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泥のように寝ていた。
シャノン様が帰って行ったのはまだ明るい時間で、送ってきたらしいモーリスさんはまたおれの部屋に戻るなり頭を下げてきたけど、全くもってモーリスさんのせいではない訳で、大丈夫だと伝える。
それに、モーリスさんは気にしないようにとか、変に捉えずジルと話をするように言ってくれていた。
引き摺って勝手にダメージを受けていたのは自分だ。
さっさと済ませてしまえばよかったのに、すっきりしておけばよかったのに、引き伸ばして、勝手に傷付いて悲劇のヒロインぶっていただけ。
おれがただ自分の保身に走っただけ。
何度も謝るモーリスさんに、普段おれが掛けてる迷惑と相殺だと言うと、苦笑を浮かべて、ユキ様は甘いなあと言っていた。
寧ろおれに甘いのは周りの方なんだけど。おかげで小さな子供に戻ってしまったみたいだ。
それは全部、ジルが用意してくれた環境だ。
モーリスさんやセルジュさんに妬けると言いながらも、取り上げられることはなかった。
おれがひとりで悩んで、どうしようもなかったものをあっさりと解決してくれる。
だからいつの間にか、おれはジルが居ないとだめになったのかもしれない。
ちょっと前まで、ずっと遥陽のことを考えていた。
大丈夫かな、こわくないかな、寝れてるかな、ご飯食べれてるかな、寂しくないかな。
それはもう、無事がわかったからかもしれない。
何だかんだ遥陽はおれみたいに元気にやってて、忙しそうだけど、神子様としての仕事を全うしてる。
キャロルやティノや、多分おれの知らないひとたちと、交流を広げて。
おれだって、いやまあ、遥陽と比べたら狭い世界で、でも関わるひとは少しずつ、本当に少しずつだけど確実に増えて、見えるものも増えてきた。
何も知らない時より世界は広く綺麗に見えて、守りたいものだって増えた。
出来れば皆と仲良くしたいし、皆が笑えていたらいいなと思うし、傷付いたら嫌だし、どうにかしたいと思う。
明日は誰と話が出来るかな、って考えるし、ゆっくりしたいなとも思うし。
その環境は、全部ジルがくれた。
今日は仕事忙しいかな、どんなことをしてるのかな、また長期で空けることはあるのかな、今日はこっちに来るのだろうか、すきなものをもっと知りたいし、考えてることを聞きたい。
優しく落ち着いた声も聞きたいし、甘ったるくおれを呼ぶ声も、少し寂しそうな声も聞きたい。
壊れ物を扱うような指先も、少し強く肩を掴む手も、抱き締める腕も、早くなる心臓も、熱を帯びた視線も、声に言葉にならないものが、おれに向けられるものが、むずむずしちゃうけど、嬉しい。
今まで知らなかったこと、自分には関係なかったことをジルが与えてくれた。
その腕を全てを、離さないですむなら、なんてしあわせなことだろう。
早くこっちに来て欲しい。ジルの顔が見たい。
今日は昨日の続きがしたい。
罪悪感を抱かずに、心の底から、抱き締めたいし抱き締められたい。
◇◇◇
勢いよく扉が開いた音がした。
煩いな、と思ったけど、多分躰は動かなかった。
眠いというのもあるし、近付いてからの反応でもいいな、とも。
アンヌさんは勿論、モーリスさんだってよっぽどじゃなきゃそんな乱暴な開け方をしない。
急いで帰ってきたジルや、落ち着きのない遥陽くらいだろう。
「ユキ、大丈夫だった?」
その声に、ほらやっぱりジルだった、と思う。
ゆっくり瞳を開くと、心配そうな顔のジルが見下ろしている。
笑っちゃいそう。そんな顔まで綺麗なんだもん。
「シャノンが来たんだって?」
「……ジルがシャノン様に言ったんでしょ?」
「まさか来るとは思わなくて……大丈夫、何もされてない?」
「髪の毛切られた」
「えっ」
「ここら辺。ちょっとだからわかんないと思うけど。研究に使うんだって。研究ってなんだよってねぇ」
「ユキの綺麗な髪を」
「まあそろそろ切る時期かもしんないけど」
「勿体ない」
そういいながらおれの髪に触れる。
びっくりしたし、研究に使うとかこわいけど、これくらいなら女子でもあるまいし、まあって感じ。
なのにそんなに残念そうな顔するなんて。
……そんなにおれのことすきなのかな。
「ちょっとしか話はしてないんだけど」
「どんな話を?」
「うーん、ジルと婚約を破棄することはないって」
「それは」
「側室も愛人も作っていいって」
「……シャノンの話は話半分で聞いてくれ」
「はは」
笑って、あと、おれのことかわいいだって、と冗談めかして言うと、俺の方がかわいいって思ってる、と張り合ってきた。
「子供扱いね、」
「ユキはかわいいよ、皆そう思ってる。でも俺はそれ以上に」
「……ちゅーする?」
「……する」
ジルの言葉を待たずに、首元に腕を回した。
唐突な誘いに、ジルは目を丸くして、それから少し頬を赤くした。勝った。
照れてるジルかわいい、愛しい。
「……ユキからしてくれるの?」
「えっ……えと、えー……」
そこは考えてなかった。やり返したかっただけで。
どうしよう、と一旦視線を逸らして、でもどうにも自信がなくて、もう一度視線を合わせると、ジルは逸らさずじっとこっちを見ているものだから……つい。
ジルからしてほしい、と本音が出た。
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