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「塩と醤油と味噌」
「なんでも……」
「じゃあ俺塩にしよ、一緒のでいいよね」
「悠真さんも食べるの」
「深夜ラーメンとかひとが食べてんの見たら絶対食べたくなるやつじゃん」
こんな綺麗な家に住んでて、料理も出来る男の家に袋ラーメンがあるのに少し驚いた。
おれみたいにやる気のない奴の家にならともかく。
そう言うと、やる気ない時はカップ麺くらい食べるよ、美味いし、と笑う悠真さんに少し安心した。
だっておれみたいなずぼらな奴、今後その、本当に結婚、とかなったら……その、やっぱりこんな奴止めときゃよかったとか思われるかもしれないし。そういう感覚も結構だいじというか。
「もやしは?」
「いんない……」
「キャベツ」
「いる、かな」
「葱」
「あるの?」
「あるよ、焼豚も入れよ」
「あるのー?」
「冷凍してんのがあんだよね」
鍋とまな板を用意して、冷蔵庫を往復して。
キャベツをざくざくと切って鍋に入れる。
袋ラーメンなんか作ってるところ見てても何も面白くないよと悠真さんは言うけど、座って待ってるのもなんだか失礼な気がして、何も出来ないくせにちょろちょろと後をついて回ってしまう。
「……ふは」
「えっなに、なんで笑うの」
「ついて回るの、雛みたいでかわいくて」
「ついて回ってるつもりじゃっ……」
「待って待って、離れないで」
あと茹でるだけだからさ、と腰を引かれて悠真さんの胸に飛び込む形になってしまった。
ヒート中のことは、飛んでしまわない限りそこそこ、覚えている。
こどものように甘えたり、泣いたり、怒ったり、すきすき言ってしまったり、くっついたりしたことも、殆ど……いや、そこそこ。
あれはおれじゃない、とはいわないけど、発情期なんて頭も躰もおかしくなる時期なのだ。
発情期はあんな甘ったれのおれでも、そうでない時はもうちょっと、その、ちゃんとしてるつもりだったんだけど。
今だって、さっきあんなにどろどろになってしまったこと、恥ずかしいと思ってる。
なのに、今は多分ヒート中でもないのに、抱き締められるのが素直に嬉しいなんて思ってしまった。
おれの意地はどこにいってしまったんだ、こんな恋愛脳じゃなかった筈なんだけど!
「鍋っ、沸騰!してる!」
「あ、やば」
温度を弱めて、悠真さんは片手で器用に麺を茹でる。もう片手はおれの腰に回したまんま。
逃げる訳にもいかず、でもおれも腕を回すのは少し躊躇われて、そっと裾を掴んで、それから、ええと、何か話題を、と悠真さんを見上げた。
「……なんで髪切ったの?」
「前のが良かった?」
「んー……いや、どっちも似合ってると思う、けど、まだちょっと見慣れない、かも」
「妹にさ、チャラチャラしてるから挨拶行くなら切れば、って言われちゃって」
「チャラチャラ……」
「花音ちゃんに……和音の家族にそう思われたら困るし」
おれの引越し先はすぐにわかったという。調べたら翌日には、と。なにそれこわい。
でも当日に行くのは躊躇ってしまった。
おれが逃げたという事実が、その足を鈍らせたんだろう。否定される言葉を何回も聞きたい奴なんてそういないもんな。
そこで思い出したのは千晶くんの連絡先。おれが風邪を引いた時に貰っていたらしい。知らなかった。
千晶くんはおれの味方だったけど、内心は会わせる方がいいと思っていたみたい。それはおれが無理にでも会いに来てほしいと思ってたことが、千晶くんにはわかっていたのだろうか。
でも流石に早いかな、と様子を見ようと思っていたところで、おれがすぐ発情期になってしまった。
それが精神面に関わってるのなら、と悠真さんを呼んだみたい。
でもその前に花音とも電話で話をして、その、おれの部屋に来る前に、出社前の花音に話をつけてきたとか。
「……めちゃくちゃ怒ってたでしょ、かのん」
「そりゃあもう、めちゃくちゃね」
でも仕方ないよ、花音ちゃんのだいじな和音を傷付けた訳だし、ぶん殴られるくらい覚悟してた、と苦笑する。
「えっ、なぐっ、なぐった!?」
「違う違う、覚悟はってこと。実際殴られてはないよ」
「はー……かのんならしそうだから……良かったあ」
「俺なんか殴ったら花音ちゃんのが手ェ怪我しそうだし。でも正直、蹴られるくらいされた方がましだったかな」
「……かのん、なにしたの」
「んー……泣かれちゃった」
「へ」
絶対、かずねのこと不幸にさせたら赦さないんだから。わかったらさっさと謝りにいって、番になった責任、最後まで取って。わたしたちじゃ出来ないから、あんたしか出来ないんだから、わたしより、かずねをしあわせにして。
そう怒鳴って追い出されたらしい。
……花音といえば花音らしいけど。
「言ったよね、俺、執着強いんだよ、元々、離す気なんてなかったけど。でも和音が逃げたら、……もう一回嫌だって言われたら、和音の為を思ったら引かなきゃいけないのかなって思ってた」
「……」
「けど、そうじゃないなら、花音ちゃんに言われなくても、最後まで責任取るよ、絶対、番の解除なんて、死んでもしないから」
「……当たり前でしょ、おれの番、悠真さんしかいないんだから」
「……うん」
髪を切った悠真さんの表情はよく見える。
正直、それは悪くないな、と思うのだ。
