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未だにひっくひっくとしゃくり上げながら泣くキャロルを抱えて、もう大丈夫だよ、と背中を撫でる。
ぎゅうと抱き着いて泣く姿が、年相応で胸が痛む。
どんな理由であれ、小さな子が泣いていて放っておく訳にはいかない。
「ごめんね、もっと早く来れたら良かったね」
「んーん……」
「モーリスさんも一緒だったら良かった、おれひとりじゃ役に立たなくてごめん」
「んん……ユキにいさまきてくえたの、うえしかった」
鼻が詰まって上手く喋れていない。
鼻をかませて、クッキー作ってきたんだ、と笑顔で言ってみる。
「クッキー……?」
「うん、こないだお菓子美味しいって食べてくれたでしょ、今回はアンヌさんのお手伝いじゃないから、前回と比べたら劣るかもしれないけど……でもね、ジルも一緒に作ったんだよ」
「ジルにいさまも?」
「そう」
「……ジルにいさまのつくったのたべるのはじめて」
「じゃあ一緒に食べよっか」
「うん……!」
はい、と一枚クッキーを手渡す。
かおりをすん、と嗅いで、いいにおい、と笑った。
おれも笑ってみせる。
あの女性も気になるけど、今じゃなくてもいい。
まずはキャロルのメンタルケアだ。
「おいしい……」
「そう?良かった」
「キャロもつくれる?」
「じゃあ今度一緒に作ろ」
王太子を粉まみれにしたおれにこわいものはない。
末っ子王女が粉まみれになるくらいかわいいものだ。
いや想像したら普通にかわいいな……お子様のお料理教室めちゃくちゃかわいい。
「そうだ、ジルやセルジュさんにも、別館にキャロルを呼んでもいいって許可取れたんだ、今度暇な時おいで」
「ほんと!?」
「ほんとほんと、時間があればその時お菓子も一緒に作ろっか」
「うん!」
泣き跡の残る頬がかわいそうなんだけど、にこーっと笑顔になるキャロルにきゅんとした。
やっぱりキャロルはこうでなくちゃ。
子供は嬉しそうにしてるのがいちばんいい。
「いつでもいいの?」
無邪気に訊くキャロルに頷く。
セルジュさんも帰ってしまった今となっては、またおれは国で一番暇な男に戻ってしまった。
予定等ない。
あとは毎日様子を見て、個人で練習するなり勉強するなり寝るなり遊ぶなり自由に過ごすだけだ。
だから誰かの都合で予定が埋まるのは全然オッケー、寧ろ有難い。
「じゃあシャノンねえさまがきそうなひにいく……」
「シャノンねえさま……」
出た、婚約者。
更にクッキーを手渡しながら訊いてみる。
「シャノンねえさまっていつ来そうかわかるの?」
「きゅうにくる」
「急に来るかー」
「さっきもきてびっくりした」
「さっきも来たんだ?」
「……いたよ?」
「おれと入れ違いだったのかな」
「……ユキにいさま」
「うん?」
「さっきおはなししたの、シャノンねえさまよ」
「……ん?」
「おくすりのおはなししたの、シャノンねえさま」
んんん?
つまり、今の今までいたのがシャノンねえさまで、ジルの婚約者だと?
あの、猫みたいに自由な女性が?
……思っていたのと全然違う。
王太子のお嫁さんってお淑やかな、やんわりと、でも強そうな女性のイメージだ。
あんなに口が悪くて、お淑やかとは違う、訳のわからんことをする女性が女王に?大丈夫かこの国?強そうではあったけど。
「シャノンねえさま……」
「うん、シャノンねえさまいっつもおくすりもってくる、キャロにがいのやーなの」
「やー、か」
「ん、だからシャノンねえさまきそうなひはユキにいさまのとこかくれてもいーい?」
「い、いいよ……」
今更ながら心臓がばくばくしてきた。
婚約者。ジルの。
確かにやばそうで、でもすごく綺麗なひとでもあった。
金に近いくらい明るい茶色の長い髪と、猫のようなくりっとした少し吊った瞳、ツンとした鼻と小さな口。
華奢な肩と細く長い綺麗な手足。
大分気が強そうだったが、黙っていればまあ……
「ユキにいさま?」
「え、あ、うん、なんもないよ、ごめん、ぼーっとしてて」
シャノン様。
多分……というかもう、おれの印象は最悪だろう。
おれだってシャノン様の印象は既に良くはないけど。
どうしよう、おれのこと、多少は知ってる口振りだった。
そりゃあ、その、あんなことをしてるとかはわからないと思う、けど。
でも遥陽とおれのことを知ってる感じ。
ジルはやたらおれのことを気にしてくれてるのがわかるから、その、召喚に巻き込んだことを気にしてくれてるとわかっていても、婚約者からしたは面白くないんじゃないか。
当たり前だ、誰だって自分の婚約者が他の奴のところに行ってたら面白くないどころか、怒りで目の前が真っ赤になるだろう。
どうしよう、どうしよ、こんなにあっさり婚約者と会うことになるとは思わなかった。
ついさっき、モーリスさんに婚約者の話に触れるなとお願いしたばかりなのに。
ジルに、シャノン様と会ったと言うべきか否か。
ジルから直接訊いた訳でもないのになんでお前は知ってるんだってなるかな?
黙ってた方がいい?
でも後でばれたらなんで黙ってたってなる?
いやでも黙ってたからって責められる訳では……
いやいやいや知ってたらヤるなよって思われる?
どれが正解だ?どれが一番がっかりされない?
どれが、どうしたら、おれは……
ぎゅうと抱き着いて泣く姿が、年相応で胸が痛む。
どんな理由であれ、小さな子が泣いていて放っておく訳にはいかない。
「ごめんね、もっと早く来れたら良かったね」
「んーん……」
「モーリスさんも一緒だったら良かった、おれひとりじゃ役に立たなくてごめん」
「んん……ユキにいさまきてくえたの、うえしかった」
鼻が詰まって上手く喋れていない。
鼻をかませて、クッキー作ってきたんだ、と笑顔で言ってみる。
「クッキー……?」
「うん、こないだお菓子美味しいって食べてくれたでしょ、今回はアンヌさんのお手伝いじゃないから、前回と比べたら劣るかもしれないけど……でもね、ジルも一緒に作ったんだよ」
「ジルにいさまも?」
「そう」
「……ジルにいさまのつくったのたべるのはじめて」
「じゃあ一緒に食べよっか」
「うん……!」
はい、と一枚クッキーを手渡す。
かおりをすん、と嗅いで、いいにおい、と笑った。
おれも笑ってみせる。
あの女性も気になるけど、今じゃなくてもいい。
まずはキャロルのメンタルケアだ。
「おいしい……」
「そう?良かった」
「キャロもつくれる?」
「じゃあ今度一緒に作ろ」
王太子を粉まみれにしたおれにこわいものはない。
末っ子王女が粉まみれになるくらいかわいいものだ。
いや想像したら普通にかわいいな……お子様のお料理教室めちゃくちゃかわいい。
「そうだ、ジルやセルジュさんにも、別館にキャロルを呼んでもいいって許可取れたんだ、今度暇な時おいで」
「ほんと!?」
「ほんとほんと、時間があればその時お菓子も一緒に作ろっか」
「うん!」
泣き跡の残る頬がかわいそうなんだけど、にこーっと笑顔になるキャロルにきゅんとした。
やっぱりキャロルはこうでなくちゃ。
子供は嬉しそうにしてるのがいちばんいい。
「いつでもいいの?」
無邪気に訊くキャロルに頷く。
セルジュさんも帰ってしまった今となっては、またおれは国で一番暇な男に戻ってしまった。
予定等ない。
あとは毎日様子を見て、個人で練習するなり勉強するなり寝るなり遊ぶなり自由に過ごすだけだ。
だから誰かの都合で予定が埋まるのは全然オッケー、寧ろ有難い。
「じゃあシャノンねえさまがきそうなひにいく……」
「シャノンねえさま……」
出た、婚約者。
更にクッキーを手渡しながら訊いてみる。
「シャノンねえさまっていつ来そうかわかるの?」
「きゅうにくる」
「急に来るかー」
「さっきもきてびっくりした」
「さっきも来たんだ?」
「……いたよ?」
「おれと入れ違いだったのかな」
「……ユキにいさま」
「うん?」
「さっきおはなししたの、シャノンねえさまよ」
「……ん?」
「おくすりのおはなししたの、シャノンねえさま」
んんん?
つまり、今の今までいたのがシャノンねえさまで、ジルの婚約者だと?
あの、猫みたいに自由な女性が?
……思っていたのと全然違う。
王太子のお嫁さんってお淑やかな、やんわりと、でも強そうな女性のイメージだ。
あんなに口が悪くて、お淑やかとは違う、訳のわからんことをする女性が女王に?大丈夫かこの国?強そうではあったけど。
「シャノンねえさま……」
「うん、シャノンねえさまいっつもおくすりもってくる、キャロにがいのやーなの」
「やー、か」
「ん、だからシャノンねえさまきそうなひはユキにいさまのとこかくれてもいーい?」
「い、いいよ……」
今更ながら心臓がばくばくしてきた。
婚約者。ジルの。
確かにやばそうで、でもすごく綺麗なひとでもあった。
金に近いくらい明るい茶色の長い髪と、猫のようなくりっとした少し吊った瞳、ツンとした鼻と小さな口。
華奢な肩と細く長い綺麗な手足。
大分気が強そうだったが、黙っていればまあ……
「ユキにいさま?」
「え、あ、うん、なんもないよ、ごめん、ぼーっとしてて」
シャノン様。
多分……というかもう、おれの印象は最悪だろう。
おれだってシャノン様の印象は既に良くはないけど。
どうしよう、おれのこと、多少は知ってる口振りだった。
そりゃあ、その、あんなことをしてるとかはわからないと思う、けど。
でも遥陽とおれのことを知ってる感じ。
ジルはやたらおれのことを気にしてくれてるのがわかるから、その、召喚に巻き込んだことを気にしてくれてるとわかっていても、婚約者からしたは面白くないんじゃないか。
当たり前だ、誰だって自分の婚約者が他の奴のところに行ってたら面白くないどころか、怒りで目の前が真っ赤になるだろう。
どうしよう、どうしよ、こんなにあっさり婚約者と会うことになるとは思わなかった。
ついさっき、モーリスさんに婚約者の話に触れるなとお願いしたばかりなのに。
ジルに、シャノン様と会ったと言うべきか否か。
ジルから直接訊いた訳でもないのになんでお前は知ってるんだってなるかな?
黙ってた方がいい?
でも後でばれたらなんで黙ってたってなる?
いやでも黙ってたからって責められる訳では……
いやいやいや知ってたらヤるなよって思われる?
どれが正解だ?どれが一番がっかりされない?
どれが、どうしたら、おれは……
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