記憶をなくしたジュリエット

詩海猫(8/29書籍発売)

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「おい瑠璃!また遅刻すんぞ、いつまでいじけてんだ」
柔らかそうな茶髪で整った造作のブレザー姿の青年がノックもせずに扉を開けたのに、同じくブレザー姿で腰まである茶色い髪の少女がブラシを片手にベッドから立ち上がりながら、
「今出るとこだったんだから部屋まで勝手に来ないでよ!」
と険のある声で返す。
こちらも整った可愛いらしい顔立ちをしているが、ふわふわした髪を逆立てたようなさまは長毛種の猫がふしゃーっと威嚇している姿を連想させる。

青年は一見優しげな風貌なのだが、
「たかだかアイドルのコンサートに行けなかったくらいでいつまでもうじうじしてんなよ」
と言う声音には既に精悍さが滲み出ていて妙な迫力がある。
が、
瑠璃と呼ばれた少女はそれに臆すことなく食ってかかる。
「“たかが“じゃないってば!ゼノ様を生で拝めるチャンスだったんだよ?!」
「俺らと同い年の顔がいいヤツってだけだろ」
「ゼノ様の美貌はこの世の奇跡なの!」
「野郎の顔に奇跡もへったくれもあるか。ほら行くぞ」
と自分の鞄の他に少女の鞄も持って扉へと促す。

流れるように自然な動作だった。

十年以上もやっていれば当たり前ではあるが。
家が隣同士で、家族同士も付き合いがあって、幼稚園から高校までずっと一緒の二人は、茶色い髪の青年は亜城レイ、少女の方は橅木かぶらぎ瑠璃。
共に十七才。
二人は十年以上の腐れ縁__もとい、幼馴染だった。
朝に弱い瑠璃を迎えに行くのも零の日課と化していた。
中学の前半まではボサボサ頭のまま叩き起こされるのが常だったが、二年生になってすぐあたりから瑠璃も零が来るまでにはある程度身だしなみを整えておくようになった。

高校生になった今でも躊躇わず乙女の部屋にノックなしに入ってくる零に瑠璃は怒り心頭だが、当の零は「さんざん一緒に風呂に入った奴が何を今さら」とどこ吹く風である。
確かに子供の頃はむしろ「零と一緒がいいー!」とはしゃいで一緒に入っていたが、それは子供だからである。
高二になっても変わらず瑠璃に対して世話焼きの零に瑠璃は弱冠引き気味だ。

「また朝ご飯、食べ損ねた……」
登校の道すがら溢す瑠璃に、
「だからあと二十分早く起きれば充分食えるって言ってるだろ」
「だから早く寝るつもりでベッドには入ったもん」
「で?早くベッドに入ったものの寝過ごしたってことはベッドに入っただけで寝なかったんだろ?」
「………」
図星である。
イベントに行けなかった元凶インフルエンザへの恨みつらみを友達とチャットで語っていてついつい夜更かししてしまったのだ。
「お前髪とかの身だしなみはちゃんとしてんのにその夜更かし癖だけはどうにもなんねぇのな?」
「__ほっといてよ」
「どうせゼノさまがー、とか今日のゼノさまがどうだったとか、そんな話でふかしてたんだろ」
「いいでしょ別にっ!友達とのプライベートな会話まで踏み込まないでよっ!」
「図星なのかよ……」
呆れた零のひと言に返すことをせず、瑠璃はぷいと先に歩きだす。

無駄なのだが。

瑠璃と長身の零とではリーチの長さが違うし、何より瑠璃の鞄は今も零の手の中だ。
邪険にされても当たり前に瑠璃の分も運ぶ零も零だが、それを当たり前と受け止めている瑠璃も瑠璃でズレていた。

「おっはよー!瑠璃、零!今日も仲良く夫婦で登校だね!」
「夫婦じゃない!」
と瑠璃が噛み付くが、零は無言で瑠璃の席に鞄を置き、自分の席に向かう。
学内でも二人が一緒に登下校しているのは知れ渡っていたので、クラスメイトの反応もこれが通常運転だった。
















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