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「はっ、まさか遥陽の髪の毛も」
「調べたわよ」
「……こっわ」
「そんなこと言う子には意地悪するわよ」
「は?」
「ふふ、その内ね」
「な、何を」
「教えない」
妖艶な笑みを浮かべて頬を撫でた。
それからまた、おれから距離を取って、ジル様のことだけど、と呟いた。
「あたしから婚約を破棄することはないわ」
「……!」
「貴方の話はジル様に聞いたけど」
「どこまで……」
「それは内緒」
「……」
後でジルをとっちめないと。何をどこまで話したんだ。
「別にジル様のことはどうでもいい、ティノ様よりマシってだけ。あたしが欲しいのは地位」
「……」
「跡継ぎもいらないし、作る気もない」
「キャロルがしん……亡くなったら呪われるかもしれないからですか」
「それもあるわね、それを覚悟して婚姻するなんて相当の覚悟よ、あたしはジル様にそこまで思い入れはない」
その言葉に少しほっとしてしまうのはだめなのだろうか。
ふたりにその気がないことに安堵してしまう。
「だからジル様には側室でも愛人でもすきにしてとは伝えてあるんだけど……ユキにはそれは通じなさそうね」
「……っ」
「不満そうだわ」
「だって、普通……普通っつったって、おれのいた世界では、だけど、そういうの、おかしいことでっ……だから安心しろとか言われても無理で、普通は正妻がっ……てか正妻しかいなくてっ」
「そんなに不安ならユキが産めばいいわ」
「……は?」
「ここで、跡継ぎでも何でも」
おれの腹を触りながら言うシャノン様がちょっとこわくて、後ろに後ずさった。
男だぞ、と呟いたおれに、些細なことね、と口を歪めて笑う。
「『そういう魔法』使える者もいるわよ」
「ひ、しませんっ、つかいませんっ」
「まあいいけどね、他にもティノ様たちが頑張ってくれたらいいこと。あたしもジル様も自由にするだけよ、ユキも」
頭がぐるぐるする。
そんな魔法考えたことなかった。
いや、使わない、そんな魔法は絶対使わない、絶対!
使わないけど、でも……頭に入れるだけ。そんな方法もある、いや絶対絶対なしだけど!
「でもそんなのアリなら、遥陽とか……無理矢理子供作らせて神子様を増やすとか」
「神子様の子は神子にならないわ、召喚の儀式がないと神子様は現れないもの」
「えっそうなの」
「何らかの力を持って生まれる確率は高いわね、王族でなくても魔力持ちが生まれるのはそういうパターンもあるの」
あたしもそう、とあっさりとシャノン様が認める。
どうやら、何代だか前に神子様の血が入ってるとのこと。
そのまま話を聞くと、思ってたよりは大きな家じゃないらしい。
それでも婚約者候補として選ばれたのは、その魔力の件が大きいと言う。そして、だから気になるんだとも。
「だからかしら、少し他のひとより見えるものがあるの」
「……はあ」
「あたしが生きてる内に呪いを解呪出来るかなんてわからない、神子様そのものがどうしようも出来ないことを、ただ遠くに血が繋がってるというだけで、あたしなんかが断ち切ることは出来ないだろうって、でもあたしの研究がキャロルやその後に伝わるなら少しでも意味があるかなって思うの」
好奇心というか、気になるから調べたいって気持ちも大きいんだけど、と微笑んだシャノン様に狂気は感じなかった。
何だ、たまにおかしくなるひとってだけか。それも問題だけど。
そっか、うん、昨日のことだって、一見怪しさしかなかったけど、キャロルの呪いをどうにかしたいっていう気持ちだったんだな。何調べてたのか全然わかんないし、こわいし、キャロルに伝わってないから全然信頼されてなかったみたいけど。
「ユキも魔力の訓練してるんでしょ?あたしなら手伝えるわよ」
「え」
「躰の中でぐるぐるしてて、耐えられなくなったものがじわじわ漏れ出てる。適度に外に出しつつコントロールする術を身につけるの」
「それ、は、どうにかしなきゃとは思ってましたけど……変に眠くなっちゃうし」
「動きがわからないから苦戦してるんでしょう、今度薬作ってきてあげるわね」
「えっ」
こわいしいらない、という気持ちと、何それすごい、ありがたい助かる、という気持ちと、まずいんでしょ、やだなあって気持ち。
返事に困ってると、ベッドから立ち上がったシャノン様はもう一度おれの頬を撫でた。
「皆がかわいいって言ってたことがわかったわ」
「え……」
「とってもいじめたくなる反応してくれるのね」
「……」
「ふふ、本当かわいい、またユキに何か作ってあげる。今日はゆっくり休んで。魔力のいちばんの回復方法は休むことよ」
そう言ってシャノン様はおれの部屋から出て行った。
……やっぱり濃い、癖のあるひとだった。
解決したような、何もしてないような。気になっていたことが聞けたような、謎が増えたような。
喜んでいいのかどうか。
気疲れしてしまい、倒れるようにベッドに沈む。
今もどうせまた魔力が漏れてたんだろう。
……ジルとのことはすきにしていいってとっていいんだろうか。罪悪感を持たなくていいんだろうか。
立場上そんな上手く行く訳ないんだが。
なのに、少し、ううん、大分ほっとしてる。
シャノン様を傷付けてなくて良かった。
正しいことではないけど、褒められたことではないけど、シャノン様とジルが納得してて良かった。
