【完結】召喚失敗された彼がしあわせになるまで

鯖猫ちかこ

文字の大きさ
84 / 161

84

しおりを挟む
 大人しく話を聞いて、と言われ、確かに今のおれは頭に血が上ってる、大人しく会話をするべきだ、と頷いた。
 大丈夫、一回落ち着け、このままじゃ話し合いになんてならない、おれだけ暴れて終わり。

「確かにシャノンは婚約者になるけど、お互いそれを意識したことはないよ」
「……嘘ならもっと上手いものを」
「あの子は俺に興味ないよ、キャロルにだけ」
「……ん?」
「呪いのことを調べたいだけ」
「……んん?」

 やばいひとなのには変わりないけど、でもあの綺麗なひととこの目の前の整ったひとがお互い興味がないって?

「それはない」
「え」
「だって婚約者っていつかは結婚して子供産んで王様と王妃様になっておれは邪魔で」
「ユキが邪魔になることはないよ」
「邪魔なんだよ!普通は!王太子様でしょうが!」
「でも俺はユキがいいし」
「えっ」
「え」
「……な、なんで」
「なんでも何も、ずっとユキに伝えてるつもりだけど」
「えっ、え、待っ、え?」
「かわいいだけじゃ足りないか……」

 ソファに倒されて、近付いてくる顔をどうにか止める。
 今はだいじな話し中だ、流されるな。
 心臓煩い!止まれ!

「待って、おれ、ほんとにだめだって思ったんだから!こ、こっちの世界ではわかんないけど、おれたちの感覚では浮気とか不倫とかだめなんだから!」
「それはこっちでもだめだと思う」
「じゃあなんで!」
「俺とシャノンは形だけだし……」
「……?」
「今日どういう会話をしたのかわからないけど……」

 どうやら小さい頃からシャノン様には並々ならぬ興味が呪いの件に向いていて、家柄とかもそりゃあもちろん関係あるけど、そこがいちばんの婚約者への抜擢ポイントだったらしい。
 変わり者で、研究者気質で、それでいてジルには対して興味をみせない。
 そんなものだから、ジルもシャノン様の話をしなかったと。

「……普通するよ、婚約者の話なんて、最初に」
「それは俺も……ユキにそれを理由に避けられたくなかったのかも」
「……」
「すっごい悩んだのに……」
「すまない」
「おれ、ここ、出て行く気もあったのに」
「えっ」
「それくらい悩んだのに……」
「……申し訳ない」
「じゃあ、ジルの傍に居ても誰の迷惑にもならないってこと……?いや待って、跡継ぎ、跡継ぎ必要でしょ」
「そんなのどうにでもなる」

 ふざけた話だ。なんて都合の良い。
 ……力が抜けた。
 この数日間のおれの悩みと覚悟はなんだったんだ。

「迷惑になんてならないよ」
「だってだめだって思ってたのにい……」
「なのに俺と一緒に居たかったんだ?」
「がまんできなかった……」
「そう」
「ジルがそうしたんじゃん……おれ、もうジルじゃなきゃやだもん……」
「そうかあ……」

 強く行こうと思ったのに、力が抜けてふにゃふにゃになってしまう。絶対揉めると思ったのに。
 そんなおれを見下ろすジルは酷く嬉しそうだ。
 やめてほしい、そういうのが、そういう顔が、そんなにおれのことすきなんだなって思わせちゃう。

「ここを出て行くなんて言わないで」
「んっ……」
「俺だってもうユキじゃないとだめなんだ」
「んう、」
「婚約者だって跡継ぎだってどうでもいい、ユキが傍にいないなら意味がない」
「んん……」
「だからずっと一緒にいて」
「う」

 髪を梳いて、頬に触れて、唇を落として、瞳をみつめて、甘い声が降る。
 何度も何度も経験して、それでも尚慣れないこの雰囲気。
 頭がどろどろになってしまいそうで、何にでもうんと頷いてしまいそうになる。
 おれだってジルの傍にいたい、一緒にいたい。
 王様になんてならなくていい、どっか小さな街でもいい、一緒にいたい。
 ……実際はそんなことにはならないんだろうけど。

「ユキ、愛してるよ」

 耳が、脳が、溶けてしまいそう。
 また変な声が出た。
 いつもの甘ったるい言葉、視線。
 でもいつものように視線を逸らすことが出来なかった。
 ここは逃げたらだめなところだ、だいじなところ。間違えたらいけない。

「お、おれも……」

 慣れない言葉に、声も伸ばす腕も震えた。
 いつものかわいいとかすきとかよりも重い言葉だと思う、だからこんな格好悪くなってしまっても仕方ない。
 受け入れる方も口にする方も真剣なんだ。
 ジルがしあわせそうに笑うなら、これが正解。
 誰がなんと言おうと、これはハッピーエンドの大正解なのだ。

「……だめだと思ってたから、なんか……なんか、安心、しちゃった……」
「ユキ?」
「あったかい、し……」
「ユキ、ここじゃなくて、ベッドに」
「うごけない……」

 その言葉を最後に、視界が暗くなってしまった。


 ◇◇◇

「…………嘘でしょ」

 ……寝るかね、あそこで!有り得なくない!?
 我ながら酷いと思う。
 絶対あそこはいちゃいちゃするところだった。キスのひとつもないとか。
 なのに寝落ち。正直ない。ないです。
 逆の立場ならがっかりしてる。
 つまりジルに呆れられてもおかしくないということ。
 しかも起きたのはゆっくりたっぷり眠った後、もう隣にジルはいない。
 夜も朝も何にも出来ないなんてお前の愛情はそんなもんかと責められたら何も言えない。
 倒れる程何に魔力を使ったというのだ、まさかまただだ漏れだったのか。
 これは本当におれはこの魔力の垂れ流し状態をどうにかしないといけない。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...