50 / 55
3
50
しおりを挟む
それだけは本当に信じてほしいと念押しして、もう一度だけキスをした。
今日はこれで最後、と皇輝が言う。
ほっとしたような、でも残念なような。
したかった訳じゃない、ただ、僕のことを欲しがってもらえるのは嬉しいから。
きっちりと着替えさせられ、自分も着替えた皇輝はいつものように僕を待たせて、鍵を返しに行く。
待ちながら、僕も頭の整理をしたいのに、頭の中が全部皇輝のことで埋まってしまう。
もっとちゃんと話したい。なのに、上手く言葉に出来ない。
自分の手のひらをじっと見る。
なにもおかしいところはない。消えそうな気配もない。痛みも、傷も、欠けたところも何もない。
……これは、ちゃんと想いが通じたということなのだろうか。
何かこの、例えばぱあっと光に包まれる、とか人魚姫が現れる、とかないから、上手くいったのかどうかわからない。
もう泡になることに怯えなくていいのだろうか。
「碧」
「あ、鍵……ありがと」
ジャージ姿の皇輝が戻ってくる。見慣れた姿なのに、まあその、どきっとしてしまう。
何でも似合うんだよなあという気持ちと、制服をびしょ濡れにしてしまった罪悪感と、ついさっきまで抱き締められていた事実。
そんな思考を追いやるようにして、帰ろ、と笑ってみせる。
「……土曜日」
「え」
「空けてて、夜」
「へ、あ……え、う、……うん」
視線が空を舞う。
誤魔化そうとして、そんなことも出来なくて、そのまま頷いた。
意図なんて馬鹿でもわかる。別にいい、そうしたかったしそう望んでた。
でもこの週頭に言われてしまうと、週末までをそわそわして待つ羽目になるということで……
毎日のカウントダウンに、僕の心臓は持つのだろうか。
「あ、じゃあ土曜日に」
「なに」
「マオさん……魔女と会う、ってのは……」
「会う」
食い気味に即答された。
やっぱりちょっと怒ってるのだろうか。
「や、まだ、会うとか約束してないから、会えるかどうかはわからないんだけど、でも」
「会う、絶対会う、向こうの予定キャンセルさせてでも会う」
「それはちょっと……」
「なんなら佐倉が居てもいいから」
あー、これは話し合いがしたいってことなんだろうな……四人揃っちゃう。
僕上手く話せる自信ないんだけど。
「……きいてみる」
「そうして」
「……ん」
「その後俺ん家ね」
「ふぁっ」
家の前まで送っていかれ、再度確認をした皇輝は心做しか満足そうな顔で帰って行った。
感情ジェットコースター過ぎないですか……
それはまあ、僕も同じなんだけど。
◇◇◇
「俺の読み通りになったじゃーん」
土曜日、集まった途端に満面の笑みでマオさんが言う。
「は」
「カラオケでい?あ、マナちゃんも来たんだ」
「先輩の奢りと聞いて」
「えー、四人分はきっついわあ」
「あそこのカラオケならあたしハニトー食べたい、アオくん一緒に食べよ」
「え、あ、うん……?」
何故か佐倉が僕の腕を引き、先頭を歩く。
さっさと受付を済ませ、部屋に入るなり先に注文決めまーす、とオーダーも済ませてしまう。
それから僕の隣に座った佐倉が、この四人で集まるってことは、とうとう思い出したんだ?と皇輝に向かって言った。
挑発的な言い方だったにも関わらず、素直に皇輝は頷く。
遅くなりました、と。
「ほんっと遅いわよ!あたしのことはともかく、普通アオくんとあんだけいたらすぐ思い出すでしょーよ!」
「返す言葉もない」
「俺だってあのステージで三人見てすぐ気付いたぞ」
「……」
追い込まれた皇輝が何だか面白い。こんなところあんまり見たことないから。
なんか笑ってしまう。
そんな僕を見て、皇輝の視線が助けてくれ、と言ってるのに気付いた。
タイミングよく頼んだ食事が届いて、佐倉が嬉しそうに手を伸ばす。
「で、今日この四人を呼んだ理由は?お茶なんかじゃないでしょ」
「……マオさん、のことがよくわからないのと、俺は前世なんかより、碧を選ぶって話しを」
「そんなんもうわかってるわよ、どうぞどうぞ、アオくんといちゃついて下さいな、あたしはアオくんにも話したけど、人魚姫の話を知ってまでコーキとどうこうなりたいとか思わないの、元々そんなつもりもなかったけど。でもこの話を終わらせる為にアオくんと早くくっついてくれたらいいなとあたしは思ってたの。それだけ!」
早口で捲し立てた佐倉は、フォークを口に運ぶとハムスターのようにパンを詰め込んでいく。
その流れで僕の口にも突っ込まれた。熱い。あまい。
皇輝からしたら、皆のおかしいと思ってた行動の答え合わせのようなものだろう。
だからあの時……と毎回発見したかのような顔をしている。
佐倉が付き合う振りを持ち掛けたのも、僕と仲良くしてたのも全部皇輝に思い出させる為。
「そんで完全に思い出したのが碧ちゃんを助けようとした時なんでしょ、うける、人魚姫と王子様逆転しちゃってんじゃん」
「あは、ほんとだ」
「……俺アンタすきじゃないです」
「俺だって王子のことなんてそんなすきじゃないよ、人魚ちゃんの為だし」
「えっなんで急に喧嘩すんの」
自然に喧嘩を売る皇輝も、喧嘩を買おうとするマオさんも意味わからん、慌ててふたりを止めに入る。
今日はこれで最後、と皇輝が言う。
ほっとしたような、でも残念なような。
したかった訳じゃない、ただ、僕のことを欲しがってもらえるのは嬉しいから。
きっちりと着替えさせられ、自分も着替えた皇輝はいつものように僕を待たせて、鍵を返しに行く。
待ちながら、僕も頭の整理をしたいのに、頭の中が全部皇輝のことで埋まってしまう。
もっとちゃんと話したい。なのに、上手く言葉に出来ない。
自分の手のひらをじっと見る。
なにもおかしいところはない。消えそうな気配もない。痛みも、傷も、欠けたところも何もない。
……これは、ちゃんと想いが通じたということなのだろうか。
