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こんなに怯えた子が、きらわれたくない、出て行きたくないと言いながらも、隠していたものを口に出させてしまった。俺だって話すべきだ。
きらわれたくなくても、格好悪くても、それで見限られても。
俺だけ逃げるのは卑怯だ。
……卑怯なんだ、そう思いながらも、腕の中の凜を離すことが出来ない。
くらくらするくらいの甘いにおいが強くなっている。
こんなに強いの、抑制剤じゃどうにもならない。
でも傷付けたい訳じゃないから。いや、もう十分傷付けてるけど。
おかしくなる前に話さなきゃ、もうおかしくなってる、まだ、まだ大丈夫だ、考えられる、大丈夫、まだ。
ぎゅうと腕に力を入れると、その中で凜がぴくりと震えた。
こわいよなあ、ごめんな、安心したいのにさせてあげられなくてごめん。
「……もうちょっとだけ、待って欲しい」
「……?」
「まだ凜に何もあげられない」
「……う」
「俺の……俺の、整理がついてなくて」
ぴく、とまた凜が動く。その表情はこわくて見ることが出来ない。
覚悟をしても、それでも、やっぱり幻滅されたくない、出来れば、格好良い兄のような存在でいたい。頼られたい、甘えられたい、……安心してもらえる存在でありたい。この性に関係なく。
「それ、は……」
「凜がしてほしいこと、全部してあげたい、安心させてあげたい、でも、もうちょっと」
「……」
「俺に自信がない、待ってほしい、このままじゃ、俺、凜を傷付けることしかしない」
もぞもぞと動く凜のかおが少し覗く。不安そうな瞳と揺れる声が、どういうことですか、と俺の胸元に消えた。
まだ俺を見ないで欲しい。
「かわいいんだよ」
「……え」
「かわいいの、俺は凜のことが、かわいいんだ、こんなこと俺が言っても信じられないかもしんないけど……だいじにしたいんだよ」
「それは……弟、みたいな」
「それもあるよ、……でも実際俺達は兄弟じゃないし」
「……」
「もうちょっとでわかる気がするんだ、暫く……もう暫くでいいから、様子をみさせてほしい」
俺の勝手でしかない。我慢は全て凜にさせていた、それでもまだ我慢を重ねさせると言ってるようなもの。凜だから文句を言わないようなもの。
わかっていて、それでも俺はお願いをしてしまう。
汚くて狡いと凜は言ったけれど、そうじゃない。
ただ臆病で、純粋で、知らないだけ。
本当に狡いのは俺みたいな奴なんだ。
だって俺は、こんな滅茶苦茶なことを、それでも凜は頷くと知っている。
「まち、待ちます、玲司さんがぼくのこと、考えてくれるなら、どれだけでも……嬉しい、色々考えてくれたり、玲司さんがいて、くれるだけで嬉しい、のに」
「……ありがと」
またぐずぐず泣き出した凜の背中を撫でる。
こうやって泣いてくれるのだって、悪いけど少し嬉しいんだ。
少し前までは、ずっと泣くのを我慢していたようだから。
勿論今だって我慢して我慢しての涙だけど、俺の前では意地でも泣かない、って感じだったから。その意地がどっかにいったのなら、俺だって嬉しい。
色んな凜が見たい、我慢なんかしないで、もっと、もっと、素の、そのままの凜が見たい。
「んぅ……」
「あ」
こんな状態で長々と話なんて出来る訳がなかった。
凜はちゃんと自分で言っていた、ぎゅうってされたら嬉しいから、ヒートきちゃうかもしれないから、と。
それなのに強く抱き締めてしまった。狙った訳ではないけど、俺のにおいを思い切り嗅がせてしまった。
やばい、と思う頃には遅くて、少し背中を撫でるだけでびく、と躰が跳ねてしまうくらい、もう凜の躰は反応するようになってしまっていた。
「あ、う……」
「抑制剤、」
「へ、部屋に、っあ……」
取りに行こうかと考えて、それなら凜自体をもう部屋に連れて行った方がいいと思って抱えあげる。
相変わらず軽い躰に心配になってしまう。
触れる度に凜の小さな口からは息が漏れて、その度にごめんなさい、と謝る。
こうさせてしまったのは俺なのに。
「どこに置いてる?」
「あそこ……と、鞄、の、なか……にっ、うあ」
抑制剤を飲んでいてよかった、飲んでなかったらこの甘いにおいと声に耐えられていたか自信がない。
相変わらずの甘ったるいにおい。俺のにおいにあてられて、俺を誘うためのもの。
シートから錠剤を取り出し、凜の手のひらに乗せようとするけれど、その手は震えていて落としてしまいそうだ。
上手く口元まで運べなさそうなのが目に見えている、それならともう俺がその役割をする。
「凜、ごめんだけど口あけて」
「ふあ」
「ん、ほら、水飲んで」
素直に開いた凜の小さな口に錠剤を入れ、ペットボトルの水を持たせる。
どうにか零すことなく飲み込むことができたようだ。
口の端に少し垂れた水を手の甲で凜は拭って、もう大丈夫です、と弱々しく言う。
「この抑制剤初めてでしょ、ちゃんと効果出るかわからないじゃん」
「でも……」
「俺のせいだし……落ち着くまでいるから」
「……そおじゃ、なくて……」
