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「魔女、こわい感じだった……」
ジルに訊かれるまま、魔女の特徴を上げていく。
多分おれと同じような黒髪で、見た目もそう変わらない。ただ実際の年齢はわからない。
優しく優雅な物腰に見えて、急に刺すような氷のような空気になるし、機嫌がよくなったかと思えば、無邪気に意地悪なことを言う。
悪魔のようで、子供のようで、掴みどころがなくて。
余計なことをしたら怒らせてしまいそう。
……でも話をするしか、ない気もする。
どうしても、それ以外の考えが浮かばなくて。
魔力でどうにも出来ないなら、おれに出来るのはそれだけ。
武力でもどうにも出来ないだろうし、他所から来たおれの力も、遥陽の力も魔女相手には役に立たなさそうだ。
……だから、魔女には、おれがかわいそうじゃないって、間違ってないって、だからここに居たいって、ちゃんと、伝えなきゃ。
◇◇◇
「今日は俺はこっちじゃなくて良さそうですね~」
朝からモーリスさんはご機嫌だった。
起こしに来た時も、朝食の時も、馬車に乗る前も。
部下でありながら友人でもあるモーリスさんのその反応に、流石のジルも多少は羞恥心もあるようで、追い払うようにあしらった。
モーリスさんは弟にするように、おれの腰を軽く叩くと、ユキ様が元気になられて良かったです、と笑って扉を閉めた。
昨夜は仲良く、というか、つい先程まで同じベッドに居たけれど、この狭い空間にふたりでいて気まずくならないのが嬉しい。
当然のように隣に座り、少し照れくさい笑顔を向ける。
「今日どれくらいに着くかな」
「夕方……夜はそんなに遅くにならないんじゃないかな」
微妙な時間だな、キャロルにお土産を渡しに行くのは明日に回した方が良さそうだ。
遥陽には……お土産だけじゃなくて、話もしたいし、でも遥陽も忙しかったりして……
いやでもこれもめちゃくちゃだいじな話だと思うし、おれが遥陽の立場なら、翌日に回されるのはいやだ。
「……どうにかするから、帰ったらすぐにハルヒに会いに行こう、呼んでもいいし」
「あ、ありがと……」
王太子様がそう言うなら、遥陽の仕事関連はどうにか出来るんだろう。
そこは心強い。
ジルにくっついて、腕にしがみつく。
これくらいならもう照れもなく出来る。
……いや、やっぱり少し恥ずかしいけど。でも当然のようには出来るようになった。
される側のジルが恥ずかしがらずに受け入れるから、おれが悩む必要はないっていうか、寧ろおれから仕掛けないと、それを超える甘ったるいことがおきるから、先に抑えてしまうというか。
「こんなこと言うのはハルヒに申し訳ないけど」
「……?」
「こうしてユキとふたりきりでいられる時間が今日までだと思うと残念だな」
ほら、油断してるとまたそんな甘いことを言う。
……おれだって残念だとは思うけど。
でも多分、夜はまたふたりで寝るし。
ふたりきりでいられるのはまだある、筈。
揺れる馬車の中、それ以外は魔女の話を避けるように、たわいもない話で盛り上がった。
キャロルのかわいい話、シャノン様のちょっとこわい話、モーリスさんとの幼少期、アンヌさんの得意料理、遥陽の天使のようにかわいいところ。
知らないことはたくさんあって、知ることでびっくりしたり、納得したり、もっとすきになったり。
穏やかな話し方、擽るような声、俺を見つめる優しい瞳、時折触れる柔らかな指先。
すき、もう本当にだいすき。
やっぱり離れたくない。自分でも頭の中がお花畑になってるとわかるんだけど、もうこの際どうだっていい。
この世界に残れるかどうかわからないんだから、お互いの好意はしっかり伝えておかなきゃ。
この先どう転んでも後悔を残さないように。
◇◇◇
ユキ、と優しく躰を揺すられて瞳を開ける。昼食後の馬車は大きな揺り篭だ。
勿体ないと思いつつも、眠気には逆らうことが出来ない。
もう魔力だだ漏れなんてことも抑えられてきたと思うし、今日は魔力自体使ってないのに、それでも眠くなっちゃう。
隣にジルがいる安心感もあるのかな。
「んん……もう着く?」
「もうそろそろだよ、街には着いた」
「あー……」
んん、と腕を背を伸ばして、それからジルに凭れ掛かる。
窓から見える空は昏いオレンジで、どうやら夜になる前には着いたようだ。
遥陽と話をする時間もある。
一週間離れていただけで、この街も久しぶりだな、と思ってしまう。
一週間。一週間かあ。
一週間って、短くて長くて、……今のおれには、とても短い。
◇◇◇
「何それ……」
お土産を持って、遥陽の部屋に向かい、久し振りだね、お帰り!と笑顔で出迎えてくれた遥陽に、雑談をするのももどかしく、魔女の話をした。
遥陽は混乱したように、困ったような笑顔を浮かべ、それからすぐに涙を滲ませた。
自分だって泣いたくせに、遥陽に泣かれると弱いおれは慌てて抱き締めた。
相変わらず華奢な躰が震えていて、いやだ、いやだと声を漏らす。
やっぱり遥陽から離れることなんか出来ない。置いていけない。おれだけ帰るなんて出来ない。
