127 / 161
127
しおりを挟む
おれがはあはあと荒い息を整えてる間に、ジルはおれの力の抜けた躰を綺麗にしていく。
……王子様の癖に手際いいじゃん。まあおれのせいか、毎回毎回世話させちゃってまあ。
「……放っといてくれたら、起きてから自分で綺麗にする、のに」
「俺がしたいの」
「ええ……」
「このぐったりしたユキを綺麗にして、ゆっくり寝させてあげるのが嬉しいし楽しいんだよ」
「……悪趣味」
「愛しいからね、仕方ない」
「……っう」
ぽす、とすぐ横に倒れたジルが、おれの瞳を真っ直ぐ見ながらそう言うものだから堪らない。
恥ずかしくなって、でもすぐに胸がぎゅうっとなって、おれも、と思ってしまう。
少しだけ、指先を伸ばすと、それより先に抱き締めてくれた。
安心する。
ジルの体温が、においが、優しい声が、空気が。
どきどきもするんだけど、さみしくもかなしくもなるんだけど、それでも触れていたい。
「ユキのことは全部俺がやりたい」
「……そんなの、おれ、もうだめなやつになっちゃうじゃん」
「うん、ふふ、そうだね、俺だけのものにしてしまいたい」
「……もうなってるよ」
ジルじゃないとだめだよ、こんなこと、誰ともしない、出来ない。
同じくらいだいじでも、遥陽にでも許さない、あんな深いとこまで入れるのはジルだけ。
ジルしか、もう、絶対に許さない。
だから、おかしいくらいの、矛盾しかしない、この気持ちは、赦してほしい。
「……今日は、起きるまで一緒にいてほしい」
「約束する」
「へへ」
「?」
「仲直りできて良かった……」
ぎゅうとジルの首元に鼻先から擦り寄って、呟く。
息を呑んだジルはきつく抱き締めて、消えるような小さな小さな声で何かを言ったけど、丁度頭を抱えられてるものだから、その小さな声ははっきりとは聞こえなかった。
でも何となく、愛してると言ったように聞こえて……願望かもしれないけど、おれはそれに満足して、瞳を閉じた。
◇◇◇
何度経験しても、瞳を開けて最初に見えるのがたいせつなひとだということは慣れなくて、苦しい程胸が痛くなる。
緊張と、羞恥と、幸福感。
起きてても寝てても綺麗な顔だ。
起きたおれを見つめる淡い宝石のような碧い瞳も、まだ穏やかに寝てる時の呼吸で揺れる睫毛も、全てが現実味のない綺麗な絵画や彫刻の美術品のようで、つい手を伸ばしてしまうことが多い。
息をする口元や、あたたかい頬が実在するにんげんであるとわかって、安心するんだ。本物だ、って。
「……ユキは寝起きに確認してくるね」
「だって……ちゃんと、ジルだって、夢とか偽物じゃないって」
「そうだよ、本物」
「……うん」
「寝てるユキも愛おしいけど、やっぱり起きてるユキの方が愛らしいかな」
「……寝起きにそれは溶けちゃいそうだからやめて……」
「溶けたら俺の中に仕舞っておこうかな」
「もう……」
おれの頬と唇に触れて、おはよう、と微笑む。柔らかい振動を感じた。
何時だろう、もう起きないとモーリスさんが起こしに来るかな、そう考えていると、まだ早いからゆっくりしよう、とまるで心を読まれたかのようにジルは額にキスをする。
時計を確認するのも惜しくて、うん、とまたジルの胸元に収まる。
とくとくと聴こえる穏やかな心音に、また瞼が落ちてしまいそう。
勿体から二度寝なんてしたくない。少しでも眠気を覚ますように、ジルの指先を取ってにぎにぎと動かす。
擽ったそうな笑い声に、おれもつい笑ってしまった。
「やっぱり笑ってるユキがいちばんかわいい」
「……もー」
「……さみしくさせてごめん」
「……おれも、意地張ってごめん」
「いや、俺が……格好付けてしまって」
「……モーリスさんが、愛情だって……おれ、おれだってそれ、わか、わかってんだけど」
「……」
ジルの指をぎゅうっと握り締めると、それに握り返してくれる。
大きな手に、どきどきして、安心する。
「ユキを家族の元に帰してあげたいのは、本当なんだ」
「……うん、」
「でも……俺もユキと居たい」
「うん……ん、おれも……会いたい、けど、戻りたかったけど、でも、ジルと会えなくなるの、いやだ、やだ、おれのこと、忘れちゃやだ……」
「……忘れないよ、こんなに愛しい子のことを」
「……帰りたくないよお……」
とうとう言ってしまった。
口にしてもだめなのに。
帰りたくない。元の世界と天秤にかけても、まだこの世界に来てそんなに経ってないのに、それでも、もうこれ以上のひとなんていない。
この手を離したくないし、離されたくない。
……そんな我儘をおれが言ったところでどうしようもないんだけど。
「……どうしても帰んなきゃだめかな」
ぽつりと呟く。
魔力を使ってお城付近に魔女が入れないようにするとか。
無理だな、だってあの地域にもロザリー様が護りに行ってて、それでも魔女は無事に住んでて……そもそもこの魔力は魔女の力が元なのだから、その魔女に効く気がしない。
話をしたらお願いをきいてくれたりしないだろうか。
……あのひとが話を素直にきいてくれる気もしない。
