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「…………」
どうやらおれはジルの前では赤ちゃんになってしまうらしい。
あの後、ゼリーを食べながら寝てしまったおれのことを、朝食を摂りながら愛らしかったと話すジルに居た堪れなさを感じる。
食べながら寝落ちってお前……もう……お前……
「まだ本調子じゃないんじゃないか?今日はゆっくりしてるといい」
「遥陽と約束しちゃった」
「……本当に仲が良いね」
「そりゃまあ……」
「モーリスも連れていきなさい、良ければキャロルとも遊んでやってほしい」
……ふたりきりにしないようにしてんじゃん。
呆れた訳じゃないけど、じっと見詰めてると、困ったように笑われてしまった。
「ごめん、やっぱり気になるかな」
「まあ……そうだとは思うけど。でもおれ昨日ちゃんと話したよ、遥陽とはそんなことにならないって」
「……ユキにその気がなくても……いや、うん、信じるよ」
言葉を呑み込んだ。大人だ。
おれがジルの立場なら触れられないか普通に怒っちゃうかしちゃうな。
それくらいおれ、勝手だと思うよ、わかってるよ。
「大丈夫、気をつけるよ、おれだって遥陽と気まずくなりたくないもん」
「……ありがとう」
ジルが腕を伸ばしてきたので、つい頭を差し出してしまった。
あーもう、ひとのことを言えないくらい、おれが甘やかされるのに慣れてしまっている。
子供のように、猫のように撫でられることに幸福を感じてしまうんだ。
◇◇◇
「りょうてにはなね!」
「うーん、ちょっと違う気がする」
遥陽の部屋に行く途中で、キャロルの調子が悪いときいて、慌てて遥陽とキャロルの部屋に向かった。
その時のキャロルの言葉に少し肩を落とした。
明るく話せる辺り、思ったより悪くなさそうで安堵する。
とは言っても、ベッドから出れない程度には不調らしい。
「これくらいならハルヒにいさまにおねがいしなくてもだいじょうぶよ」
「そんな訳にはいかないよ」
遥陽がキャロルの小さな手を握る。
遥陽に怪我や体調不良は治してもらったことがあるけど、こうやってキャロルに対するのを見るのは初めてだ。
呪いはゆっくりゆっくり解いていく、とジルも言っていた。
ぽわ、と優しい光が遥陽とキャロルの手に灯り、それがじわじわと全身に拡がっていく。
なるほど、これが魔力の動きなんだろうか。
昨夜のおれは、薬のお陰でぐるぐると巡る魔力を感じたけど、こんな風に視認することは出来なかった。
おれのレベルが上がったというより、これは普通に遥陽の力なのだろう。
見てるだけであたたかくなるような光。
少し荒かったキャロルの息が少しずつ落ち着いて、脂汗のようなものが引いていく。
蒼白い顔に血色が戻り、ふくふくとした頬に色が差す。
大分苦しそうに見えたけど、これがキャロルからしたら『これくらい』になってしまうんだな。
もっと酷い時はどれだけ苦しくて辛いか。
それをこんな小さな身で受け止めるなんて、どんな理由で呪われた家系になってるのか。
キャロルの様子が良くなっても、遥陽はまだキャロルに魔力を注ぎ続ける。
おれにはわからないけど、そうする理由があるのだろう。
「ごめんね」
「?」
「優希、部屋に戻っててもいいよ」
「え、なんで?おれもここいるよ」
帰った方がよければ帰るけどさあ……
でもおれだってキャロルは心配だし、遥陽だって心配だ。
暇だからとかそういう理由ならここに残りたい。
キャロルに聞こえちゃうからかな、長引きそうとかそういうことは言わずに、微笑んだ遥陽の隣に座って、ふたりを見守る。
ふたりとも頑張れ、おれは応援しか出来ないけど。
「……優希かわいいことしないで」
「えっ」
「仕草がかわいくて集中出来ない」
「えっ……えっ……ご、ごめん……?」
たいしたことはしてない、ふたりとも頑張れー!と念を送っただけだ、たいしたことどころか何の役にも立たねえな、おれ。
なのにそんな、ジルみたいなことを言われてしまってはどうしていいかわからない。特に今の遥陽には。
もう正座でふたりを見守るだけだ。
……これも気が散るだろうか?
「話し掛けるのは大丈夫?」
「普通に話し掛けるなら」
「……普通のつもりなんだけど」
「冗談だよ」
今のおれにはわかりづらい冗談です。
「見た目では良くなったみたいだけど、続けるのって意味あるの?……こんなこと訊いて大丈夫かわかんないんだけど。おれただ魔力の勉強中なだけで」
「言い訳しないで大丈夫だよ」
「……うん」
「怪我やちょっとした病気ならすぐ治るんだけど。結構重病だった場合だと、その根源からどうにかしなきゃいけないから」
「ほう……」
「……キャロルのは根源から治すことは出来ないから、こうやって重ねて重ねて、少しでもキャロルの元気な時間が長く出来るようにって」
「だからあったかいんだね」
「……なにが?」
「ほら、この光。あったかくて優しい色してる。遥陽が優しい証拠だ」
「……ふつーの話って言ったでしょ、あんまかわいいことばっかり言ってるとちゅーするよ」
「えええ」
むっとした顔で、唇を尖らせてキャロルに向き直った遥陽は、それでも嬉しそうだった。
おれにはよくわからない地雷が多過ぎる。
余計なこと言わないよう、処置が終わるまでお口チャックします。
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