濁していた凜は迷ったように視線を動かして、それでも何も言わず待つ俺にぽつりと、見られたくない、と漏らした。
きらわれたくなくても、格好悪くても、それで見限られても。
俺だけ逃げるのは卑怯だ。
……卑怯なんだ、そう思いながらも、腕の中の凜を離すことが出来ない。
くらくらするくらいの甘いにおいが強くなっている。
こんなに強いの、抑制剤じゃどうにもならない。
でも傷付けたい訳じゃないから。いや、もう十分傷付けてるけど。
おかしくなる前に話さなきゃ、もうおかしくなってる、まだ、まだ大丈夫だ、考えられる、大丈夫、まだ。
ぎゅうと腕に力を入れると、その中で凜がぴくりと震えた。
こわいよなあ、ごめんな、安心したいのにさせてあげられなくてごめん。
「……もうちょっとだけ、待って欲しい」
「……?」
「まだ凜に何もあげられない」
「……う」
「俺の……俺の、整理がついてなくて」
ぴく、とまた凜が動く。その表情はこわくて見ることが出来ない。
覚悟をしても、それでも、やっぱり幻滅されたくない、出来れば、格好良い兄のような存在でいたい。頼られたい、甘えられたい、……安心してもらえる存在でありたい。この性に関係なく。
「それ、は……」
「凜がしてほしいこと、全部してあげたい、安心させてあげたい、でも、もうちょっと」
「……」
「俺に自信がない、待ってほしい、このままじゃ、俺、凜を傷付けることしかしない」
もぞもぞと動く凜のかおが少し覗く。不安そうな瞳と揺れる声が、どういうことですか、と俺の胸元に消えた。
まだ俺を見ないで欲しい。
「かわいいんだよ」
「……え」
「かわいいの、俺は凜のことが、かわいいんだ、こんなこと俺が言っても信じられないかもしんないけど……だいじにしたいんだよ」
「それは……弟、みたいな」
「それもあるよ、……でも実際俺達は兄弟じゃないし」
「……」
「もうちょっとでわかる気がするんだ、暫く……もう暫くでいいから、様子をみさせてほしい」
俺の勝手でしかない。我慢は全て凜にさせていた、それでもまだ我慢を重ねさせると言ってるようなもの。凜だから文句を言わないようなもの。
わかっていて、それでも俺はお願いをしてしまう。
汚くて狡いと凜は言ったけれど、そうじゃない。
ただ臆病で、純粋で、知らないだけ。
本当に狡いのは俺みたいな奴なんだ。
だって俺は、こんな滅茶苦茶なことを、それでも凜は頷くと知っている。
「まち、待ちます、玲司さんがぼくのこと、考えてくれるなら、どれだけでも……嬉しい、色々考えてくれたり、玲司さんがいて、くれるだけで嬉しい、のに」
「……ありがと」
またぐずぐず泣き出した凜の背中を撫でる。
こうやって泣いてくれるのだって、悪いけど少し嬉しいんだ。
少し前までは、ずっと泣くのを我慢していたようだから。
勿論今だって我慢して我慢しての涙だけど、俺の前では意地でも泣かない、って感じだったから。その意地がどっかにいったのなら、俺だって嬉しい。
色んな凜が見たい、我慢なんかしないで、もっと、もっと、素の、そのままの凜が見たい。
「んぅ……」
「あ」
こんな状態で長々と話なんて出来る訳がなかった。
凜はちゃんと自分で言っていた、ぎゅうってされたら嬉しいから、ヒートきちゃうかもしれないから、と。
それなのに強く抱き締めてしまった。狙った訳ではないけど、俺のにおいを思い切り嗅がせてしまった。
やばい、と思う頃には遅くて、少し背中を撫でるだけでびく、と躰が跳ねてしまうくらい、もう凜の躰は反応するようになってしまっていた。
「あ、う……」
「抑制剤、」
「へ、部屋に、っあ……」
取りに行こうかと考えて、それなら凜自体をもう部屋に連れて行った方がいいと思って抱えあげる。
相変わらず軽い躰に心配になってしまう。
触れる度に凜の小さな口からは息が漏れて、その度にごめんなさい、と謝る。
こうさせてしまったのは俺なのに。
「どこに置いてる?」
「あそこ……と、鞄、の、なか……にっ、うあ」
抑制剤を飲んでいてよかった、飲んでなかったらこの甘いにおいと声に耐えられていたか自信がない。
相変わらずの甘ったるいにおい。俺のにおいにあてられて、俺を誘うためのもの。
シートから錠剤を取り出し、凜の手のひらに乗せようとするけれど、その手は震えていて落としてしまいそうだ。
上手く口元まで運べなさそうなのが目に見えている、それならともう俺がその役割をする。
「凜、ごめんだけど口あけて」
「ふあ」
「ん、ほら、水飲んで」
素直に開いた凜の小さな口に錠剤を入れ、ペットボトルの水を持たせる。
どうにか零すことなく飲み込むことができたようだ。
口の端に少し垂れた水を手の甲で凜は拭って、もう大丈夫です、と弱々しく言う。
「この抑制剤初めてでしょ、ちゃんと効果出るかわからないじゃん」
「でも……」
「俺のせいだし……落ち着くまでいるから」
「……そおじゃ、なくて……」
濁していた凜は迷ったように視線を動かして、それでも何も言わず待つ俺にぽつりと、見られたくない、と漏らした。
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