67 / 161
67
しおりを挟む
「今朝も言ったけど」
「……?」
「ユキに甘えられると嬉しいんだ」
「……聞いた、けど」
おれが甘えてなんの得があるんだろう。
いや、おれは甘やかされて得はあるよ、恥ずかしいだけで。
でもジルになにがプラスになるんだろう。
もう外は真っ暗で、いつもならもう寝てる時間だ。
それなのに、おれの頬を撫でるこの男は陽射しのように眩しい。
眩しくて眩しくて、目を細めてしまう。
ずっとずっと、ジルの瞳がおかしいんじゃないかなって思ってたけど。もしかしたら本当におれってそれだけの魅力があるんじゃないか。
……そんな訳はない。やばい。だめだ、ジルの話は本気にしたらだめ。流さなきゃ。
話半分にしなきゃ。
「じゃあ甘えよっかな……」
「うん?」
「ねむいから、もう寝よ」
「……そうだな、明日もユキは忙しそうだ」
上手いこと朝の失言をどうにかすることが出来たぞ。上手いことかわからないけど。
でもなかなか自然な気がする。うん。
……今その、ジルに抱かれてしまったら、絶対に変なことを言う、余計なことを言ってしまう。
だから、おれは……それだけは避けなきゃ。
少しくらいのスキンシップは我慢だ。
我慢。気持ちいいけど。
「……おやすみ」
「うん、おやすみ……」
まだ触れたままのジルの手を掴んで、目許を覆った。
暗くなる視界とあたたかい手のひら、おれを隠すのに丁度いいと思ったから。
◇◇◇
「おはようございます」
「おはようございます!うす!」
「元気ですねえ」
「大体元気です!」
朝食後、とわざわざ別館まで来てくれたセルジュさんにおれのやる気を見せつける。
別にめちゃくちゃやる気がある訳ではないんだけど、やる気ありますよってアピールはしてしまうんだよね、これ普通だよね。
今日のセルジュさんは長いプラチナの髪をひとつに纏めていて、もうこんなの綺麗なお姉さんじゃん、近所にいたらすきになっちゃうやつじゃん。
昨日のイメージよりなんかその、ちょっと髪型や服装が違うだけなのに、その、えっ……色っぽいお姉さんに見えた自分を殴りたい。欲求不満なのかな……
「今日は訓練宜しくお願いしまっす!」
「はい、宜しくお願いします」
おれの力では部屋がどうにかなるようなものではないと思うけど、念には念を、一応ということで、庭で訓練することに。
今日もいい天気で、外で何かするには丁度良い。
「といっても、魔力を持ってる方は生まれつきの物なので大体自分で感覚を掴むので、ユキ様のようによくわかってない方は珍しいんですよね」
「……すみません」
「謝らなくて大丈夫ですよ、まずそうですねえ……これは簡易的なものですが」
「……ブレスレット?」
「耐久性はあまりないので、練習の間だけだと思って下さいね」
セルジュさんがつけてくれたのは、綺麗な糸と碧い石で織られた、ブレスレットのようなもの。確かに耐久性はなさそうだけど、とまじまじと見ていると、暫くはこれで魔力が漏れませんよ、とセルジュさん。
なるほど、こういう不思議アイテムもあるのか。
「どうです?何か違いを感じますか?」
「うんん?何もかわんない、かな?」
「躰の中で魔力がぐるぐるしてたり、なにか滞るような」
「わかんないです……」
そもそも魔力云々なんてわからずに生活してきた。
だからかな、全然わかんないや。
わかれば話は早かったんだろうけど。
「ユキ様の魔法はわかりにくいですからねえ……」
「火が出たりしたらわかりやすいんですけどね」
「ふふ、そうですね」
すぐそこで、空気が振動する程近い場所で笑う美人の破壊力ったらない。
照れてしまって少し離れた。
こんなところを見られたらまたジルが拗ねてしまう。
「魔力って目に見えたりするんですかね」
「見えるひとには見えますよ、でもユキ様に見えないのなら意味がないでしょう」
「ですよねー」
「そうですね、じゃあ、イメージしてみましょうか」
「いめーじ」
「瞳を閉じてみて下さい」
「うん」
「今、躰の中に魔力が廻ってますね」
「うん……」
なんか催眠術みたいだな、と思いながら頷く。
笑いそうになるのを堪えて。
「どこから出したらわかりやすいと思います?」
「……やっぱり……手、かな」
「そうですね、じゃあ手を出して、手のひらです」
「はい……」
「私の手はあたたかいですか?」
「え?あ、はい、あったかいです」
「じゃあここに、あたたかいものを集めましょう、出来ます?」
「んん……」
手のひらをとんとんと指でつつかれ、言われるがまま、イメージはするけど、実際出来てるのかどうかわからなかった。
護りの力わかりにくい。
「これ、出来てるんですか?」
「薄らですけど。手のひらに今集まってますよ、これくらい」
セルジュさんが指で表す。ほんのちょこっと、5ミリくらい。
うーん、本当に薄らだ。
でも出来てはいることにかわりはない。
ちょっと待って下さいね、とセルジュさんが何かごぞごそと出てきた。
……ナイフ?短剣?鞘に収まったものだ。
それをそのままおれの手のひらの上に落とす。
鞘に収まったままなので、全く危険ではないのだけど、手のひらに急に感じる重みを待つが、軽く弾かれたように芝の上におちた。
「あっ」
「どうです?手のひらに触れました?」
「や、弾いた、と思う」
「では手のひらに出すことは成功ですね」
これっぽっちを成功と言っていいのかはわからないけど。
でもなんか興奮してしまう。
魔法使えるのってやっぱりわくわくする!
