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第一章
アルトハーツ・ナイトエル 三歳
しおりを挟む俺の名前はアルトハーツ・ナイトエル。
このナイトエル王国の第六王子。
転生したら三歳でした。
て、
今はどうでもいい、いやよくはないが、誕生直後よりはマシだ、たぶん。
転生ものは転生したらちょうど魔法学園に通う年頃だったりするものが多い気がしていたが幼児や赤ん坊のパターンもあったな確かに。
乙宮優ことアルトハーツはしげしげと目の前の鏡を見つめる。
アルトハーツとしての記憶は、目を覚ました途端流れこんできた。
この国の第六王子として生を受けたアルトハーツは、金髪碧眼の多いこの王室にしては珍しくピンク色の髪に水色の瞳をしていた。
別にそれで母である王妃が不貞の疑いをかけられたとか、異端だと誹りを受けたわけではない。
ピンク色の髪に水色の瞳だったのは父である国王の母親だったそうで、隔世遺伝だろうということだった。
国王と王妃は仲の良い夫婦で、六人の王子に腹違いはいない。
王家にしては珍しいんじゃないかと思う。
いや、それはまあ良いんだけど。
上にいる五人の王子は皆金髪碧眼をしている。
まあ王子様らしいといえるだろう。
ピンク色の髪の王子が悪いというわけじゃない、いたって別にいいだろう。
王子達は剣の鍛錬も教育として受ける、まあ当然だろう。
筋肉がつき始めた兄達は細身ながらも精悍さが滲み出て、ちゃんと男らしい。
一番上の兄なんか既に大人みたいだ。
五番目の兄はまだ七歳だけど悪戯っ子で活発で、「小猿のよう」だと言われている。
羨ま。
一方俺は、「天使のよう」だと言われている。
何故かって?
ふわっふわのピンクの髪に水色の瞳の俺が可愛いからだよ。
一〇人中九.九人が異議なしと称えるレベルで可愛いからだぞ?
王子のマントより花冠、
ズボンよりふわりと舞うスカート、
剣より花束が似合う。
と、吟遊詩人さえ謳うだろう天使な美少女(性別;男)が俺だ、参ったか。
第六王子なのは別にいい、むしろ王位継承権から遠い王子なうえ衣食住が手厚く保護されている身分は有り難い。
色々自由が効きそうだし。
容姿だって整っていないよりは整っていたほうが良いだろう、王子だというからには。
だが、こと自分に関しては可愛さより精悍さが欲しかった。
抜けるように白い肌より浅黒い肌になりたかった。
「なんで、女顔度増してんの……?」
俺は鏡を見て、深く深くうなだれた。
「まさか」
あの自称女神の呪いじゃないだろうな?
俺が欲しいスキルを告げた時、
「ほんとにそれでいいの……?」
「ああ」
「もっと派手で花形なスキルいっぱいあるわよ?」
「俺そういうのはいいんだ。自分らしく生きられればそれでいい。そう考えたらこのスキルは最強だろ?」
「うーん、正直わかんないわ。そんなスキル希望してきた人今までいないもの」
「へぇ?そりゃいいや」
「いいの?先人がいないってことは世間から認められにくいってことでもあるけど?」
「それこそ理想的だし。この世界でこれを駆使したヤツがいないってことは限界もわかってないってことだよな?じゃあ可能性は無限大じゃん」
「……!……」
あの時、ほんとに嬉しそうに笑った気がしたけど、見間違いか。
祝福を与える振りをして呪いをかけられたのか?
「まあまあハーツ様、鏡を見てため息を吐かれるなんてまるで恋する乙女ですわね」
嬉しそうに言う年配の侍女に、
「アルトだよ」
俺は低い声(どう足掻いても幼児なので声は高いが)で返す。
「え?」
戸惑う侍女を尻目に、よっこらせ、とばかりに着せられたワンピース(衣装ケースに女ものの服しかなかった。虐待じゃないのかコレ)を捲り上げ、胡座をかく。
「だ・か・ら、僕は男なの。アルトって呼んで」
そう言って鏡越しに坐った目で睨むと、侍女が一目散に駆け出した。
「ハーツ様が!あの天使のハーツ様がご乱心でございますー!!」
と叫びながら。
いや、違うだろ。
今まで周りの着せ替え人形だった幼児に自我が芽生えただけじゃん、喜べ。
まあ俺の意識が起きる前までのアルトハーツは素直に女装を受け入れてたからな。
俺が起きないままだったらもう数年、着せ替え人形できたかもしれないがもう無理だ。
見掛けは天使でも中身はもうすぐ成人男子、ヒラヒラスカート着て喜べるわけがない。
成長と共に嫌がって当然だろ?
そう、思っていたのだが__
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