……良かった。
「調べたわよ」
「……こっわ」
「そんなこと言う子には意地悪するわよ」
「は?」
「ふふ、その内ね」
「な、何を」
「教えない」
妖艶な笑みを浮かべて頬を撫でた。
それからまた、おれから距離を取って、ジル様のことだけど、と呟いた。
「あたしから婚約を破棄することはないわ」
「……!」
「貴方の話はジル様に聞いたけど」
「どこまで……」
「それは内緒」
「……」
後でジルをとっちめないと。何をどこまで話したんだ。
「別にジル様のことはどうでもいい、ティノ様よりマシってだけ。あたしが欲しいのは地位」
「……」
「跡継ぎもいらないし、作る気もない」
「キャロルがしん……亡くなったら呪われるかもしれないからですか」
「それもあるわね、それを覚悟して婚姻するなんて相当の覚悟よ、あたしはジル様にそこまで思い入れはない」
その言葉に少しほっとしてしまうのはだめなのだろうか。
ふたりにその気がないことに安堵してしまう。
「だからジル様には側室でも愛人でもすきにしてとは伝えてあるんだけど……ユキにはそれは通じなさそうね」
「……っ」
「不満そうだわ」
「だって、普通……普通っつったって、おれのいた世界では、だけど、そういうの、おかしいことでっ……だから安心しろとか言われても無理で、普通は正妻がっ……てか正妻しかいなくてっ」
「そんなに不安ならユキが産めばいいわ」
「……は?」
「ここで、跡継ぎでも何でも」
おれの腹を触りながら言うシャノン様がちょっとこわくて、後ろに後ずさった。
男だぞ、と呟いたおれに、些細なことね、と口を歪めて笑う。
「『そういう魔法』使える者もいるわよ」
「ひ、しませんっ、つかいませんっ」
「まあいいけどね、他にもティノ様たちが頑張ってくれたらいいこと。あたしもジル様も自由にするだけよ、ユキも」
頭がぐるぐるする。
そんな魔法考えたことなかった。
いや、使わない、そんな魔法は絶対使わない、絶対!
使わないけど、でも……頭に入れるだけ。そんな方法もある、いや絶対絶対なしだけど!
「でもそんなのアリなら、遥陽とか……無理矢理子供作らせて神子様を増やすとか」
「神子様の子は神子にならないわ、召喚の儀式がないと神子様は現れないもの」
「えっそうなの」
「何らかの力を持って生まれる確率は高いわね、王族でなくても魔力持ちが生まれるのはそういうパターンもあるの」
あたしもそう、とあっさりとシャノン様が認める。
どうやら、何代だか前に神子様の血が入ってるとのこと。
そのまま話を聞くと、思ってたよりは大きな家じゃないらしい。
それでも婚約者候補として選ばれたのは、その魔力の件が大きいと言う。そして、だから気になるんだとも。
「だからかしら、少し他のひとより見えるものがあるの」
「……はあ」
「あたしが生きてる内に呪いを解呪出来るかなんてわからない、神子様そのものがどうしようも出来ないことを、ただ遠くに血が繋がってるというだけで、あたしなんかが断ち切ることは出来ないだろうって、でもあたしの研究がキャロルやその後に伝わるなら少しでも意味があるかなって思うの」
好奇心というか、気になるから調べたいって気持ちも大きいんだけど、と微笑んだシャノン様に狂気は感じなかった。
何だ、たまにおかしくなるひとってだけか。それも問題だけど。
そっか、うん、昨日のことだって、一見怪しさしかなかったけど、キャロルの呪いをどうにかしたいっていう気持ちだったんだな。何調べてたのか全然わかんないし、こわいし、キャロルに伝わってないから全然信頼されてなかったみたいけど。
「ユキも魔力の訓練してるんでしょ?あたしなら手伝えるわよ」
「え」
「躰の中でぐるぐるしてて、耐えられなくなったものがじわじわ漏れ出てる。適度に外に出しつつコントロールする術を身につけるの」
「それ、は、どうにかしなきゃとは思ってましたけど……変に眠くなっちゃうし」
「動きがわからないから苦戦してるんでしょう、今度薬作ってきてあげるわね」
「えっ」
こわいしいらない、という気持ちと、何それすごい、ありがたい助かる、という気持ちと、まずいんでしょ、やだなあって気持ち。
返事に困ってると、ベッドから立ち上がったシャノン様はもう一度おれの頬を撫でた。
「皆がかわいいって言ってたことがわかったわ」
「え……」
「とってもいじめたくなる反応してくれるのね」
「……」
「ふふ、本当かわいい、またユキに何か作ってあげる。今日はゆっくり休んで。魔力のいちばんの回復方法は休むことよ」
そう言ってシャノン様はおれの部屋から出て行った。
……やっぱり濃い、癖のあるひとだった。
解決したような、何もしてないような。気になっていたことが聞けたような、謎が増えたような。
喜んでいいのかどうか。
気疲れしてしまい、倒れるようにベッドに沈む。
今もどうせまた魔力が漏れてたんだろう。
……ジルとのことはすきにしていいってとっていいんだろうか。罪悪感を持たなくていいんだろうか。
立場上そんな上手く行く訳ないんだが。
なのに、少し、ううん、大分ほっとしてる。
シャノン様を傷付けてなくて良かった。
正しいことではないけど、褒められたことではないけど、シャノン様とジルが納得してて良かった。
……良かった。
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