【完結】召喚失敗された彼がしあわせになるまで

鯖猫ちかこ

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 おれを探したせいで風邪をひいたと思わせない為の優しさなのか、本当に寝れなかったのか。
 訊けないから、じっとジルの顔を見た。

 肌が白いからかな、隈が酷い。おれよりずっと。
 一晩寝れなかっただけでこんなにならないよな、そう考えて、もしかして、ふた晩なんじゃないか、と思ってしまった。

「ジル……」
「眠れない」
「……え」
「……ユキがいないと、眠れない」
「…………えっ」

 思ってもみなかった言葉に、時間が止まった。
 暫く無言が続いて、それを破ったのはモーリスさんの笑い声だった。

「お揃いじゃないですか」
「えっ」
「お互い意地っ張りなんですから、もう」
「えっ、や、え、なんっ、モーリスさんっ」

 揺れる馬車の中で急に抱えられたかと思うと、向かいのジルの膝に置かれてしまった。
 なんで、こんなの気まずいのわかってる筈なのに、なんでこんなとこ、よりにもよって隣とかじゃなくて膝の上に!
 もぞもぞと降りようとしたところで、それは叶わなかった。
 ……ぎゅうっと抱き締められたから。

「……ユキ」

 ジルの低くて優しい甘い声と、ふわりと香るにおい。
 このにおいが、体温がすきで、離れたくないと思ってたのに、今こんなことされたら、おれ、我慢なんて出来なくなっちゃう。

「ごめん、ユキ」
「……っ」
「ごめん、ごめん……ごめんね、ユキ」
「……あ、謝ってほしい訳じゃ」
「離したくない」
「え」

 言葉が頭にすんなり入らなくて、聞き返してしまう。
 なんて?今なんて言った?
 ……離したくないって、言った?

「……帰して、あげたいのに……」
「……ジル」

 強くなる腕の力に、胸の奥が熱くなる。
 欲しかったのに、もうだめだと思ってたのに、言ってくれた。
 それだけでこんなに満たされた気持ちになる。
 ジルやモーリスさんの考え方がきっと普通で、こんな、おれや今のジルの想いなんて、きっと邪魔にしかならないのに、それでもこの本音が欲しかった。

「お、おれも、ジルと、……ジルと離れたくない……っ」
「……だめだよ、帰らなきゃ」
「そんなのわかってるよっ……」
「……うん、ごめん、俺だってそう、わかってるのに……離したくない」

 ごめん、ごめんと頭上から優しくてかなしい声が落とされる。
 あたたかくて嬉しくて、さみしくてかなしくて。
 こんなに感情が綯い交ぜになってしまうことってきっともうない。
 矛盾した想いがぐるぐるして、でも今は『嬉しい』が勝ってる。

 嬉しい。
 もっと言って、もっとぎゅってして、もっとおれのことだいじだって、離れたくないって言って。
 そしたらおれ、残りは全部……いや、全部は無理だけど、それ以外はジルと遥陽といるから。
 忘れられないように、ずっと。

「……どうしましょうか、俺移りましょうか」
「いや、居てくれ、ユキがもうそろそろ眠そうだ」
「ぇあ……あれ、おれ、うとうとしてた……?」
「……こんな所で手を出したら困る、見張っててくれ、俺も理性が持たないかもしれない」
「……ふたりとも大人しく昼寝してて下さい」

 気を利かそうとしたモーリスさんに、ふざけてるのか本気なのかわからないトーンでジルがそんなことを言うから顔が熱くなってしまう。
 最終的にはいつもモーリスさんが折れる。
 周りが気を遣うんで早く寝て下さい、と苦笑いしながら、おれとジルに毛布を掛けた。


 ◇◇◇

 その後、昼食も忘れる程夕方までジルの膝の上で爆睡してしまった。
 ソファと違い、硬い躰は寝心地のいいものではなかったけど、ジルの腕の中だってだけで安心しきってしまっていた。
 ジルはめちゃくちゃ寝づらかったと思うんだけど。
 でも目覚めた時、笑顔のジルが見下ろしていたから、きっと大丈夫、だったんだと、思う、多分。

 寝てしまったお陰であまり会話は出来なかったけど、今夜は同じ部屋でいいね、と確認を取られて、頷いた。
 昨日はあんなに傷付いたのに、今日はこんなにふわふわした気持ちになるなんて。

 そして今、こうやって同じベッドに入っている訳で。

「はっ、あう、ん……ッ、ジル、あ、っ……じるぅ……」

 朝っぱらから、馬車の中で手を出したら困ると言っていたジルに、夜手を出されている。
 ご丁寧に、オイルまで用意して。

 昨日のベッドより柔らかくて広いベッドがぎしぎしと音を立てる。
 心做しか、いつもより少し手荒いような、でもそれはおれを傷付ける為のものではなくて、ただ性急なだけ。
 何度も何度もキスをくれたし、指先は優しく触れる。
 だからおれも何度もそれを、もっともっとと強請ってしまう。

 つい一昨日したばかりだからか、少し慣らしただけですんなりとジルを迎えてしまえた。オイルのお陰も強いんだろうけど。

「っん、は、う、あっ、あ……う、」
「ユキ」
「んぅー……ッ」
「それ離そうか」
「……っいやあ……!」

 抱き締めたままのジルの上着を取り上げられそうになって、慌てて首を横に振る。
 汚しちゃうのはわかるんだけど、ジルのにおいがするのが恋しくて離したくなかった。

「……目の前に俺自身がいるのに?」
「あ……っ、らっ、て……じる、とお、」
「遠い?」
「ん……っ、あっう、こっち、のが近……ッんぅ」
「じゃあちょっと手出して」
「……?」

 よくわからないまま、言われた通り腕を伸ばした。
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