでした~」
「……っす」
「いや本当に疲れてるじゃないですか、何してたんすか」
「……精神的にくる」
数時間、馬車に揺られて、目的地に着くとモーリスさんが扉を開けて、げっそりしたおれを見て呆れたような声を出す。
本当に疲れた。誓ってやらしいことはしてない。ただ、ジルの甘過ぎる言葉たちに耐え抜いただけだ。
馬車はまずい、非常にまずい。何がまずいって、逃げ場がない。ただひたすら甘い言葉を囁かれ続けた日本人がどうなるかわかりますか。一頻り溶けきった後、すん……てなります。もうすきにしろ、となりました。なりましたけど全てを受け入れられる訳でもないのです。
「ジル様は加減ってものを覚えた方がいいかもですねえ」
「なんだ」
「ユキ様の顔が死んでます」
「なんでだ」
「ジルのこういうとここわいんですよ」
「わかりますよ」
「なんでモーリスはわかるんだ」
「俺に嫉妬しないで下さい」
「ずるいぞ、ユキとわかりあえてるなんて」
「ええ……」
モーリスさんが引いてる。わかるよ、おれもわかる。
ジルって実は天然なんだろうか。
「ねえ、そんなことよりお腹空いた」
「先に食事にしますか?」
「でも鑑定?するひと待ってるんじゃないの?大丈夫?」
「挨拶だけして食堂かどこか借りましょうか」
「うん!」
昨日作ったお菓子と、アンヌさんが用意してくれた軽食がある。
おれが他所のひとのご飯は~とぐだぐだ言う前に用意してくれたアンヌさんわかってる、だいすき。
早起きのおれたちより早起きさせてしまったことは申し訳ないけど。今日はゆっくりしてくれてたらいいな。
「すごいね、こういうの、神殿っていうの?きれい」
「こちらです」
わくわくしてきた。
一々ゲームの世界みたいなんだもん。
鑑定ってどんなことするのかな。
そんなことを考えながら進んでいると、広い廊下で、真っ白の服を着た綺麗なひとが頭を下げてきた。
誰か知らないけど慌てておれも頭を下げる。挨拶は基本です。
「ようこそおいで下さいました、その方の鑑定をご希望ですね」
「ああ」
「セルジュと申します、宜しくお願いしますね」
「えっ、あ、えっと、」
「ユキだ、頼む」
差し出された白い手に戸惑っていると、ジルが名前を返してくれる。
また慌てて手を伸ばして握手。
綺麗なひとだが手が骨っぽい。声の感じもあって、頭の中であ、男のひとだ、と思った。
長いプラチナの髪がキャロルとティノを思い出す。
なんか全体的に白いひとだな……
「先に食事を摂りたい、食堂かどこか貸して貰えないか」
「ええどうぞ、お茶をお出ししましょう」
しん、とした廊下は歩く音だけがする。
こんなところでは無駄口も叩きにくい。おれは馬鹿な発言をしないようにきゅっと唇を閉じた。帰ってからモーリスさんたちに弄られるのはごめんだ。
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