……王子様の癖に手際いいじゃん。まあおれのせいか、毎回毎回世話させちゃってまあ。
「……放っといてくれたら、起きてから自分で綺麗にする、のに」
「俺がしたいの」
「ええ……」
「このぐったりしたユキを綺麗にして、ゆっくり寝させてあげるのが嬉しいし楽しいんだよ」
「……悪趣味」
「愛しいからね、仕方ない」
「……っう」
ぽす、とすぐ横に倒れたジルが、おれの瞳を真っ直ぐ見ながらそう言うものだから堪らない。
恥ずかしくなって、でもすぐに胸がぎゅうっとなって、おれも、と思ってしまう。
少しだけ、指先を伸ばすと、それより先に抱き締めてくれた。
安心する。
ジルの体温が、においが、優しい声が、空気が。
どきどきもするんだけど、さみしくもかなしくもなるんだけど、それでも触れていたい。
「ユキのことは全部俺がやりたい」
「……そんなの、おれ、もうだめなやつになっちゃうじゃん」
「うん、ふふ、そうだね、俺だけのものにしてしまいたい」
「……もうなってるよ」
ジルじゃないとだめだよ、こんなこと、誰ともしない、出来ない。
同じくらいだいじでも、遥陽にでも許さない、あんな深いとこまで入れるのはジルだけ。
ジルしか、もう、絶対に許さない。
だから、おかしいくらいの、矛盾しかしない、この気持ちは、赦してほしい。
「……今日は、起きるまで一緒にいてほしい」
「約束する」
「へへ」
「?」
「仲直りできて良かった……」
ぎゅうとジルの首元に鼻先から擦り寄って、呟く。
息を呑んだジルはきつく抱き締めて、消えるような小さな小さな声で何かを言ったけど、丁度頭を抱えられてるものだから、その小さな声ははっきりとは聞こえなかった。
でも何となく、愛してると言ったように聞こえて……願望かもしれないけど、おれはそれに満足して、瞳を閉じた。
◇◇◇
何度経験しても、瞳を開けて最初に見えるのがたいせつなひとだということは慣れなくて、苦しい程胸が痛くなる。
緊張と、羞恥と、幸福感。
起きてても寝てても綺麗な顔だ。
起きたおれを見つめる淡い宝石のような碧い瞳も、まだ穏やかに寝てる時の呼吸で揺れる睫毛も、全てが現実味のない綺麗な絵画や彫刻の美術品のようで、つい手を伸ばしてしまうことが多い。
息をする口元や、あたたかい頬が実在するにんげんであるとわかって、安心するんだ。本物だ、って。
「……ユキは寝起きに確認してくるね」
「だって……ちゃんと、ジルだって、夢とか偽物じゃないって」
「そうだよ、本物」
「……うん」
「寝てるユキも愛おしいけど、やっぱり起きてるユキの方が愛らしいかな」
「……寝起きにそれは溶けちゃいそうだからやめて……」
「溶けたら俺の中に仕舞っておこうかな」
「もう……」
おれの頬と唇に触れて、おはよう、と微笑む。柔らかい振動を感じた。
何時だろう、もう起きないとモーリスさんが起こしに来るかな、そう考えていると、まだ早いからゆっくりしよう、とまるで心を読まれたかのようにジルは額にキスをする。
時計を確認するのも惜しくて、うん、とまたジルの胸元に収まる。
とくとくと聴こえる穏やかな心音に、また瞼が落ちてしまいそう。
勿体から二度寝なんてしたくない。少しでも眠気を覚ますように、ジルの指先を取ってにぎにぎと動かす。
擽ったそうな笑い声に、おれもつい笑ってしまった。
「やっぱり笑ってるユキがいちばんかわいい」
「……もー」
「……さみしくさせてごめん」
「……おれも、意地張ってごめん」
「いや、俺が……格好付けてしまって」
「……モーリスさんが、愛情だって……おれ、おれだってそれ、わか、わかってんだけど」
「……」
ジルの指をぎゅうっと握り締めると、それに握り返してくれる。
大きな手に、どきどきして、安心する。
「ユキを家族の元に帰してあげたいのは、本当なんだ」
「……うん、」
「でも……俺もユキと居たい」
「うん……ん、おれも……会いたい、けど、戻りたかったけど、でも、ジルと会えなくなるの、いやだ、やだ、おれのこと、忘れちゃやだ……」
「……忘れないよ、こんなに愛しい子のことを」
「……帰りたくないよお……」
とうとう言ってしまった。
口にしてもだめなのに。
帰りたくない。元の世界と天秤にかけても、まだこの世界に来てそんなに経ってないのに、それでも、もうこれ以上のひとなんていない。
この手を離したくないし、離されたくない。
……そんな我儘をおれが言ったところでどうしようもないんだけど。
「……どうしても帰んなきゃだめかな」
ぽつりと呟く。
魔力を使ってお城付近に魔女が入れないようにするとか。
無理だな、だってあの地域にもロザリー様が護りに行ってて、それでも魔女は無事に住んでて……そもそもこの魔力は魔女の力が元なのだから、その魔女に効く気がしない。
話をしたらお願いをきいてくれたりしないだろうか。
……あのひとが話を素直にきいてくれる気もしない。
171
あなたにおすすめの小説
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる