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ろくじゅういち
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シャルルのばか!ばか!ばか!
だいっきらい!ばか!きらいだ、きらい、ばか!
「う~……!」
あの魔法使いや熊の子ばっかり!
おれとは一緒にいると困ったかおしかしないくせに!ひとりで寝ろっていうくせに!
魔法使いとは嬉しそうにして、一緒に寝て、仲良くして、約束して、熊の子とは一緒にお風呂!?楽しかった!?よかったですねえ!
ばしゃん!とお湯に浸かってひとりで唸る。
信じらんない、おれをほったらかして。あんなに!楽しそうに!
確かに前、一緒に入りそうになった時、出ていけって言った。
おれと違って、リアムかまだほんのこどもだということもわかってる。
だけどいやな気持ちになるのはそうなの。
いやだ。
魔法使いにも、リアムにも距離が近い。聖女にだってそうだった。
おれの『特別』なシャルルには、他にもたくさん『特別』があって、おれだけを『特別』にしてくれない。
苦しい、かなしい、さみしい、どうしたらおれのこと、いちばんの『特別』にしてくれるのかわからない。
おれのこと、すきにならないって言った。何回も、あの時のことを思い出す。
胸が痛くなって、苦しくなって、いやな気持ちにしかならないのに、何度も何度も繰り返す。
いやだ、いや、やだなあ、やだ……
やり直したい、最初から、全部。
そしたらもっと、シャルルはおれのこと、見てくれるかな、すきにならないなんて言わないかな、どうしたって無理かな。
おれだってもっと、シャルルに笑ってもらいたいのに。
何もかも上手くいかない。
いや、会わなければ良かったのに。
そしたらこんなに、シャルルの姿を見る度に思い出したりなんか、しなかったのに。
◆◆◆
「……シャルは?」
「あっ、今……わ、髪ちゃんと乾かさなきゃ風邪ひくよ!」
皆が居たリビングに戻ると、そこにはレイとソフィしかいなかった。
ソフィは相変わらず丸くなってよく寝ている。そのソフィを撫でていたレイはすぐに立ち上がって、室内はあったかくしてるけど一応外は寒いんだからね、とおれの頭を拭いてきた。
すぐにふわ、と髪が乾いて、熱くなかった?と訊いてくる。
シャルルは出来ないと言っていた魔法だ。それをそんな簡単に。
本当に、レイは魔法使いなんだ。
訊かなきゃ、魔力くれますかって。おれに魔力渡せますかって。
シャルルにはあんなこと言ったけど、実際に同じように貰おうとは思ってはない。だってやっぱりあの方法はシャルルからじゃなきゃいやだ。
だから、何か、他の方法で。
でももし大丈夫だよ、魔力あげられるよって言われたら。
だめだよ、あげられないよって言われたら。
おれはどうするんだろう。
本当にシャルルと離れるんだろうか。
だめだったとして、それでもこのまま、苦しいまま一緒にいるんだろうか。
訊けない、どうしよう、答えを聞くのがこわくて、訊けない。
「……シャルルさんは今外にいるよ」
「外に?」
「うん、昨日着いた時には陽が落ちていたでしょう……ノエさんは気を失ってたから覚えてないかな。だからどうなってるが見てみたいって。リアムが家の周りを案内してるところ」
「……そ、っか」
何か飲む、と訊かれて、黙ったままでいると、少し笑って、お風呂上がりはさっぱりしたものがいいよね、でも冷たいのはちょっとあれだから、とまるでリアム相手のような心配のしようだ。
見た目だけでいってもあそこまでこどもではないのに。
「ホットレモン、ちょっと酸っぱいの大丈夫?甘いのがすきだって聞いたけど」
「……甘いのはすき」
「ちょっと冷ましてはいるけど、まだ熱かったらもう少しおいといてね、俺もついでだからお風呂入ってきちゃうから」
「あ……」
「どうかした?」
「あ、ありが、と」
シャルルにお礼は?とよく言われるものだから。つい。いやそれで正しいのだけれど、タイミングが少しずれてると自分でもわかった。
それでもレイはにこっと笑って、どういたしまして、と言うと背を向けた。
優しい。
おれの頭や髪を触る手つきも、視線が合うとふわっと笑うところも、威圧的なところがない雰囲気も、穏やかな話し方も。
シャルルは少し乱暴なところもあるし、怒ることもあるし、そうじゃないでしょ、って威圧的なところもあるし、普段は優しいけれど、ノエ!と怒鳴ることだってある。
あるのに、それでもやっぱりシャルルがいい。
なんでかとか、そんなの、明確に言葉に出来ない。
それどころか、レイの方がシャルルより優しいんじゃないかとか、そういうのも思うけど。
ちゃんとレイと話してまだ一日も経ってない。でもシャルルと会ったばかりの時より、ずっと優しい。
それでもシャルルがいい、シャルルがいいの。
……シャルルがいいのに。
またおれを待たずに、どっか行っちゃった。
帰ってくるのは絶対帰ってくるとわかる。リアムを連れてるし、ソフィも留守番させたままだし。
それでもおれを置いてったことに変わりはない。
腹が立つ。自分にもシャルルにも。
「……帰りたいなあ」
つい零してしまったのは、本音だった。
おれでも飲めるくらいの温度の、甘くてちょっと酸っぱい飲み物をぐいと飲み干してカップを置く。
ここに来ればどうにかなるかなって思ってた。
でもなんだか違うみたい。
おれの居場所じゃなかったみたいだ。
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