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一頻りぐずぐず泣いて、すっきりしないまま、シャワー室に行って頭から涙毎流す。
これですっきり明日からは元通り!なんて出来ない。
女々しい奴だなって自分でも思うよ、でもだって仕方ないじゃん、おれだってまだ頭の整理が出来てない。
モーリスさんが言うことは納得してる。
ジルがおれのことを考えてくれてるのもわかる。
おれだって別に仲良くなくたって家族には会いたいし向こうの世界が恋しい。
でもだいじな遥陽を残していきたくないし、ジルと離れるのはいや。
だからといって帰りませんも出来ないし、家族を捨てるのかと問われると困る。
おれがいなくなれば、それはそれでも世界は回る。
おれだって向こうに帰ってしまえば、ここに来た時のように仕方ないと割り切ってしまうんだろう。
でもまだおれはここに居て、手を伸ばせばジルに触れられる距離に居て、だからこそ悩んでしまう。
ぐるぐるぐるぐる、ずっと。
誰も助けてなんてくれない。
だってどうしようもない。
魔女の呪いは解けない。
そんな魔女から帰れと言われたら皆どうしようも出来ない。
……そもそも皆好意で帰った方がいいと言ってるのに、おれが帰りたくないなんて、言ったらいけないのだ。
帰りたいのに帰りたくないなんて、子供の癇癪だ。
◇◇◇
「寝れなかったんですね?」
「……」
「大丈夫ですか?馬車に酔ったら言うんですよ」
起こしに来たモーリスさんに、顔を覗き込まれて開口一番これ。
相当酷い顔をしていたのだろう。
昨夜は結局眠れなかった。
思い出しては涙が滲みの繰り返しで、今までそんなことなかったのに、これは結構メンタルやられてるなって自分でも理解出来た。
疲れてるのに眠れなくて、うとうととすら出来なくて、モーリスさんのところに行こうかな、と思ったけど、やっぱり今更なのにそんな迷惑を掛けたくなくて。
じゃあやっぱりジルのところに、と考えて、止めた。
だめとか自分の部屋に帰れとか言わないと思う。
でも事務的な笑顔だったらどうしよう、って思っちゃって。
「馬車で寝ちゃうかも」
「寝れるならそちらの方がいいです、食堂に行きましょうか」
「……うん」
子供のようにモーリスさんの裾を掴んで歩く。
それに気付いたモーリスは苦笑いをしながらも許してくれた。
本当にお兄さんみたい。こんなお兄さんほしかったな、弟さん達が羨ましい。
「大丈夫ですか、ふらふらするなら抱えて行きましょうか」
「やですよ、恥ずかしい……」
そんな軽口が嬉しい。
嬉しいのに、こういうたわいもない話もあと数日、と思うと、とてもたいせつなものに思える。
「おはようございます……」
朝の食堂も静かだったけど、昨晩と比べると少しましだった。
何でだろうと思えば、そこにジルがいないからだ。
モーリスさんが、ジル様はまだかと訊けば、お部屋で召し上がられるとのことですと返ってきた。
……おれのせいかな。いや、そうだよな。
ぎゅう、とモーリスさんの裾を掴む指先に力が入る。
モーリスさんは困ったような顔で笑って、俺達も早く食べましょうか、と言う。
頷いて席に着くけど、やっぱり食欲なんて湧かない。
仕方なしにもそ、とパンを口にして、飲み込めなくてオレンジジュースで流し込む。
お肉も卵もサラダも喉を通らない。少しでいいですよ、とモーリスさんがスープだけでもと差し出してくる。
アンヌさんのスープが食べたい。あったかいやつ。
それかあの、甘い果物。ジルが持ってきてくれたやつ。
……もういいや。
あと少しくらい、帰るまで少し食べられたら十分だよね。
「もうちょっと食べられないですか?」
「食べられない」
「……馬車で食べられるよう包んで貰いましょうか」
「いい、どうせ寝るもん」
モーリスさん相手に完全に弟モードになってしまって、年甲斐もなく子供のように駄々を捏ねる。
困らせるのはわかっているけど。
「今日も一緒に乗ってくれるでしょ?」
「……ジル様からの許可が降りれば」
「絶対だからね」
わかりました、と頭を撫でられて、ちょっとだけ、安心する。
モーリスさんがおれを弟扱いするように、おれだってモーリスさんをお兄さん扱いしてるのだ。
◇◇◇
朝食も終わって、馬車の前に集合した時に、ジルの顔色の悪さにぎょっとしたのはおれだけじゃない。
体調が悪いのか寝れなかったのかと大騒ぎ。
ジルが大丈夫だから馬車を出せと一喝するまで、今日は休んだ方が、と煩かった。
……休んだ方がいいんじゃないかな、でも多分急いで帰るのはおれの為で……どうしよう、なんて言えばいいかな。
迷ってる間にジルは馬車に乗ってしまって、おれもモーリスさんが乗るのを許してもらって一緒に乗り込む。
暫くして走り出しても相変わらず車内は外の音を拾うだけで、ひとの声はしない。
その重い空気をどうにかしようとしたのかは知らないけど、口を最初に開いたのはモーリスさんだった。
「風邪を引かれましたか?」
「……いや」
「……眠れなかったですか?」
「…………」
長い沈黙。その後で、消えるような小さな声で、ああ、と返ってきた。
