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「ひゎ」
「だいじょーぶ?熱っぽいんでしょ?食欲は?ある?雑炊とかうどんとかのがいい?」
お肉と魚もあるよ、とおれの頬に触れながら話す。
ナチュラルにそんな距離の近いことをする男だ、こちとらそんなこと慣れてないんだが。おかげで間抜けな声が出てしまった。
肌に触れられてるだけで、どきどきする心臓が伝わりそうで、その手を退けて、食べられる、と返した。筈だった。
その手を退けられなくて、手首を掴んだまま。
あつい頬に少し冷たい手が気持ちいい。
大きな手が、少しかおる香水が、それに混じる悠真さんのにおいが気持ちいい。それをもっと甘受したいと躰が勝手なことをする。
悠真さんが食欲あるなら良かった、と笑ったことではっとして、やっとその手を離した。
なんなのもう、おれの躰、理性利かなさすぎでは?欲望がだだ漏れで恥ずかしくなる。
「食欲あって体力ない時は豚かな、生姜焼きすき?」
「すき」
「決定だ」
「作れんの?」
「これくらいならね」
生姜焼きなんて最近だと定食屋でくらいでしか食べてないかな、あと買った弁当にちょっとだけ入ってるやつ。玉ねぎの方が多いんじゃないかってやつ。
花音が……いや、千晶くんが作ってくれるのは鍋料理が多い。
カレーやシチュー、ポトフやごろごろ具材のスープや肉じゃが、筑前煮。
数日分の作り置きとなるとそうなってしまう。美味しいし勿論有難いから文句はない。もう一度言うが美味しいし。
常備菜や、煮込みハンバーグや唐揚げ、煮魚、そういうものもタッパーでお裾分けしてくれるけど。
「生姜焼き久し振り、食べたい」
「よーし、座って待ってていいよ」
「見ててい?」
「面白いもんじゃないよ」
「面白いよ」
母親が、千晶くんが料理をしてるのを見るのがすき。花音が手伝ってるのもすき。おれが手伝おうとすると大概座っとけと言われてしまうのだけれど。
おれの為に作ってくれるご飯は美味しい。
例えそれが、焼きすぎちゃった、少し味薄かったかな?いつもと違うお味噌使ったら思ってたのと違うかも、なんてちょっとした失敗があったとしても。
「千切りうま」
「生姜焼きは千切りキャベツだよね」
「玉ねぎいらない」
「きらい?」
「玉ねぎはきらいじゃないけど、玉ねぎ多い生姜焼きはやだ」
「はは、わかった、肉オンリーでいこ」
こちらに視線は向けず、手元からかおを上げない。
それでも蔑ろにせず、おれと会話をする悠真さんの声は相変わらず安心する。
程よく低くて良い声してるんだよなあ……
調味料は多いんだな、花音ちゃんが使うの?あ、味噌汁の具材に拘りある?俺キャベツとたまご入ってるのすきなんだよね、今日はキャベツ被りしちゃうから玉ねぎこっちに入れちゃうか。ポテサラも結構得意なんだよ、その内披露すんね、
魚は下処理しといたから。冷凍庫に入れとくよ、解凍して……焼くことは出来るんだよね?
嫌いなのは酢だったっけ、すきなのは?プリン?おやつじゃん、いや、俺もすきだよ、プリン。柔らかいのがすき?一緒一緒、飲めるくらい柔らかいのがすきだよ、俺。
野菜?これ茄子とピーマン、煮浸しにしようかなって。トマト大丈夫?じゃあトマトも入れちゃおう、これも多目に作って冷蔵庫入れとくね、まさかピーマン、食べれないとかないよね?ああ肉詰めも美味しいよねえ、ひき肉は買ってないんだよな、今度作ろうか。
包丁の音、跳ねる油の音、沸騰する音、肉の焼ける音。
悠真さんの穏やかに話す声の後ろで聞こえる音。それがやたらと美味しそうで。
多分……おれには作れないけど、特別凝った料理ではない。
でもそれがまた、いつも作ってるんだろうなあと思えて、美味しそうなのに複雑。
いつもは相手に作ってあげてるのかな。おれみたいに見てるだけじゃなく、一緒にわいわい作ったりするのかな。
おれもなんか手伝いとかした方がいいかな、おれんちだし。
「お皿出すとか……」
「あ、助かる、どれ使っていいかわかんないし」
「これと……茶碗はおれのやつ使って、おれ、かのんの使うから。客用のってあんまなくて」
「かわいい」
どきっとした。
でも悠真さんの視線はおれではなくて、手渡した茶碗の方だった。
花音が買ってきた猫柄と犬柄の茶碗なんだ、こどもっぽいけど、どうせ自分たちしか使わないし、誰に見られる訳でもなしと思ってたんだけど。ちょっと恥ずかしくなってきたな。
「ご飯どれくらい食べれそう?」
「……おれがやる、悠真さんどれくらい食べんの」
「うーん、今日は酒も飲まないからがっつり行こうかな」
「山盛り?」
「想像してるよりは少なめくらいかな」
「難しー」
花音たちとは違う距離感。
友人なんて小学生以来いなかったけど、小学生の時の友人関係とも違う。
会社のひととも違う、不思議な関係。
自分を繕わなくてもいい、自然にしていていい、それが凄く気が楽で、勿論緊張とか、苛ついたりなんかもするんだけど、そういうものすらもひっくるめて、一緒にいるのが心地良い。
久し振りに会ったというのに、そう思えるのは悠真さんが親しみやすいのか、番になった効果なのか。
「だいじょーぶ?熱っぽいんでしょ?食欲は?ある?雑炊とかうどんとかのがいい?」
お肉と魚もあるよ、とおれの頬に触れながら話す。
ナチュラルにそんな距離の近いことをする男だ、こちとらそんなこと慣れてないんだが。おかげで間抜けな声が出てしまった。
肌に触れられてるだけで、どきどきする心臓が伝わりそうで、その手を退けて、食べられる、と返した。筈だった。
その手を退けられなくて、手首を掴んだまま。
あつい頬に少し冷たい手が気持ちいい。
大きな手が、少しかおる香水が、それに混じる悠真さんのにおいが気持ちいい。それをもっと甘受したいと躰が勝手なことをする。
悠真さんが食欲あるなら良かった、と笑ったことではっとして、やっとその手を離した。
なんなのもう、おれの躰、理性利かなさすぎでは?欲望がだだ漏れで恥ずかしくなる。
「食欲あって体力ない時は豚かな、生姜焼きすき?」
「すき」
「決定だ」
「作れんの?」
「これくらいならね」
生姜焼きなんて最近だと定食屋でくらいでしか食べてないかな、あと買った弁当にちょっとだけ入ってるやつ。玉ねぎの方が多いんじゃないかってやつ。
花音が……いや、千晶くんが作ってくれるのは鍋料理が多い。
カレーやシチュー、ポトフやごろごろ具材のスープや肉じゃが、筑前煮。
数日分の作り置きとなるとそうなってしまう。美味しいし勿論有難いから文句はない。もう一度言うが美味しいし。
常備菜や、煮込みハンバーグや唐揚げ、煮魚、そういうものもタッパーでお裾分けしてくれるけど。
「生姜焼き久し振り、食べたい」
「よーし、座って待ってていいよ」
「見ててい?」
「面白いもんじゃないよ」
「面白いよ」
母親が、千晶くんが料理をしてるのを見るのがすき。花音が手伝ってるのもすき。おれが手伝おうとすると大概座っとけと言われてしまうのだけれど。
おれの為に作ってくれるご飯は美味しい。
例えそれが、焼きすぎちゃった、少し味薄かったかな?いつもと違うお味噌使ったら思ってたのと違うかも、なんてちょっとした失敗があったとしても。
「千切りうま」
「生姜焼きは千切りキャベツだよね」
「玉ねぎいらない」
「きらい?」
「玉ねぎはきらいじゃないけど、玉ねぎ多い生姜焼きはやだ」
「はは、わかった、肉オンリーでいこ」
こちらに視線は向けず、手元からかおを上げない。
それでも蔑ろにせず、おれと会話をする悠真さんの声は相変わらず安心する。
程よく低くて良い声してるんだよなあ……
調味料は多いんだな、花音ちゃんが使うの?あ、味噌汁の具材に拘りある?俺キャベツとたまご入ってるのすきなんだよね、今日はキャベツ被りしちゃうから玉ねぎこっちに入れちゃうか。ポテサラも結構得意なんだよ、その内披露すんね、
魚は下処理しといたから。冷凍庫に入れとくよ、解凍して……焼くことは出来るんだよね?
嫌いなのは酢だったっけ、すきなのは?プリン?おやつじゃん、いや、俺もすきだよ、プリン。柔らかいのがすき?一緒一緒、飲めるくらい柔らかいのがすきだよ、俺。
野菜?これ茄子とピーマン、煮浸しにしようかなって。トマト大丈夫?じゃあトマトも入れちゃおう、これも多目に作って冷蔵庫入れとくね、まさかピーマン、食べれないとかないよね?ああ肉詰めも美味しいよねえ、ひき肉は買ってないんだよな、今度作ろうか。
包丁の音、跳ねる油の音、沸騰する音、肉の焼ける音。
悠真さんの穏やかに話す声の後ろで聞こえる音。それがやたらと美味しそうで。
多分……おれには作れないけど、特別凝った料理ではない。
でもそれがまた、いつも作ってるんだろうなあと思えて、美味しそうなのに複雑。
いつもは相手に作ってあげてるのかな。おれみたいに見てるだけじゃなく、一緒にわいわい作ったりするのかな。
おれもなんか手伝いとかした方がいいかな、おれんちだし。
「お皿出すとか……」
「あ、助かる、どれ使っていいかわかんないし」
「これと……茶碗はおれのやつ使って、おれ、かのんの使うから。客用のってあんまなくて」
「かわいい」
どきっとした。
でも悠真さんの視線はおれではなくて、手渡した茶碗の方だった。
花音が買ってきた猫柄と犬柄の茶碗なんだ、こどもっぽいけど、どうせ自分たちしか使わないし、誰に見られる訳でもなしと思ってたんだけど。ちょっと恥ずかしくなってきたな。
「ご飯どれくらい食べれそう?」
「……おれがやる、悠真さんどれくらい食べんの」
「うーん、今日は酒も飲まないからがっつり行こうかな」
「山盛り?」
「想像してるよりは少なめくらいかな」
「難しー」
花音たちとは違う距離感。
友人なんて小学生以来いなかったけど、小学生の時の友人関係とも違う。
会社のひととも違う、不思議な関係。
自分を繕わなくてもいい、自然にしていていい、それが凄く気が楽で、勿論緊張とか、苛ついたりなんかもするんだけど、そういうものすらもひっくるめて、一緒にいるのが心地良い。
久し振りに会ったというのに、そう思えるのは悠真さんが親しみやすいのか、番になった効果なのか。
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