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「ジル」
「うん?」
ジルの腕から抜けて、行儀は悪いけど、座席に膝をついた。
そのままの勢いで、えいとジルの頭を抱える。
突然の形勢逆転にジルは驚いた声を出したけど、それを閉じ込めるように腕に力を込めた。
「いいよ、日記燃やしたって」
「……!」
「大丈夫だよ、中身だって読んだんだよね、ちゃんとお母さんの気持ちわかったんだよね」
「……ああ」
「じゃあいいよ、キャロルの為じゃなくて、ジルの為に燃やして良かったんだよ」
「でも、中には調べた方が良い内容もあったかもしれない」
「いいの!」
「……」
いつもの自信のあるような声じゃなかった。
ジルは後悔して反省して、でも母親のことに触れられずにきたんだなあ、それを話す相手がおれだってことが申し訳ないけど。
「大丈夫だよ、ジルのことを護ってたお母さんがそんなことくらいで怒んないよ、そんなことより、ジルがこうやって大きくなって、皆に、キャロルに優しくしてくれる方が嬉しいと思うよ」
おれはその日記を読んだわけじゃないからちゃんとはわかんないけど。ちゃんと知らないから、都合良くとってるだけなんだけど。だからそんな勝手なこと、言えるんだけど。
でも死の間際、その日記を処理せずに取っておいたのは、ロザリー様だって、心のどっかには罪悪感とか、普通の親のように一緒にいられなかった心残りがあって、もしかしたら、見つけてもらいたかったのかもしれない。
残された、もう青年に育った息子に。
ほんの小さなこどもの頃より、内容だってもうわかってもらえるかもしれない。
本当は、自分だって、抱き締めて一緒にいたかったんだって。おれはそう思った。いいでしょ、部外者だからこそ勝手なことも言えるってもんだ。
ジルの手がぴくりと動いた。
それを確認して、でも暫くそのまま抱き締めてた。
がたん、と揺れた馬車に、膝立ちだったおれはバランスを崩して、そのまま床に転げそうになったところをジルにまた抱えられる。
目許が紅い。
「び、びっくりしたあ……」
「こっちの台詞だよ、もう、危ない、ちゃんと座ろうね」
「はーい……」
さっきまでジルの方がこどもみたいだったのに、もうおれがこども扱いだ。うーん、なんか悔しい。
「でも泣いたかと思っちゃった、泣かなかったね」
「……泣かないよ、これくらいで」
「残念、泣いたらよしよししたげようと思ったのに」
「はは、それはいつでもしてくれて構わないけど」
「そう言われたらやりがいがない」
ジルの横に座りなおすと、髪が乱れてたのか、優しく触れてなおしてくれた。
それからおれの瞳を見て、微笑んだ。
……ほら、ロザリー様の絵画とそっくりだ。
「ありがとう、ユキ」
「……別に、お礼言われるよーなことやってないし……あんな……テキトーで、多分セルジュさんとかアンヌさんとか、もっといいこと言ってくれるよ」
「でもすっきりしたよ」
「そう?」
「ああ、ただ甘ったれてたんだ、俺が」
「ん?」
「別に俺は可哀想でもなんでもないんだ、寧ろ恵まれてる」
「……」
「だからこれでもう吹っ切れた」
「そっか」
確かに身分は恵まれてるどころじゃない。
穏やかな国の王子様で、外見だってとんでもなく綺麗で、周りのひとも優しくて、悩んでいたけどちゃんと親の愛もあって。
世の中にはもっと酷い境遇のひともいるし、身近には呪われたキャロルもいる。
トータルでみたら勝ち組、我儘言うな、それなら立場を交換しろ、と思われるかもしれない。
でも上手くいかなかっただけとはいえ、傷付いたこどものジルがいたのも事実だよ、そこはちゃんと汲んで、愛してあげなきゃ。
いつまでも暗いとこに閉じ込めてないで、ちゃんと陽の下に連れていかなきゃ。
「ジル」
「うん?」
「アンヌさんのごはんたのしみだねえ……」
「もうお腹空いたの?」
「……うん、なんか、めちゃくちゃお腹空いた、し……ん、なんか、ねむ……かも」
「ああ、魔力に慣れないね」
「ちがう、クッション、ふわふわだし……あったかい、から、だから……」
「そっか、じゃあ着いたら起こすから寝てていいよ」
「ねたく、は、ないんだけど……」
「大丈夫、お昼寝の時間だ」
そんな、キャロルに言うような。
ああだめだ、やっぱりおれ、ちゃんと魔力抑える練習しなきゃ、お前は眠り姫かというくらい、睡眠に溺れてしまう。
◇◇◇
「また寝てしまった……」
「ユキの寝顔は何回見ても赤ちゃんのようでかわいい」
「いつものジルだ……」
とっぷりと日の暮れた頃、やっとお城に戻ってこれた。
暗い林は別世界に見えてこわかったし、明かりの灯る街は、なんだか映画のような世界で綺麗だった。
そしてお城に着いて、馬車を降りてびっくりした。
なんとお城から別館になにかついてる。
すぐに作ると言っていた渡り廊下のことを思い出し、まさかとジルに確認すると、どうせなら出掛けてる内にと今日工事をしていたらしい。
どうやらまだ完成ではないらしい。いや、一日でここまで出来るのがおかしいんだけど。
魔法の使える大工でもいるのか。見てみたいかも。
セルジュさんはお城の方で見てもらうらしく、ではまた明日、と頭を下げて従者の方に連れられてお城に消えていった。
そしてそのタイミングで、大分遅いのにおれたちを出迎えてくれたアンヌさんにまたびっくりした。
帰っててもらっててよかったのに!
「お腹空きましたでしょう、お料理温めなおしますね」
「いえ、もう遅いので!帰ってもらっても……あ、泊まります?」
帰ると言うアンヌさんを必死で引き止め、どうにか食事まで一緒にして、帰りはモーリスさんに送って貰うという話で着地した。
勿論ジルはお泊まりである。
「うん?」
ジルの腕から抜けて、行儀は悪いけど、座席に膝をついた。
そのままの勢いで、えいとジルの頭を抱える。
突然の形勢逆転にジルは驚いた声を出したけど、それを閉じ込めるように腕に力を込めた。
「いいよ、日記燃やしたって」
「……!」
「大丈夫だよ、中身だって読んだんだよね、ちゃんとお母さんの気持ちわかったんだよね」
「……ああ」
「じゃあいいよ、キャロルの為じゃなくて、ジルの為に燃やして良かったんだよ」
「でも、中には調べた方が良い内容もあったかもしれない」
「いいの!」
「……」
いつもの自信のあるような声じゃなかった。
ジルは後悔して反省して、でも母親のことに触れられずにきたんだなあ、それを話す相手がおれだってことが申し訳ないけど。
「大丈夫だよ、ジルのことを護ってたお母さんがそんなことくらいで怒んないよ、そんなことより、ジルがこうやって大きくなって、皆に、キャロルに優しくしてくれる方が嬉しいと思うよ」
おれはその日記を読んだわけじゃないからちゃんとはわかんないけど。ちゃんと知らないから、都合良くとってるだけなんだけど。だからそんな勝手なこと、言えるんだけど。
でも死の間際、その日記を処理せずに取っておいたのは、ロザリー様だって、心のどっかには罪悪感とか、普通の親のように一緒にいられなかった心残りがあって、もしかしたら、見つけてもらいたかったのかもしれない。
残された、もう青年に育った息子に。
ほんの小さなこどもの頃より、内容だってもうわかってもらえるかもしれない。
本当は、自分だって、抱き締めて一緒にいたかったんだって。おれはそう思った。いいでしょ、部外者だからこそ勝手なことも言えるってもんだ。
ジルの手がぴくりと動いた。
それを確認して、でも暫くそのまま抱き締めてた。
がたん、と揺れた馬車に、膝立ちだったおれはバランスを崩して、そのまま床に転げそうになったところをジルにまた抱えられる。
目許が紅い。
「び、びっくりしたあ……」
「こっちの台詞だよ、もう、危ない、ちゃんと座ろうね」
「はーい……」
さっきまでジルの方がこどもみたいだったのに、もうおれがこども扱いだ。うーん、なんか悔しい。
「でも泣いたかと思っちゃった、泣かなかったね」
「……泣かないよ、これくらいで」
「残念、泣いたらよしよししたげようと思ったのに」
「はは、それはいつでもしてくれて構わないけど」
「そう言われたらやりがいがない」
ジルの横に座りなおすと、髪が乱れてたのか、優しく触れてなおしてくれた。
それからおれの瞳を見て、微笑んだ。
……ほら、ロザリー様の絵画とそっくりだ。
「ありがとう、ユキ」
「……別に、お礼言われるよーなことやってないし……あんな……テキトーで、多分セルジュさんとかアンヌさんとか、もっといいこと言ってくれるよ」
「でもすっきりしたよ」
「そう?」
「ああ、ただ甘ったれてたんだ、俺が」
「ん?」
「別に俺は可哀想でもなんでもないんだ、寧ろ恵まれてる」
「……」
「だからこれでもう吹っ切れた」
「そっか」
確かに身分は恵まれてるどころじゃない。
穏やかな国の王子様で、外見だってとんでもなく綺麗で、周りのひとも優しくて、悩んでいたけどちゃんと親の愛もあって。
世の中にはもっと酷い境遇のひともいるし、身近には呪われたキャロルもいる。
トータルでみたら勝ち組、我儘言うな、それなら立場を交換しろ、と思われるかもしれない。
でも上手くいかなかっただけとはいえ、傷付いたこどものジルがいたのも事実だよ、そこはちゃんと汲んで、愛してあげなきゃ。
いつまでも暗いとこに閉じ込めてないで、ちゃんと陽の下に連れていかなきゃ。
「ジル」
「うん?」
「アンヌさんのごはんたのしみだねえ……」
「もうお腹空いたの?」
「……うん、なんか、めちゃくちゃお腹空いた、し……ん、なんか、ねむ……かも」
「ああ、魔力に慣れないね」
「ちがう、クッション、ふわふわだし……あったかい、から、だから……」
「そっか、じゃあ着いたら起こすから寝てていいよ」
「ねたく、は、ないんだけど……」
「大丈夫、お昼寝の時間だ」
そんな、キャロルに言うような。
ああだめだ、やっぱりおれ、ちゃんと魔力抑える練習しなきゃ、お前は眠り姫かというくらい、睡眠に溺れてしまう。
◇◇◇
「また寝てしまった……」
「ユキの寝顔は何回見ても赤ちゃんのようでかわいい」
「いつものジルだ……」
とっぷりと日の暮れた頃、やっとお城に戻ってこれた。
暗い林は別世界に見えてこわかったし、明かりの灯る街は、なんだか映画のような世界で綺麗だった。
そしてお城に着いて、馬車を降りてびっくりした。
なんとお城から別館になにかついてる。
すぐに作ると言っていた渡り廊下のことを思い出し、まさかとジルに確認すると、どうせなら出掛けてる内にと今日工事をしていたらしい。
どうやらまだ完成ではないらしい。いや、一日でここまで出来るのがおかしいんだけど。
魔法の使える大工でもいるのか。見てみたいかも。
セルジュさんはお城の方で見てもらうらしく、ではまた明日、と頭を下げて従者の方に連れられてお城に消えていった。
そしてそのタイミングで、大分遅いのにおれたちを出迎えてくれたアンヌさんにまたびっくりした。
帰っててもらっててよかったのに!
「お腹空きましたでしょう、お料理温めなおしますね」
「いえ、もう遅いので!帰ってもらっても……あ、泊まります?」
帰ると言うアンヌさんを必死で引き止め、どうにか食事まで一緒にして、帰りはモーリスさんに送って貰うという話で着地した。
勿論ジルはお泊まりである。
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