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プロローグ

二度目の人生

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強く強く求めた先で、俺はとある異世界の男爵家の息子として生を受けた。



俺である赤子が、生まれた瞬間に反射的に泣き出す。
うるさいなと思ってもこれは自分の声だ。

やっと彼女を見つけることの出来る、歓喜の叫びだ。

それなのに。

彼女の存在が分からない。



ノワ・レーマンと名付けられ、俺はレーマン男爵家の長男として育った。

けれどもここにいる気は無かった。

だってここには妻が居ない。
莉緒が、存在していない。

誰が彼女かなんて分からない。

それでも、こんなところで希望を潰す訳にはいかないのだ。



俺は剣を学んだ。

ここにいなくても、近くにはいる。
それなら、騎士になろう。

国に縛られるが、どこにでも行ける。

莉緒が、もしも貴族なら、孤児なら、人間ですらなかったら。

ゾッとする。

貴族なら、婚約者を決められてしまう。
孤児なら、体を売るかもしれない。
人間でなければ、死んでしまうかもしれない。

それは耐え難かった。
俺は強欲だ。
生きているだけでは駄目なのだ。
最上の幸福を感じていて欲しい。
ずっとずっと、忘れないでいて欲しい。

早く、見つけなくては。

俺が居なくても、莉緒ならきっと誰にだって愛される。
俺が居なくとも幸せになれる。



それでも、前世俺を選んだのは彼女だった。

莉緒だけが、俺自身を見てくれた。

弱音を吐けば、本気の顔で「家を捨てる?」と聞くような女だ。
昔から、俺に引っ付いていた。
誰になんと言われても、ずっとずっと一緒だった。

今更思うと、莉緒だけは平気だった。

気分が悪くても、触れることを許せたのは、莉緒があの家の息子ではなく、みんなの王子様でもなく、俺に、俺自身に触れたから。

莉緒だけだ。
莉緒は俺にとって救いにも等しかった。

俺が守る。
俺がそばにいる。

そう、決めた。



だからこそ。

彼女を、救えなくて。

俺は心底絶望したのだ。
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