これですっきり明日からは元通り!なんて出来ない。
女々しい奴だなって自分でも思うよ、でもだって仕方ないじゃん、おれだってまだ頭の整理が出来てない。
モーリスさんが言うことは納得してる。
ジルがおれのことを考えてくれてるのもわかる。
おれだって別に仲良くなくたって家族には会いたいし向こうの世界が恋しい。
でもだいじな遥陽を残していきたくないし、ジルと離れるのはいや。
だからといって帰りませんも出来ないし、家族を捨てるのかと問われると困る。
おれがいなくなれば、それはそれでも世界は回る。
おれだって向こうに帰ってしまえば、ここに来た時のように仕方ないと割り切ってしまうんだろう。
でもまだおれはここに居て、手を伸ばせばジルに触れられる距離に居て、だからこそ悩んでしまう。
ぐるぐるぐるぐる、ずっと。
誰も助けてなんてくれない。
だってどうしようもない。
魔女の呪いは解けない。
そんな魔女から帰れと言われたら皆どうしようも出来ない。
……そもそも皆好意で帰った方がいいと言ってるのに、おれが帰りたくないなんて、言ったらいけないのだ。
帰りたいのに帰りたくないなんて、子供の癇癪だ。
◇◇◇
「寝れなかったんですね?」
「……」
「大丈夫ですか?馬車に酔ったら言うんですよ」
起こしに来たモーリスさんに、顔を覗き込まれて開口一番これ。
相当酷い顔をしていたのだろう。
昨夜は結局眠れなかった。
思い出しては涙が滲みの繰り返しで、今までそんなことなかったのに、これは結構メンタルやられてるなって自分でも理解出来た。
疲れてるのに眠れなくて、うとうととすら出来なくて、モーリスさんのところに行こうかな、と思ったけど、やっぱり今更なのにそんな迷惑を掛けたくなくて。
じゃあやっぱりジルのところに、と考えて、止めた。
だめとか自分の部屋に帰れとか言わないと思う。
でも事務的な笑顔だったらどうしよう、って思っちゃって。
「馬車で寝ちゃうかも」
「寝れるならそちらの方がいいです、食堂に行きましょうか」
「……うん」
子供のようにモーリスさんの裾を掴んで歩く。
それに気付いたモーリスは苦笑いをしながらも許してくれた。
本当にお兄さんみたい。こんなお兄さんほしかったな、弟さん達が羨ましい。
「大丈夫ですか、ふらふらするなら抱えて行きましょうか」
「やですよ、恥ずかしい……」
そんな軽口が嬉しい。
嬉しいのに、こういうたわいもない話もあと数日、と思うと、とてもたいせつなものに思える。
「おはようございます……」
朝の食堂も静かだったけど、昨晩と比べると少しましだった。
何でだろうと思えば、そこにジルがいないからだ。
モーリスさんが、ジル様はまだかと訊けば、お部屋で召し上がられるとのことですと返ってきた。
……おれのせいかな。いや、そうだよな。
ぎゅう、とモーリスさんの裾を掴む指先に力が入る。
モーリスさんは困ったような顔で笑って、俺達も早く食べましょうか、と言う。
頷いて席に着くけど、やっぱり食欲なんて湧かない。
仕方なしにもそ、とパンを口にして、飲み込めなくてオレンジジュースで流し込む。
お肉も卵もサラダも喉を通らない。少しでいいですよ、とモーリスさんがスープだけでもと差し出してくる。
アンヌさんのスープが食べたい。あったかいやつ。
それかあの、甘い果物。ジルが持ってきてくれたやつ。
……もういいや。
あと少しくらい、帰るまで少し食べられたら十分だよね。
「もうちょっと食べられないですか?」
「食べられない」
「……馬車で食べられるよう包んで貰いましょうか」
「いい、どうせ寝るもん」
モーリスさん相手に完全に弟モードになってしまって、年甲斐もなく子供のように駄々を捏ねる。
困らせるのはわかっているけど。
「今日も一緒に乗ってくれるでしょ?」
「……ジル様からの許可が降りれば」
「絶対だからね」
わかりました、と頭を撫でられて、ちょっとだけ、安心する。
モーリスさんがおれを弟扱いするように、おれだってモーリスさんをお兄さん扱いしてるのだ。
◇◇◇
朝食も終わって、馬車の前に集合した時に、ジルの顔色の悪さにぎょっとしたのはおれだけじゃない。
体調が悪いのか寝れなかったのかと大騒ぎ。
ジルが大丈夫だから馬車を出せと一喝するまで、今日は休んだ方が、と煩かった。
……休んだ方がいいんじゃないかな、でも多分急いで帰るのはおれの為で……どうしよう、なんて言えばいいかな。
迷ってる間にジルは馬車に乗ってしまって、おれもモーリスさんが乗るのを許してもらって一緒に乗り込む。
暫くして走り出しても相変わらず車内は外の音を拾うだけで、ひとの声はしない。
その重い空気をどうにかしようとしたのかは知らないけど、口を最初に開いたのはモーリスさんだった。
「風邪を引かれましたか?」
「……いや」
「……眠れなかったですか?」
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長い沈黙。その後で、消えるような小さな声で、ああ、と返ってきた。
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