自宅が全焼して女神様と同居する事になりました

皐月 遊

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三章 夏休み編

60話 「思い出めぐり」

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「如月先輩~!あーさでーすよー!」

実家に帰ってきた次の日の朝、俺は桃井に笑顔で布団を剥がされ目が覚めた。

「んー…」

「ほらほら!早く起きる!」

桃井に無理矢理身体を起こされる。 そしてカーテンを開けられ、あまりの眩しさに目を瞑ってしまう。

「如月先輩~頑張って起きましょうね~」

段々と意識が覚醒してきて、目を開け、周りを見る。

「…桃井…?」

「はい!桃井ですっ! 渚咲先輩は今如月先輩のお母さんと朝食を作ってるので、代わりに私が起こしに来ました!」

「そうか…迷惑かけて悪いな」

「いえいえ!滅多に出来ない経験なので楽しかったですよ~! ほら!」

そう言って桃井は動画を見せてくる。 
その動画は先程の俺を起こそうとする動画だった。

「お前…撮りやがったな」

「はい!珍しいので記録しておこうと思って!」

「消せ」

「いやで~す! お顔洗ったらリビングに来て下さいね~」

そう言って桃井は笑顔で部屋を出て行った。
俺ははぁ…とため息をつき、ベッドから出た。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あ、おはようございます。如月君」

「相変わらず朝弱いわねぇ陽太は」

リビングに行くと、キッチンで柊と母さんが料理をしていた。

奥のテーブルには春樹、七海、桃井、父さんが座っている。

時刻は7時ちょうどだ。

「如月君はいつもこの時間はまだ寝てますもんね。 もうすぐご飯出来るので、向こうで待ってて下さいね」

「分かった」

皆が待つテーブルに向かい、春樹の隣に座る。

「桃井、起こしてもらっちまって悪いな」

「気にしないで下さいっ」

朝早いと言うのに、俺以外は皆私服に着替えている。
流石だ。

「渚咲さんが「皆さんで朝ごはん食べましょう」と言ってくれたんだ」

「柊が…?」

父さんは笑顔で頷く。

「本当に優しい子だね」

「…そうだな」

そんな会話をしていると、柊と母さんが朝食を運んできた。

どうやら今日の朝食は白米、焼き魚、卵焼き、サラダ、味噌汁らしい。

皆の前に朝食が行き渡り、柊は母さんの横に座る。

席順は、父さんが1人で座り、俺と春樹が隣、柊と母さんが隣、七海と桃井が隣でテーブルを囲んでいる。

「朝食から味噌汁なんて珍しいね」

父さんが言うと、母さんは自慢げに笑った。

「私は焼き魚と卵焼きで、味噌汁とサラダは渚咲ちゃんが作ってくれたのよ!」

「お、お口に合えば良いんですけど…」

「いつも陽太が飲んでいる味噌汁かぁ。楽しみだね。 
それじゃあ食べようか、いただきます」

父さんの言葉に続いていただきますを言い、まずは味噌汁を飲む。

うん。やはりいつも通り美味いな。

「美味し!? 何この味噌汁!」

母さんは味噌汁を飲んで目を見開いていた。

「あんた毎日こんなに美味しい料理食べてるの!?」

「え?あぁ…そうだけど」

「贅沢な子だわぁ…」

「母さんがそう言うのも納得の味だ。 渚咲さん、とても美味しいよ」

「よ、良かったです」

父さんと母さんに褒められ、柊は心底安心したように胸を撫で下ろし、食事を開始した。

俺は次に母さんが作った卵焼きを食べる。
柊と味付けが違うが、こちらも俺好みの味付けの卵焼きだ。
食べた瞬間に懐かしい気持ちになる。
これがおふくろの味というやつなのか。

焼き魚もいい焼き加減と塩加減で、朝飯にちょうどいい。
そして柊が作った味噌汁は濃くもなく薄くもない丁度いい味付けで非常に俺好みの味付けだ。

口直しに柊が作ったサラダを食べると、いつも食べている野菜の味付けで不快な気持ちにならずに食べる事が出来た。

そんな俺を見て、母さんが目を見開いていた。

「うっわぁ…陽太が野菜食べてる…渚咲ちゃんの言った通りだわ」

「…柊の? なんかあったのか?」

母さんに聞くと、母さんら頷いた。

「陽太って野菜苦手でしょ? だから陽太だけサラダ無しにしようとしたのよ。 
そしたら渚咲ちゃんが、「私に任せて下さい。 野菜を食べさせてみせます」って言ったのよね。 
だからサラダは渚咲ちゃんに任せたんだけど…流石だわぁ…」

「あぁなるほど…そういう事か」

「この味付けなら食べれるのねぇ。 渚咲ちゃん、教えてくれてありがとね! 陽太は野菜大嫌いだから大変だったでしょ?」

「はい、最初の頃はずっと顔を顰めながら食べていたので、好みの味付けを見つけられて良かったです!」

「本当に良い子だわぁ渚咲ちゃん」

そんな会話をしながら朝食を食べ続け、食べ終えた後に父さんは仕事に行き、現在俺は部屋の中で着替えていた。

昨日言っていた思い出の場所を案内する為だ。
新しく買ったカーディガンを着ても良いが、俺はいつも通りのパーカーを着てリビングに向かった。

リビングにはすでに出かける準備をした柊達が待っていた。

「悪い待たせた」

「大丈夫だよ。 それじゃあ行こうか」

春樹の言葉に頷き、母さんに見送られながら家を出た。

「あ~、キャリーケース無いから歩きやすいですね~! 」

「来る時は手と足が痛かったもんね」

桃井と七海の会話に笑いながら歩く。
さて…思い出の場所か…

まずはあそこに行ってみるか。

「如月君、まずはどこに行くんですか?」

「近いからすぐ着くぞ」

そう言って少し歩くと、懐かしい店が見えてきた。
木造の小さな店で、店の前には3人が座れるくらいのベンチが置いてある。

「着いたぞ。 俺が昔よく行ってた駄菓子屋だ」

「駄菓子屋!? 私初めて見ましたー!」

桃井が目をキラキラさせる。

「駄菓子屋か、確かに向こうじゃ見ないよね。 私も初めて見た」

駄菓子屋に入ると、懐かしい匂いが漂ってきた。
身長が高くなったからか、随分と棚の高さが低く感じる。

「いらっしゃい。 随分と大きな客だねぇ…って…あんた、もしかしてヨウちゃんかい?」

店の奥からお婆さんが出てきて、俺を見て目を見開いた。

「…ユキ婆ちゃん、久しぶり。 よく俺だって分かったな」

中1まで俺、和馬、風香はほぼ毎日この駄菓子屋に来ていたからこのユキ婆ちゃんとは顔馴染みなのだ。

ユキ婆ちゃんは俺に笑顔を向けてくる。

「常連の顔は忘れないさね。 あの落ち着きのなかったガキが随分と大人っぽくなったねぇ」

「まぁ、もう高2だしな」

「…如月君、この方は?」

「ユキ婆ちゃん。 この駄菓子屋の店長だ。 昔よく世話になったんだ」

柊達に言うと、皆ユキ婆ちゃんに頭を下げた。

「今日はカズちゃんとフーちゃんは一緒じゃないのかい? いつも一緒だったのに珍しいじゃないか」

「…今日はたまたま風邪引いたみたいでさ」

「良い年して風邪かい。 カズちゃんは分かるがフーちゃんも風邪とはねぇ。
まぁ、変わらず皆元気なら良かったさね」

「…あぁ、そうだな」

喧嘩して今は会っていない事を伝えたらユキ婆ちゃんはきっと心配する。
だから何も言わない方がいいだろう。

俺は小さなカゴを取り、中に小さなチョコレートを沢山入れる。
柊達も俺を真似してカゴの中に好きなお菓子を入れている。

「ユキ婆ちゃん、これ頼む」

「はいよ。 相変わらずチョコ好きだねぇ」

「いいだろ別に」

皆ユキ婆ちゃんに会計してもらい、それぞれ袋を持つ。

「んじゃ、俺達行くな。 元気そうで良かったよ」

「私はまだまだ元気だよ。 またおいで」

「あぁ」

俺はユキ婆ちゃんに笑顔で言い、店を出た。

「優しいお婆ちゃんだったねぇ」

「礼儀のなってない客にはくっそ冷たいけどな」

そんな会話をしながら、俺達は次の目的地へ歩き出した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「着いたぞ。 昔よく遊んだ公園だ」

駄菓子屋に行った後、俺達は公園に来ていた。
ブランコと水飲み場しかない小さな公園だ。

「小学生時代はほぼ毎日この公園で遊んでた」

「へぇ…如月君がここで…」

「ブランコしかないけど、何して遊んでたの?」

七海が首を傾げて質問してくる。

「いろいろやったぞ? ブランコから1番遠くまで飛んだ人が勝ちゲームだったり、靴飛ばしだったり鬼ごっこだったり」

「へぇ…やっぱり陽太がそんな遊びしてるイメージ湧かないや」

そんな七海に笑い、ブランコに触れる。

やはり昔よりも劣化してるし、錆がひどいな。

この公園には沢山の思い出がある。
よく集合場所として使っていたし、和馬から陸上部の存在を聞いたのもこの公園だし、
…最後に和馬と喧嘩をしたのもこの公園だしな。

「ブランコなんて久しぶりです! 皆で乗りましょうよ! ね、如月先輩!」

「ブランコは4つしかないから、皆乗りな? 僕が写真を撮ってあげよう」

「やったぁ! 海堂先輩流石っ!」

「えぇ…私ブランコ苦手なんだけどな…」

「ブランコに苦手とかあんのか?」

七海に苦笑いしながら言い、ブランコに乗ろうとするとすると…

「…ヨー…君…?」

久しぶりに聞く声が聞こえ、俺は身体が固まった。
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