ジルだって遥陽だってどっちからも離れたくないけど、おれがいないと遥陽は本当にひとりぼっちになっちゃう。
ジルに訊かれるまま、魔女の特徴を上げていく。
多分おれと同じような黒髪で、見た目もそう変わらない。ただ実際の年齢はわからない。
優しく優雅な物腰に見えて、急に刺すような氷のような空気になるし、機嫌がよくなったかと思えば、無邪気に意地悪なことを言う。
悪魔のようで、子供のようで、掴みどころがなくて。
余計なことをしたら怒らせてしまいそう。
……でも話をするしか、ない気もする。
どうしても、それ以外の考えが浮かばなくて。
魔力でどうにも出来ないなら、おれに出来るのはそれだけ。
武力でもどうにも出来ないだろうし、他所から来たおれの力も、遥陽の力も魔女相手には役に立たなさそうだ。
……だから、魔女には、おれがかわいそうじゃないって、間違ってないって、だからここに居たいって、ちゃんと、伝えなきゃ。
◇◇◇
「今日は俺はこっちじゃなくて良さそうですね~」
朝からモーリスさんはご機嫌だった。
起こしに来た時も、朝食の時も、馬車に乗る前も。
部下でありながら友人でもあるモーリスさんのその反応に、流石のジルも多少は羞恥心もあるようで、追い払うようにあしらった。
モーリスさんは弟にするように、おれの腰を軽く叩くと、ユキ様が元気になられて良かったです、と笑って扉を閉めた。
昨夜は仲良く、というか、つい先程まで同じベッドに居たけれど、この狭い空間にふたりでいて気まずくならないのが嬉しい。
当然のように隣に座り、少し照れくさい笑顔を向ける。
「今日どれくらいに着くかな」
「夕方……夜はそんなに遅くにならないんじゃないかな」
微妙な時間だな、キャロルにお土産を渡しに行くのは明日に回した方が良さそうだ。
遥陽には……お土産だけじゃなくて、話もしたいし、でも遥陽も忙しかったりして……
いやでもこれもめちゃくちゃだいじな話だと思うし、おれが遥陽の立場なら、翌日に回されるのはいやだ。
「……どうにかするから、帰ったらすぐにハルヒに会いに行こう、呼んでもいいし」
「あ、ありがと……」
王太子様がそう言うなら、遥陽の仕事関連はどうにか出来るんだろう。
そこは心強い。
ジルにくっついて、腕にしがみつく。
これくらいならもう照れもなく出来る。
……いや、やっぱり少し恥ずかしいけど。でも当然のようには出来るようになった。
される側のジルが恥ずかしがらずに受け入れるから、おれが悩む必要はないっていうか、寧ろおれから仕掛けないと、それを超える甘ったるいことがおきるから、先に抑えてしまうというか。
「こんなこと言うのはハルヒに申し訳ないけど」
「……?」
「こうしてユキとふたりきりでいられる時間が今日までだと思うと残念だな」
ほら、油断してるとまたそんな甘いことを言う。
……おれだって残念だとは思うけど。
でも多分、夜はまたふたりで寝るし。
ふたりきりでいられるのはまだある、筈。
揺れる馬車の中、それ以外は魔女の話を避けるように、たわいもない話で盛り上がった。
キャロルのかわいい話、シャノン様のちょっとこわい話、モーリスさんとの幼少期、アンヌさんの得意料理、遥陽の天使のようにかわいいところ。
知らないことはたくさんあって、知ることでびっくりしたり、納得したり、もっとすきになったり。
穏やかな話し方、擽るような声、俺を見つめる優しい瞳、時折触れる柔らかな指先。
すき、もう本当にだいすき。
やっぱり離れたくない。自分でも頭の中がお花畑になってるとわかるんだけど、もうこの際どうだっていい。
この世界に残れるかどうかわからないんだから、お互いの好意はしっかり伝えておかなきゃ。
この先どう転んでも後悔を残さないように。
◇◇◇
ユキ、と優しく躰を揺すられて瞳を開ける。昼食後の馬車は大きな揺り篭だ。
勿体ないと思いつつも、眠気には逆らうことが出来ない。
もう魔力だだ漏れなんてことも抑えられてきたと思うし、今日は魔力自体使ってないのに、それでも眠くなっちゃう。
隣にジルがいる安心感もあるのかな。
「んん……もう着く?」
「もうそろそろだよ、街には着いた」
「あー……」
んん、と腕を背を伸ばして、それからジルに凭れ掛かる。
窓から見える空は昏いオレンジで、どうやら夜になる前には着いたようだ。
遥陽と話をする時間もある。
一週間離れていただけで、この街も久しぶりだな、と思ってしまう。
一週間。一週間かあ。
一週間って、短くて長くて、……今のおれには、とても短い。
◇◇◇
「何それ……」
お土産を持って、遥陽の部屋に向かい、久し振りだね、お帰り!と笑顔で出迎えてくれた遥陽に、雑談をするのももどかしく、魔女の話をした。
遥陽は混乱したように、困ったような笑顔を浮かべ、それからすぐに涙を滲ませた。
自分だって泣いたくせに、遥陽に泣かれると弱いおれは慌てて抱き締めた。
相変わらず華奢な躰が震えていて、いやだ、いやだと声を漏らす。
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