何かこの、例えばぱあっと光に包まれる、とか人魚姫が現れる、とかないから、上手くいったのかどうかわからない。
もう泡になることに怯えなくていいのだろうか。
「碧」
「あ、鍵……ありがと」
ジャージ姿の皇輝が戻ってくる。見慣れた姿なのに、まあその、どきっとしてしまう。
何でも似合うんだよなあという気持ちと、制服をびしょ濡れにしてしまった罪悪感と、ついさっきまで抱き締められていた事実。
そんな思考を追いやるようにして、帰ろ、と笑ってみせる。
「……土曜日」
「え」
「空けてて、夜」
「へ、あ……え、う、……うん」
視線が空を舞う。
誤魔化そうとして、そんなことも出来なくて、そのまま頷いた。
意図なんて馬鹿でもわかる。別にいい、そうしたかったしそう望んでた。
でもこの週頭に言われてしまうと、週末までをそわそわして待つ羽目になるということで……
毎日のカウントダウンに、僕の心臓は持つのだろうか。
「あ、じゃあ土曜日に」
「なに」
「マオさん……魔女と会う、ってのは……」
「会う」
食い気味に即答された。
やっぱりちょっと怒ってるのだろうか。
「や、まだ、会うとか約束してないから、会えるかどうかはわからないんだけど、でも」
「会う、絶対会う、向こうの予定キャンセルさせてでも会う」
「それはちょっと……」
「なんなら佐倉が居てもいいから」
あー、これは話し合いがしたいってことなんだろうな……四人揃っちゃう。
僕上手く話せる自信ないんだけど。
「……きいてみる」
「そうして」
「……ん」
「その後俺ん家ね」
「ふぁっ」
家の前まで送っていかれ、再度確認をした皇輝は心做しか満足そうな顔で帰って行った。
感情ジェットコースター過ぎないですか……
それはまあ、僕も同じなんだけど。
◇◇◇
「俺の読み通りになったじゃーん」
土曜日、集まった途端に満面の笑みでマオさんが言う。
「は」
「カラオケでい?あ、マナちゃんも来たんだ」
「先輩の奢りと聞いて」
「えー、四人分はきっついわあ」
「あそこのカラオケならあたしハニトー食べたい、アオくん一緒に食べよ」
「え、あ、うん……?」
何故か佐倉が僕の腕を引き、先頭を歩く。
さっさと受付を済ませ、部屋に入るなり先に注文決めまーす、とオーダーも済ませてしまう。
それから僕の隣に座った佐倉が、この四人で集まるってことは、とうとう思い出したんだ?と皇輝に向かって言った。
挑発的な言い方だったにも関わらず、素直に皇輝は頷く。
遅くなりました、と。
「ほんっと遅いわよ!あたしのことはともかく、普通アオくんとあんだけいたらすぐ思い出すでしょーよ!」
「返す言葉もない」
「俺だってあのステージで三人見てすぐ気付いたぞ」
「……」
追い込まれた皇輝が何だか面白い。こんなところあんまり見たことないから。
なんか笑ってしまう。
そんな僕を見て、皇輝の視線が助けてくれ、と言ってるのに気付いた。
タイミングよく頼んだ食事が届いて、佐倉が嬉しそうに手を伸ばす。
「で、今日この四人を呼んだ理由は?お茶なんかじゃないでしょ」
「……マオさん、のことがよくわからないのと、俺は前世なんかより、碧を選ぶって話しを」
「そんなんもうわかってるわよ、どうぞどうぞ、アオくんといちゃついて下さいな、あたしはアオくんにも話したけど、人魚姫の話を知ってまでコーキとどうこうなりたいとか思わないの、元々そんなつもりもなかったけど。でもこの話を終わらせる為にアオくんと早くくっついてくれたらいいなとあたしは思ってたの。それだけ!」
早口で捲し立てた佐倉は、フォークを口に運ぶとハムスターのようにパンを詰め込んでいく。
その流れで僕の口にも突っ込まれた。熱い。あまい。
皇輝からしたら、皆のおかしいと思ってた行動の答え合わせのようなものだろう。
だからあの時……と毎回発見したかのような顔をしている。
佐倉が付き合う振りを持ち掛けたのも、僕と仲良くしてたのも全部皇輝に思い出させる為。
「そんで完全に思い出したのが碧ちゃんを助けようとした時なんでしょ、うける、人魚姫と王子様逆転しちゃってんじゃん」
「あは、ほんとだ」
「……俺アンタすきじゃないです」
「俺だって王子のことなんてそんなすきじゃないよ、人魚ちゃんの為だし」
「えっなんで急に喧嘩すんの」
自然に喧嘩を売る皇輝も、喧嘩を買おうとするマオさんも意味わからん、慌ててふたりを止めに入る。
33
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。
はぴねこ
BL
高校生の頃、片想いの親友に告白した。
彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。
もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。
彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。
そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。
同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。
あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。
そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。
「俺もそろそろ恋愛したい」
親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。
不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる