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「俺は凜のことが弟みたいでかわいくて」
「……」
「凜も同じように兄みたいに慕ってくれてるんだと思ってたんだけど、違うの?」
「……っ」
「そういうこと、したいの?番になりたいの?」
「ち、ちが」
「凜は俺に抱かれたいと思うの」
「抱か……」
「ぎゅうってされる、って意味じゃないよ、セックスしたいのかってこと」
かあっと耳まで紅くなったのがわかる。
でもそれは照れとかではなくて、羞恥心から来るもの。
言葉にされることで意識してしまったのだろう。
「そこまで、考えてなかっ……」
「でも行き着く先はそこでしょ」
「ちがう、ちが、そう、そういうのじゃなくて、そうゆうの、じゃあ、」
「じゃあどういうこと」
「……ぼくも、普通のことが、した……」
「普通のこと?」
「そういうの、じゃなくて、ぎゅうってして、話をして、普通の、普通のお付き合い……」
「……番じゃなくて、恋人になりたいってこと?」
その言葉に、また俯いてごめんなさい、と呟く。
「……ここにいられるだけで嬉しいのに、やさしくしてもらうだけでうれしいのに、我儘ばっかり、で、どんどんひどくなっちゃう、調子なんて乗っちゃって、れいじさんのちかくにいれたらそれでよかったのに、そう約束したのに」
我儘なんかじゃない、そんなことは全然。
全然、普通のこと。
ただ俺がそうさせなかっただけ。
そんな我儘、琉なら、姉なら、普通なら、すぐに叶ってた。
俺の性格が、オメガ嫌いって知ってる凜が、そんなのだめだっていってるだけ。
普通なら、そう、普通なら、こんな下らないことで悩まなくて、すきと伝えるだけのことに、そんなに世界が終わるような顔をする必要はない。
暫くは落ち込むだろうけど、凜は次はないと考える。
自分なんかを誰も欲しがってくれないって。
ただでさえ差別されがちなオメガなのに、こどもを産めないなんて欠陥品だ、そう言われてきたことは想像に難くない。
「やっぱり……」
「……」
「……出て行かなきゃだめですか……」
ずっと鼻を啜って、強く擦った目許は紅くなっていて、頬は涙の跡でぐしゃぐしゃだった。
オメガなんてきらいで、甘ったるいにおいなんていやで、それなのに惹かれてしまうアルファがいやだ。
真面目に話をしているのに、そんなの関係なく今すぐに凜に飛びつきたくなる、この性がいやだ。
強く抱き締めて、もっとぐしゃぐしゃに歪ませて、そのにおいの強いところを噛んで、深いところに入りたい。そのまま閉じ込めて、誰にも見せないところに仕舞って、俺だけのものにしたい。
それがいやだ。
そんな理由で誰かを愛したい訳じゃない。
凜がかわいくて、かわいくて、かわいい、愛おしいから愛したい。そうであってほしい。
本能だかなんだか、そういうのじゃなくて。
このかわいそうでかわいい子を、オメガだからじゃなくて、普通の、ただのひととして愛したい。
「ごめん……」
「……っう、」
「違う、出て行けっていうんじゃなくて」
「う、うぅ、っふ、」
「……ぎゅってしていい?」
腕を広げて、小さく背を丸くして泣く凜に確認する。
確認したって、凜は頷かない。そんなのはもうわかってる筈なのに、それでも訊いてしまう。
「……やだ、だめです……」
「なんで?ぎゅってされたかったんじゃないの」
「ぎゅうってされたら、う、嬉しいから、だから、ヒート、きちゃうかもしんない、から」
「……俺のこと、そんなにすきなの」
「ごめんなさいぃ……」
すきでいることを謝られるなんておかしい。
凜は悪いことなんてしてないのに。
「安心するの、嘘じゃないんです、ほってするのに、でも、でも、普通がいいのに、あつくなって、おなか、さみしくなっちゃって、そんなの、したこと、ないのに、ほしくなっちゃって、こどもっ……ぼく、こども、産めない癖に、きもちいいのだけ、あったかいのだけほしくて、そんな汚くて狡いやつ、誰にも、もらってもらえない、のに」
「誰にも貰われなくていいよ」
「……っ」
「誰にもじゃなくて、俺にだけ見せて」
「ちが、ちがうっ……ごめんなさい、れいじさん、ちがう、フェロモン、出したい訳じゃない、」
「……大丈夫、抑制剤飲んでる、フェロモンにやられてる訳じゃないよ」
動きの鈍った凜の腕を引いて、自分の胸に寄せる。
嘘だ。
ヒート中じゃなくても、確かに凜からは俺を誘うようなフェロモンが出ていて、確かに抑制剤を飲んだ俺にだってそれはわかる。嫌って程。
オメガなんてきらいだ、きらい、きらいだけど。
そう俺が思っているとわかっていても俺を求めてしまう凜が、いじらしくて愛おしい。
苦しいと思う。
かおも腕も、全部が紅く染まっている。
恥ずかしくてあつくて、抵抗をしてもしきれなくて。だめだと、きらわれたくないと、こわいと思っているのに、ほんの少しだけ捨てられない期待が、少しくらいはいいんじゃないかと思ってるような、縋るような瞳。
凜を抱き締めても、自分の心臓の音しか聞こえない。
ふわふわした髪と、震えるあつい、小さな躰、苦しそうな泣き声、それは全部、俺の言葉を待っている。
「……」
「凜も同じように兄みたいに慕ってくれてるんだと思ってたんだけど、違うの?」
「……っ」
「そういうこと、したいの?番になりたいの?」
「ち、ちが」
「凜は俺に抱かれたいと思うの」
「抱か……」
「ぎゅうってされる、って意味じゃないよ、セックスしたいのかってこと」
かあっと耳まで紅くなったのがわかる。
でもそれは照れとかではなくて、羞恥心から来るもの。
言葉にされることで意識してしまったのだろう。
「そこまで、考えてなかっ……」
「でも行き着く先はそこでしょ」
「ちがう、ちが、そう、そういうのじゃなくて、そうゆうの、じゃあ、」
「じゃあどういうこと」
「……ぼくも、普通のことが、した……」
「普通のこと?」
「そういうの、じゃなくて、ぎゅうってして、話をして、普通の、普通のお付き合い……」
「……番じゃなくて、恋人になりたいってこと?」
その言葉に、また俯いてごめんなさい、と呟く。
「……ここにいられるだけで嬉しいのに、やさしくしてもらうだけでうれしいのに、我儘ばっかり、で、どんどんひどくなっちゃう、調子なんて乗っちゃって、れいじさんのちかくにいれたらそれでよかったのに、そう約束したのに」
我儘なんかじゃない、そんなことは全然。
全然、普通のこと。
ただ俺がそうさせなかっただけ。
そんな我儘、琉なら、姉なら、普通なら、すぐに叶ってた。
俺の性格が、オメガ嫌いって知ってる凜が、そんなのだめだっていってるだけ。
普通なら、そう、普通なら、こんな下らないことで悩まなくて、すきと伝えるだけのことに、そんなに世界が終わるような顔をする必要はない。
暫くは落ち込むだろうけど、凜は次はないと考える。
自分なんかを誰も欲しがってくれないって。
ただでさえ差別されがちなオメガなのに、こどもを産めないなんて欠陥品だ、そう言われてきたことは想像に難くない。
「やっぱり……」
「……」
「……出て行かなきゃだめですか……」
ずっと鼻を啜って、強く擦った目許は紅くなっていて、頬は涙の跡でぐしゃぐしゃだった。
オメガなんてきらいで、甘ったるいにおいなんていやで、それなのに惹かれてしまうアルファがいやだ。
真面目に話をしているのに、そんなの関係なく今すぐに凜に飛びつきたくなる、この性がいやだ。
強く抱き締めて、もっとぐしゃぐしゃに歪ませて、そのにおいの強いところを噛んで、深いところに入りたい。そのまま閉じ込めて、誰にも見せないところに仕舞って、俺だけのものにしたい。
それがいやだ。
そんな理由で誰かを愛したい訳じゃない。
凜がかわいくて、かわいくて、かわいい、愛おしいから愛したい。そうであってほしい。
本能だかなんだか、そういうのじゃなくて。
このかわいそうでかわいい子を、オメガだからじゃなくて、普通の、ただのひととして愛したい。
「ごめん……」
「……っう、」
「違う、出て行けっていうんじゃなくて」
「う、うぅ、っふ、」
「……ぎゅってしていい?」
腕を広げて、小さく背を丸くして泣く凜に確認する。
確認したって、凜は頷かない。そんなのはもうわかってる筈なのに、それでも訊いてしまう。
「……やだ、だめです……」
「なんで?ぎゅってされたかったんじゃないの」
「ぎゅうってされたら、う、嬉しいから、だから、ヒート、きちゃうかもしんない、から」
「……俺のこと、そんなにすきなの」
「ごめんなさいぃ……」
すきでいることを謝られるなんておかしい。
凜は悪いことなんてしてないのに。
「安心するの、嘘じゃないんです、ほってするのに、でも、でも、普通がいいのに、あつくなって、おなか、さみしくなっちゃって、そんなの、したこと、ないのに、ほしくなっちゃって、こどもっ……ぼく、こども、産めない癖に、きもちいいのだけ、あったかいのだけほしくて、そんな汚くて狡いやつ、誰にも、もらってもらえない、のに」
「誰にも貰われなくていいよ」
「……っ」
「誰にもじゃなくて、俺にだけ見せて」
「ちが、ちがうっ……ごめんなさい、れいじさん、ちがう、フェロモン、出したい訳じゃない、」
「……大丈夫、抑制剤飲んでる、フェロモンにやられてる訳じゃないよ」
動きの鈍った凜の腕を引いて、自分の胸に寄せる。
嘘だ。
ヒート中じゃなくても、確かに凜からは俺を誘うようなフェロモンが出ていて、確かに抑制剤を飲んだ俺にだってそれはわかる。嫌って程。
オメガなんてきらいだ、きらい、きらいだけど。
そう俺が思っているとわかっていても俺を求めてしまう凜が、いじらしくて愛おしい。
苦しいと思う。
かおも腕も、全部が紅く染まっている。
恥ずかしくてあつくて、抵抗をしてもしきれなくて。だめだと、きらわれたくないと、こわいと思っているのに、ほんの少しだけ捨てられない期待が、少しくらいはいいんじゃないかと思ってるような、縋るような瞳。
凜を抱き締めても、自分の心臓の音しか聞こえない。
ふわふわした髪と、震えるあつい、小さな躰、苦しそうな泣き声、それは全部、俺の言葉を待っている。
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