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プロローグ

二度目の人生 2

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剣を振り続けた。

雨の日も、風の日も、雪の日も、朝も、夜も関係なく。

気が付けば男爵家の嫡男から外れていたが、どうだって良かった。

両親に似て容色は優れていたから、人前に出ても持ち上げられることはあっても馬鹿にされることは無かった。

剣を振り続けた。

相手が人でも、魔物でも。

人を殺しても、何も感じなかった。
ただ、莉緒は悲しむだろうなと思って、気分が沈んだ。

魔物を殺しては、動物好きな莉緒が泣いてしまうと思った。
それでも殺した。

そもそも俺がこうなったのだから、莉緒の性格だって相当変わっているだろう。

それなのに、どうしてこんなにも愛し続けるんだろう。

ふとそう思ったこともあった。

それでも、一度たりとも莉緒を探す事をやめようとは思わなかった。

「莉緒······莉緒、どこにいる」

ひたすらにそう言う気味の悪い息子にも、両親は良くしてくれた。

莉緒以外の事柄に興味を惹かれないのは前世からだが、それは行き過ぎた執着にも思えた。



気がついたら、国の英雄として褒賞を受け賜っていた。

切り捨てた魔物の中に、そういうものが居たらしい。

そこでふと気が付いた。

今まで殺した魔物に、人間に、もしかしたら莉緒が居たのかもしれない。
そう考えたらぐらぐらと揺さぶられる心地だった。

無意識に女と思い込んでいたけど、もしかしたら男になっているかもしれない。

今更気付いて愕然とする。

それだけでは無い。
もしも家族に生まれ変わっていたら?もうとっくに死んでいたら?
もしかしたら子持ちの人妻や、草臥れた三十路の文官かもしれない。
筋骨隆々な騎士の中に、いるのかもしれない。

そうだ。
莉緒に前世の記憶があるかも分からないのに。
どうしてこんなにも簡単に見つけられると大口を叩けた?

すうっと冷えて、足元が崩れ落ちる感覚がした。
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