「なんでも……」
「じゃあ俺塩にしよ、一緒のでいいよね」
「悠真さんも食べるの」
「深夜ラーメンとかひとが食べてんの見たら絶対食べたくなるやつじゃん」
こんな綺麗な家に住んでて、料理も出来る男の家に袋ラーメンがあるのに少し驚いた。
おれみたいにやる気のない奴の家にならともかく。
そう言うと、やる気ない時はカップ麺くらい食べるよ、美味いし、と笑う悠真さんに少し安心した。
だっておれみたいなずぼらな奴、今後その、本当に結婚、とかなったら……その、やっぱりこんな奴止めときゃよかったとか思われるかもしれないし。そういう感覚も結構だいじというか。
「もやしは?」
「いんない……」
「キャベツ」
「いる、かな」
「葱」
「あるの?」
「あるよ、焼豚も入れよ」
「あるのー?」
「冷凍してんのがあんだよね」
鍋とまな板を用意して、冷蔵庫を往復して。
キャベツをざくざくと切って鍋に入れる。
袋ラーメンなんか作ってるところ見てても何も面白くないよと悠真さんは言うけど、座って待ってるのもなんだか失礼な気がして、何も出来ないくせにちょろちょろと後をついて回ってしまう。
「……ふは」
「えっなに、なんで笑うの」
「ついて回るの、雛みたいでかわいくて」
「ついて回ってるつもりじゃっ……」
「待って待って、離れないで」
あと茹でるだけだからさ、と腰を引かれて悠真さんの胸に飛び込む形になってしまった。
ヒート中のことは、飛んでしまわない限りそこそこ、覚えている。
こどものように甘えたり、泣いたり、怒ったり、すきすき言ってしまったり、くっついたりしたことも、殆ど……いや、そこそこ。
あれはおれじゃない、とはいわないけど、発情期なんて頭も躰もおかしくなる時期なのだ。
発情期はあんな甘ったれのおれでも、そうでない時はもうちょっと、その、ちゃんとしてるつもりだったんだけど。
今だって、さっきあんなにどろどろになってしまったこと、恥ずかしいと思ってる。
なのに、今は多分ヒート中でもないのに、抱き締められるのが素直に嬉しいなんて思ってしまった。
おれの意地はどこにいってしまったんだ、こんな恋愛脳じゃなかった筈なんだけど!
「鍋っ、沸騰!してる!」
「あ、やば」
温度を弱めて、悠真さんは片手で器用に麺を茹でる。もう片手はおれの腰に回したまんま。
逃げる訳にもいかず、でもおれも腕を回すのは少し躊躇われて、そっと裾を掴んで、それから、ええと、何か話題を、と悠真さんを見上げた。
「……なんで髪切ったの?」
「前のが良かった?」
「んー……いや、どっちも似合ってると思う、けど、まだちょっと見慣れない、かも」
「妹にさ、チャラチャラしてるから挨拶行くなら切れば、って言われちゃって」
「チャラチャラ……」
「花音ちゃんに……和音の家族にそう思われたら困るし」
おれの引越し先はすぐにわかったという。調べたら翌日には、と。なにそれこわい。
でも当日に行くのは躊躇ってしまった。
おれが逃げたという事実が、その足を鈍らせたんだろう。否定される言葉を何回も聞きたい奴なんてそういないもんな。
そこで思い出したのは千晶くんの連絡先。おれが風邪を引いた時に貰っていたらしい。知らなかった。
千晶くんはおれの味方だったけど、内心は会わせる方がいいと思っていたみたい。それはおれが無理にでも会いに来てほしいと思ってたことが、千晶くんにはわかっていたのだろうか。
でも流石に早いかな、と様子を見ようと思っていたところで、おれがすぐ発情期になってしまった。
それが精神面に関わってるのなら、と悠真さんを呼んだみたい。
でもその前に花音とも電話で話をして、その、おれの部屋に来る前に、出社前の花音に話をつけてきたとか。
「……めちゃくちゃ怒ってたでしょ、かのん」
「そりゃあもう、めちゃくちゃね」
でも仕方ないよ、花音ちゃんのだいじな和音を傷付けた訳だし、ぶん殴られるくらい覚悟してた、と苦笑する。
「えっ、なぐっ、なぐった!?」
「違う違う、覚悟はってこと。実際殴られてはないよ」
「はー……かのんならしそうだから……良かったあ」
「俺なんか殴ったら花音ちゃんのが手ェ怪我しそうだし。でも正直、蹴られるくらいされた方がましだったかな」
「……かのん、なにしたの」
「んー……泣かれちゃった」
「へ」
絶対、かずねのこと不幸にさせたら赦さないんだから。わかったらさっさと謝りにいって、番になった責任、最後まで取って。わたしたちじゃ出来ないから、あんたしか出来ないんだから、わたしより、かずねをしあわせにして。
そう怒鳴って追い出されたらしい。
……花音といえば花音らしいけど。
「言ったよね、俺、執着強いんだよ、元々、離す気なんてなかったけど。でも和音が逃げたら、……もう一回嫌だって言われたら、和音の為を思ったら引かなきゃいけないのかなって思ってた」
「……」
「けど、そうじゃないなら、花音ちゃんに言われなくても、最後まで責任取るよ、絶対、番の解除なんて、死んでもしないから」
「……当たり前でしょ、おれの番、悠真さんしかいないんだから」
「……うん」
髪を切った悠真さんの表情はよく見える。
正直、それは悪くないな、と思うのだ。
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