「……?」
「ユキに甘えられると嬉しいんだ」
「……聞いた、けど」
おれが甘えてなんの得があるんだろう。
いや、おれは甘やかされて得はあるよ、恥ずかしいだけで。
でもジルになにがプラスになるんだろう。
もう外は真っ暗で、いつもならもう寝てる時間だ。
それなのに、おれの頬を撫でるこの男は陽射しのように眩しい。
眩しくて眩しくて、目を細めてしまう。
ずっとずっと、ジルの瞳がおかしいんじゃないかなって思ってたけど。もしかしたら本当におれってそれだけの魅力があるんじゃないか。
……そんな訳はない。やばい。だめだ、ジルの話は本気にしたらだめ。流さなきゃ。
話半分にしなきゃ。
「じゃあ甘えよっかな……」
「うん?」
「ねむいから、もう寝よ」
「……そうだな、明日もユキは忙しそうだ」
上手いこと朝の失言をどうにかすることが出来たぞ。上手いことかわからないけど。
でもなかなか自然な気がする。うん。
……今その、ジルに抱かれてしまったら、絶対に変なことを言う、余計なことを言ってしまう。
だから、おれは……それだけは避けなきゃ。
少しくらいのスキンシップは我慢だ。
我慢。気持ちいいけど。
「……おやすみ」
「うん、おやすみ……」
まだ触れたままのジルの手を掴んで、目許を覆った。
暗くなる視界とあたたかい手のひら、おれを隠すのに丁度いいと思ったから。
◇◇◇
「おはようございます」
「おはようございます!うす!」
「元気ですねえ」
「大体元気です!」
朝食後、とわざわざ別館まで来てくれたセルジュさんにおれのやる気を見せつける。
別にめちゃくちゃやる気がある訳ではないんだけど、やる気ありますよってアピールはしてしまうんだよね、これ普通だよね。
今日のセルジュさんは長いプラチナの髪をひとつに纏めていて、もうこんなの綺麗なお姉さんじゃん、近所にいたらすきになっちゃうやつじゃん。
昨日のイメージよりなんかその、ちょっと髪型や服装が違うだけなのに、その、えっ……色っぽいお姉さんに見えた自分を殴りたい。欲求不満なのかな……
「今日は訓練宜しくお願いしまっす!」
「はい、宜しくお願いします」
おれの力では部屋がどうにかなるようなものではないと思うけど、念には念を、一応ということで、庭で訓練することに。
今日もいい天気で、外で何かするには丁度良い。
「といっても、魔力を持ってる方は生まれつきの物なので大体自分で感覚を掴むので、ユキ様のようによくわかってない方は珍しいんですよね」
「……すみません」
「謝らなくて大丈夫ですよ、まずそうですねえ……これは簡易的なものですが」
「……ブレスレット?」
「耐久性はあまりないので、練習の間だけだと思って下さいね」
セルジュさんがつけてくれたのは、綺麗な糸と碧い石で織られた、ブレスレットのようなもの。確かに耐久性はなさそうだけど、とまじまじと見ていると、暫くはこれで魔力が漏れませんよ、とセルジュさん。
なるほど、こういう不思議アイテムもあるのか。
「どうです?何か違いを感じますか?」
「うんん?何もかわんない、かな?」
「躰の中で魔力がぐるぐるしてたり、なにか滞るような」
「わかんないです……」
そもそも魔力云々なんてわからずに生活してきた。
だからかな、全然わかんないや。
わかれば話は早かったんだろうけど。
「ユキ様の魔法はわかりにくいですからねえ……」
「火が出たりしたらわかりやすいんですけどね」
「ふふ、そうですね」
すぐそこで、空気が振動する程近い場所で笑う美人の破壊力ったらない。
照れてしまって少し離れた。
こんなところを見られたらまたジルが拗ねてしまう。
「魔力って目に見えたりするんですかね」
「見えるひとには見えますよ、でもユキ様に見えないのなら意味がないでしょう」
「ですよねー」
「そうですね、じゃあ、イメージしてみましょうか」
「いめーじ」
「瞳を閉じてみて下さい」
「うん」
「今、躰の中に魔力が廻ってますね」
「うん……」
なんか催眠術みたいだな、と思いながら頷く。
笑いそうになるのを堪えて。
「どこから出したらわかりやすいと思います?」
「……やっぱり……手、かな」
「そうですね、じゃあ手を出して、手のひらです」
「はい……」
「私の手はあたたかいですか?」
「え?あ、はい、あったかいです」
「じゃあここに、あたたかいものを集めましょう、出来ます?」
「んん……」
手のひらをとんとんと指でつつかれ、言われるがまま、イメージはするけど、実際出来てるのかどうかわからなかった。
護りの力わかりにくい。
「これ、出来てるんですか?」
「薄らですけど。手のひらに今集まってますよ、これくらい」
セルジュさんが指で表す。ほんのちょこっと、5ミリくらい。
うーん、本当に薄らだ。
でも出来てはいることにかわりはない。
ちょっと待って下さいね、とセルジュさんが何かごぞごそと出てきた。
……ナイフ?短剣?鞘に収まったものだ。
それをそのままおれの手のひらの上に落とす。
鞘に収まったままなので、全く危険ではないのだけど、手のひらに急に感じる重みを待つが、軽く弾かれたように芝の上におちた。
「あっ」
「どうです?手のひらに触れました?」
「や、弾いた、と思う」
「では手のひらに出すことは成功ですね」
これっぽっちを成功と言っていいのかはわからないけど。
でもなんか興奮してしまう。
魔法使えるのってやっぱりわくわくする!
204
あなたにおすすめの小説
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる