あまがみ

り。

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真夏の月

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夏休み前半。今日も相変わらず勉強会をしに勇太の家に来ていた。が、しかし。今日はいつもと少し違った。そう、俺は今日とある決心をして勇太の家に来ていた。

好きだと伝えよう……と、そう決心していた。

「で、Becauseから理由を書けば正解」

「なるほど……文法に乗っ取ればいいのか」

「そ、Whyで聞かれたら絶対それ使えよ」

「うん、分かった!」

こいつ、今までなんで勉強できなかったんだろう。こんなにすんなり色々覚えてしかもスピードも結構早めにやってんのに、ちゃんと着いてくるじゃん。要領もいいし……変な奴だな。そんなことを思いながら、俺は勇太の首元をちらっと見た。歯型だ。俺がつけたもの。俺だけのもののしるし。俺の跡。制服姿では見えないがこうしてタンクトップを着ているとしっかりと見える。関係ないが勇太は割と筋肉質だ。シックスパックこそ割れてないが腕といい腹といいがっちりと引き締まっていて普段から鍛えているんだろうなという感じがする。

「(くそ……色っぽいじゃん)」

「ん?圭ちゃん?」

「はひっ」

「どうかした?」

「べ、別に……何でもねえ」

「圭ちゃんが教えてくれたおかげで、今日までにやらなきゃいけないページまで進んだよ」

「そ、そうか、じゃあ……」

「ヤろ!」

「……お前は本当に懲りねえな」

「だって圭ちゃん可愛いから」

「夏休み入って毎日こんなだぞ……」

「いいじゃん、減るもんじゃないし」

「俺の体力が減るの」

「圭ちゃんは俺のこと好きじゃないの?」

「うっ……」

言い出せない。自分から好きだと言い出せない。相手の自分に対しての感情を聞くまでは自分から言ってしまうと相手が離れて行ってしまうような、遠くなってしまうような気がするから。

「三回だけだからな」

「よっしゃ!そう来なくちゃ」

夏休み始まって以来、毎日昼間から耽るということは、勇太も俺のことを好きだと思ってくれているんだろうか。それとも欲に素直に生きているだけなんだろうか。少なくとも俺は勇太が好きだ。伝えたい。伝えたいけど……。

怖い。

※※※

「勇太…もう、い、イく!」

「圭ちゃん……中、締ま……っ」

俺が果てても勇太は腰を止めない、逆にキツくなる俺の中で興奮するのか激しさを増して動いてくる。大きくなるし。もっと奥突いてくるし。ガンガン突いてくるし。もうマジで絶倫過ぎる。

「も、むり……ッ無理ぃ……」

「三回、だろ?あと一回、ラスト……!」

「ふ、えぇ……死んじゃ、うよ」

「え、なにその鳴き声……可愛い……」

「デカく、すんな……!」

「ごめん、可愛くて……ドキドキした」

「いいからあと一回! はやく……!」

「おう、いくぞ」

勇太のセックスはいつも激しいけどどこか優しかった。最中に声掛けしてくれたり、俺が弱音を吐き始めると止まってくれたり、優しさがあった。しかし性欲が強い。どこからくるんだ、これは。

「ッ!! ……はあ、はあ……っ」

「やっと……イったな……」

「ん……キスしていい? 圭ちゃん」

「好きにしろ」

ちゅ。

終わりはいつもこうだ。勇太が俺にキスの許可を取ってキスをする。軽いやつ。本当に唇と唇を軽く触れさせて、それで全部おしまい。これに何の意味があるのか俺は知らないけど、悪い気はしなかった。

「買い物行って飯食って風呂入って寝るか、今日も泊まっていくだろ?」

「おう、俺先風呂入りたい」

「一緒に入るか?」

「入らねえよ」

「圭ちゃんのケチ」

「なんでだよ!」

「減るもんじゃない」

「お前そればっかだな、減るの!」

「俺は圭ちゃんとの触れ合いが嬉しい、増える」

「何がだよ」

「満足感」

「そうかよ、でもダメだ」

「ぶーぶー」

「シャワー借りるぞ」

「どうぞ、ひーとーりーで、ごゆっくり」

「そんなツンツンすんなって」

「はは、冗談だよ。 入ってこい」

「うん……」

ベッドの周りに脱ぎ散らかした服を回収して畳み浴槽に入る。シャワーの熱いお湯の粒が、汗ばんだ体に心地良かった。

※※※

「今日の晩飯、チャーハンでいい?」

買い物カゴを片手に勇太が聞く。スーパーは時間が時間なだけにそろそろ人が増え始めてきた。どの人も陳列棚を見てはタイムセールや広告の品に足を止めていた。

「おう、チャーハンがいい」

「ん、じゃあご飯は炊いてあるから卵と……」

「なあ勇太」

「んー?」

「勇太は俺が迷惑じゃないの?」

「何、急にどうした」

違う。そんなことが聞きたいんじゃない。俺を好きか聞きたい。でもそんな烏滸がましいこと聞けない。俺は勇太の気持ちが知りたくて悶々としていた。

「……なんでもねえ」

「変な圭ちゃん」

「うっせえ」

「圭ちゃんチャーハンにグリンピース入れる派?」

「入れねえ」

「お!俺も入れない派。 よし、レジ行くぞー」

「おう」

また聞き出せず仕舞いだった。もういっそ気持ちは確認できなくても好きと伝えるべきなんだろうか。好きを言い出すきっかけすら掴めず、俺はさらに悶々とするのだった。

※※※

料理をしている勇太の手際は見ていて気持ちいいくらいに良かった。リズムよく具材を包丁で刻みフライパンに投入、ご飯とあおりで混ぜていく。中華鍋じゃないのにくるりと宙に浮かせ返していく。空中でご飯が踊っているようで見事だった。

「味見して。 薄い、濃い?」

「ん、美味しい」

「よし、完成だな」

机の上にあった課題の山を床に置いてウェットティッシュで軽く拭きチャーハンとスープ、それから箸を乗せる。

美味しそう。

「飲み物何にする? 圭ちゃん」

「お茶で」

「ん、俺もお茶にしよ」

コップを二つ置いて勇太が向かいに座る。いつもの光景だ。

「「いただきます」」

夕飯のときは大体スマホでゲーム実況を見るのがお決まりのパターンだった。

それもホラーゲーム実況。

「いや、これもう絶対角曲がったらいるでしょ」

「勇太もそう思う?」

「だってさ……あー! ほらいた!」

「お約束だな」

「本当にな」

嘆かわしい。とても好きだなんて言い出す空気じゃない。俺は絶望した。いつもと何一つ変わらないんだからいつも通りに一日が終わっていって当たり前だ。そう思った。

何か変化を……そうだ!

「あ、勇太、そういや今日満月だってさ」

「まじ? ベランダから見ようぜ」

「おう」

「どれどれ、見えるかな」

「外蒸し暑いな」

「部屋冷房付いてるからな」

「あ!」

綺麗な満月だった。これはチャンスだ。そう思って俺は勇太の方に振り向いて言った。

「つ、月が……綺麗ですね」

意味が伝わるかは分からない。だけど伝えずにはいられなかった。今日こそ言うと決めたのだ。今日こそちゃんと伝えようと決心していたのだ。俺は気持ちの全てをこの言葉に乗せた。顔が熱かった。多分、というか絶対顔が赤くなってた。

「圭ちゃん……」

それからしばらくの沈黙、返事はこうだった。

「俺、死んでもいい」

「!!」

「俺も圭ちゃんのこと大好きー!!」

風情があるのかないのか、一言目の返事は見事だったのに二言目のIQが残念だった。

「圭ちゃんからはじめて言ってくれた、感動」

「俺も、勇太の気持ち聞けて……嬉しい」

「勉強しといて良かったー! この前やったばっかだったけど早速役に立ったぜー」

「そ、そうか」

「圭ちゃんは頭良いからな、負けてらんねえよ」

「おう……」

「あい、らぶゆー、べいべー!」

「しつこい」

「はは、照れてる」

「照れてない!」

かくして俺は、勇太に好きだと言うことが出来た。さらにいいことに、勇太からも俺への気持ちを伝えてもらえたのであった。めでたしめでたし。



To be continued.
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