【完結】召喚失敗された彼がしあわせになるまで

鯖猫ちかこ

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 ◇◇◇

「今日も一緒か」
「別にジルはいなくてもいいよ」
「ハルヒとふたりきりでなんて寝させないよ」
「なーにやらしいこと考えてるんだろーね、この王子様はあ」

 おれの肩を抱いて、遥陽はからかうように笑う。
 なんかもうこのふたり、実は仲良いんじゃないかとすら思えてきた。
 食事も済ませて、もうあとは寝るだけなんだけど、眠れる気がしない。
 明日だ、という興奮と、両脇のふたりのせいで。

「……優希、これ」
「えっ、ひえ!」
「……うわ、えぐ」

 何かに気付いた遥陽がおれの襟元をぐいと覗き、眉を顰めてジルを睨みつける。
 ジルはそのおれの襟元をそっと直し、君は遠慮がないね、と呆れたように言う。
 ……自分でお願いしてしまった痕のことを言い合うものだから居た堪れない。
 おれがお願いしたものだと言えばいいんだけど、そんなことを遥陽にわざわざ言わないといけないなんて恥ずかしくてしねる。

「遠慮がない関係なもので!どう、羨ましい?」
「羨ましいのはハルヒでしょう?」
「……むかつく」
「あー……」
「ねえ優希、ジル性格悪いよ、止めときなよ」
「ユキ、そんなことないよね?」

 おれの両手を取って、おれのすきなかわいい顔で、甘えたような声を出す遥陽と、腰を抱いて、低く柔らかい声でおれを呼ぶジル。
 ふたりともおれを困らせるのが上手い。
 両脇からおれを褒め、相手を貶し、おれを撫で、相手の手を叩き落とし、おれに猫撫で声で話し掛ける。
 胃が痛くなりそう。
 もっと仲良くしてくれ。

 ふと、おれがいなくなったらこのふたりはどうなるんだろうと思った。
 意外と仲良くするんじゃないか。気は合うと思うんだよね。
 こんな文句言いながらも、遥陽はジルを選べと言ったし、ジルも遥陽のことを認めてる。
 仲良くしてくれたら嬉しい。
 嬉しいけど複雑。おれを透過してしまうのは。
 ……勝手におれがいなくなったらなんて考えておいて勝手に嫉妬するなって話なんだけど。

「はー……」
「あっ溜息」
「眠れそうにないや」
「寝る気だったの?」
「……一応ベッドの上だよ」
「話してよーよ」
「何の話」

 枕を抱いて遥陽がおれの顔を覗き込む。
 大きな瞳がきらきらしている。手を差し出してくるから、思わず握ってしまった。
 華奢であたたかい手がぎゅうとおれの手を掴む。
 懐かしいな、何かある毎に掴んできた手だ。
 小さな遥陽が転んでは手を差し出し、ふたりで迷子になっては不安で手を繋ぎ、嬉しいことがあれば手を握って喜んだ、そしてこの手を掴んでこの世界に来た。

 明日はどういう気持ちでこの手を握ることが出来るのだろう、離すことになるのだろう。

「また暗いこと考えてるね」
「う」

 背後からジルが抱き締めてくる。
 すっぽりと収まってしまうのが悔しくて、でも安心してしまう。
 背中があったかくて、心臓が背中に移動したのかって位ばくばくするのを感じる。

「く、暗いことって」
「明日のこと」
「……そりゃ、考える、でしょ」

 ジルだって考えるから、こうやって連日ずっと一緒に居てくれるんでしょ、どうでもいいって放っておかないんでしょ。

「あ」

 遥陽の手毎、おれの手を覆う大きな手。

「ユキはすぐ表情に出るから」
「そんなとこもかわいいでしょ」
「うん、かわいい」
「……」
「暗いことばかり考えてしまうのもわかるけど、明るいことも考えよう、このままじゃそっちに引っ張られてしまう」

 明るいことって?と呟くと、無事に明日が過ぎたら何を食べようか、と訊く。

「……アンヌさんにご飯作ってもらう、ミルクのスープと、お肉と、果物……タルトも食べたい」
「やりたいことは?」
「んー、まだキャロルを招待してなかったよね、お菓子を一緒に作るって約束したんだ」
「じゃあ約束守らないとね」
「うん、お茶会しなくちゃ」
「やらないといけないことは?」
「えっと……シャノン様に幾つか薬を押し付け……貰ったんだった、効果をみてほしいって」
「……それは俺かハルヒがいる時にしてね」
「うん」
「やってないことある?」
「前に遥陽と話したんだけど、おれ、王様や王妃様にまだ挨拶してないなって。常識ない奴って思われてない?おれから会いに行くとか出来ないし」
「ああ、それは別に気にしなくても……」
「いや気になるでしょ、ジルの親だよ」
「……じゃあその内機会を設けよう」
「……会いたいって訳ではないんだよ?ただ普通は……ってだけで」

 まだ行ったことのない場所もたくさんあるし、第三王子とも会ったことない。
 ティノとすらそんなに話をしたこともないし、セルジュさんにもまだ教えて欲しいこと、褒めて欲しいことがある。
 モーリスさんの弟たちに挨拶してないし、遥陽の労働環境とかも調べてみたいし、またジルの手伝ったご飯やお菓子を誰かに自慢したい。
 もっともっとこうやって触れていたい。
 こどもの頃のジルの話を訊きたい。
 モーリスさんと遊んでた頃や剣術の練習をしてた頃の話も訊きたいし、仕事をしてる時の真面目な顔も格好良かった、もっと見たいし、キャロルにお兄ちゃんしてるジルもすき。
 もっと色々見たい知りたい聞きたいジルがたくさんある。
 帰ってしまったらもう二度とわからない、知ることが出来ない。
 それは遥陽のことだって同じだ、これだけ一緒にいて、知らないことがまだまだある。
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