9 / 55
デビュタント 2
しおりを挟む
「フィオナおめでとう!」
「そのドレス素敵ね!貴女に凄くよく似合ってる。それも殿下のお見立て?」
「ドレスはお母様よ」
「ネックレスも凄いわね。さすがフィオナだわ……」
「ネックレスも凄いけど、そのティアラって……」
挨拶に来るなり褒め倒してくれた友人たちだが、フィオナの頭上に目をやると、皆絶句に近い状態になった。
「やっぱり派手かしら………」
やはり分不相応だったかとしょげるフィオナに、友人たちは慌てて言う。
「う、ううん?!派手なわけじゃないわ、品があって淑やかなデザインで貴女によく似合ってる」
「そうそう、“貴女のために誂えた“って言葉がまさにぴったりの」
「そうよそんなティアラをデビューで冠れるのは生まれながらの王侯貴族くらいよ__て、あれ?!」
「ち、違うのよ!それが普通に似合ってるって意味で言っただけで__、」
「そうよ!まるで生まれながらのお姫様ね!……あれ?」
友人たちは決して皮肉を言っているわけではないのだが、何故だかフィオナを前にして口に出てくるのはこんな言葉ばかりだ。
事実を言ってるだけなのだが。
本人は自覚していないが、侯爵家の溺愛に皇弟からの溺愛が幼い頃からプラスされて育ったフィオナは、皇女のいないこの国で既に皇妃に次ぐ女性として認識されつつある。
皇妃はなかなか世継ぎに恵まれないことを気に病んで慎ましく装いがちだったので、尚更人々の関心はフィオナに行きがちだった。
そしてフェアルドがフィオナのデビューのために特注したティアラは大きさこそデビュタントに相応しく小ぶりのものだったが扱われている素材が本来のデビュタントのものとは違った。
台座がそもそも純金でコーティングされている。
重くならないよう一番外側だけにとどめているのだろうが、そもそもデビュタントのティアラはプラチナか銀がせいぜいなのでこれは目立つ。
おまけに使われている宝石はどれも小さいが、数が多い。
中央に嵌め込まれた碧い石から両側に翼を広げるように小さな宝石がグラデーションに連なっていて、一体幾つの宝石が使われているのか数えるのは諦めた方が良さげなレベルだ。
__ていうか、重そう。
一体いくらするのだろう?
これをデビュタントに贈る婚約者、怖い。
ていうか全力で殿下の瞳の色を主張しているのも怖い。
デビュタントのティアラは特定の色に特化したものは滅多にない。
繰り返し使えるものがよしとされているからだ。
特に婚約者の色を着けたい場合、中央の石を交換(といってもそれほど大きな物ではない)出来るタイプの物も僅かだが貸し出されているし、裕福な貴族ならデビュタント用に作らせた後、貸し出し用に売却してしまうこともある。
そんな時勢に、この「一生肌身離さず持っていろ」と言わんばかりのオリジナルな国宝級を見せつけられて令嬢たちは若干引いていた。
訊いてはいけない、或いは言ってはいけない質問を悶々と抱え込む友人たちは必死にフェアルドの執着を見ないようにフィオナを褒める方向にシフトしたのだが、何故だか本当の事を言ってるだけなのに皮肉になってしまうという悪循環に陥っていた。
だが、周囲が勝手に飾り立てているのでなくこれらは無理なくフィオナに似合っていた。
贈る側もフィオナの希望を聞き、また他の二人にも確認して互いにバランスよく仕上がる様に仕立てたのだから当然ではあるが、フィオナがそれらの高価な品に負けない立ち居振る舞いを身につけていたことも大きかった。
十四歳になったフィオナは百五十九センチと同じ年頃の令嬢の中では小柄な方で身体つき自体華奢だが淑女教育をサボらなかったおかげでとても洗練された所作を身に付けていた。
フェアルドが臣下に降っている以上、お妃教育こそされなかったがそれでもマナーに関しては王妃に次ぐレベルを求められたからだ。
普通の我が儘な令嬢だったらすぐに泣いて逃げそうなレッスンを、フィオナは「フェアルド様に恥をかかせないように頑張ります!」と受けて立ち、「フェアルド様にエスコートしていただくデビューまでに百六十センチは欲しいところですわ!」とトレーニングをしたりもしていた。
目標には一センチ届かなかったと落ち込んでいたが、女性は踵の高い靴を履くので問題ない。
むしろ百八十センチの自分と並び立つ為にそこまでしてくれるフィオナが愛おしくてたまらない。
先ほどからフィオナの友人たちが失言を繰り返しているがそれが悪意からのものではないとわかっているフェアルドは、
「当然だよ。私にとってはフィオナはたったひとりのお姫様だからね」
とフォローし、
「そのティアラ、重いかい?王城の魔術師長に頼んで、出来るだけ軽くしてもらったんだけど……」
気遣わしげにフィオナの肩を抱く。
「い、いえ重くはないですわ!」
その仕草に初々しく頬を染めるフィオナに「(色々)重くないんだ……」「あれ軽くするために魔法まで付与しているのか……しかも魔術師長って(付けてる宝石の方減らしゃよかったんでは?)」と周囲はため息を吐いた__一部の人間以外は。
「そのドレス素敵ね!貴女に凄くよく似合ってる。それも殿下のお見立て?」
「ドレスはお母様よ」
「ネックレスも凄いわね。さすがフィオナだわ……」
「ネックレスも凄いけど、そのティアラって……」
挨拶に来るなり褒め倒してくれた友人たちだが、フィオナの頭上に目をやると、皆絶句に近い状態になった。
「やっぱり派手かしら………」
やはり分不相応だったかとしょげるフィオナに、友人たちは慌てて言う。
「う、ううん?!派手なわけじゃないわ、品があって淑やかなデザインで貴女によく似合ってる」
「そうそう、“貴女のために誂えた“って言葉がまさにぴったりの」
「そうよそんなティアラをデビューで冠れるのは生まれながらの王侯貴族くらいよ__て、あれ?!」
「ち、違うのよ!それが普通に似合ってるって意味で言っただけで__、」
「そうよ!まるで生まれながらのお姫様ね!……あれ?」
友人たちは決して皮肉を言っているわけではないのだが、何故だかフィオナを前にして口に出てくるのはこんな言葉ばかりだ。
事実を言ってるだけなのだが。
本人は自覚していないが、侯爵家の溺愛に皇弟からの溺愛が幼い頃からプラスされて育ったフィオナは、皇女のいないこの国で既に皇妃に次ぐ女性として認識されつつある。
皇妃はなかなか世継ぎに恵まれないことを気に病んで慎ましく装いがちだったので、尚更人々の関心はフィオナに行きがちだった。
そしてフェアルドがフィオナのデビューのために特注したティアラは大きさこそデビュタントに相応しく小ぶりのものだったが扱われている素材が本来のデビュタントのものとは違った。
台座がそもそも純金でコーティングされている。
重くならないよう一番外側だけにとどめているのだろうが、そもそもデビュタントのティアラはプラチナか銀がせいぜいなのでこれは目立つ。
おまけに使われている宝石はどれも小さいが、数が多い。
中央に嵌め込まれた碧い石から両側に翼を広げるように小さな宝石がグラデーションに連なっていて、一体幾つの宝石が使われているのか数えるのは諦めた方が良さげなレベルだ。
__ていうか、重そう。
一体いくらするのだろう?
これをデビュタントに贈る婚約者、怖い。
ていうか全力で殿下の瞳の色を主張しているのも怖い。
デビュタントのティアラは特定の色に特化したものは滅多にない。
繰り返し使えるものがよしとされているからだ。
特に婚約者の色を着けたい場合、中央の石を交換(といってもそれほど大きな物ではない)出来るタイプの物も僅かだが貸し出されているし、裕福な貴族ならデビュタント用に作らせた後、貸し出し用に売却してしまうこともある。
そんな時勢に、この「一生肌身離さず持っていろ」と言わんばかりのオリジナルな国宝級を見せつけられて令嬢たちは若干引いていた。
訊いてはいけない、或いは言ってはいけない質問を悶々と抱え込む友人たちは必死にフェアルドの執着を見ないようにフィオナを褒める方向にシフトしたのだが、何故だか本当の事を言ってるだけなのに皮肉になってしまうという悪循環に陥っていた。
だが、周囲が勝手に飾り立てているのでなくこれらは無理なくフィオナに似合っていた。
贈る側もフィオナの希望を聞き、また他の二人にも確認して互いにバランスよく仕上がる様に仕立てたのだから当然ではあるが、フィオナがそれらの高価な品に負けない立ち居振る舞いを身につけていたことも大きかった。
十四歳になったフィオナは百五十九センチと同じ年頃の令嬢の中では小柄な方で身体つき自体華奢だが淑女教育をサボらなかったおかげでとても洗練された所作を身に付けていた。
フェアルドが臣下に降っている以上、お妃教育こそされなかったがそれでもマナーに関しては王妃に次ぐレベルを求められたからだ。
普通の我が儘な令嬢だったらすぐに泣いて逃げそうなレッスンを、フィオナは「フェアルド様に恥をかかせないように頑張ります!」と受けて立ち、「フェアルド様にエスコートしていただくデビューまでに百六十センチは欲しいところですわ!」とトレーニングをしたりもしていた。
目標には一センチ届かなかったと落ち込んでいたが、女性は踵の高い靴を履くので問題ない。
むしろ百八十センチの自分と並び立つ為にそこまでしてくれるフィオナが愛おしくてたまらない。
先ほどからフィオナの友人たちが失言を繰り返しているがそれが悪意からのものではないとわかっているフェアルドは、
「当然だよ。私にとってはフィオナはたったひとりのお姫様だからね」
とフォローし、
「そのティアラ、重いかい?王城の魔術師長に頼んで、出来るだけ軽くしてもらったんだけど……」
気遣わしげにフィオナの肩を抱く。
「い、いえ重くはないですわ!」
その仕草に初々しく頬を染めるフィオナに「(色々)重くないんだ……」「あれ軽くするために魔法まで付与しているのか……しかも魔術師長って(付けてる宝石の方減らしゃよかったんでは?)」と周囲はため息を吐いた__一部の人間以外は。
53
あなたにおすすめの小説
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
四人の令嬢と公爵と
オゾン層
恋愛
「貴様らのような田舎娘は性根が腐っている」
ガルシア辺境伯の令嬢である4人の姉妹は、アミーレア国の王太子の婚約候補者として今の今まで王太子に尽くしていた。国王からも認められた有力な婚約候補者であったにも関わらず、無知なロズワート王太子にある日婚約解消を一方的に告げられ、挙げ句の果てに同じく婚約候補者であったクラシウス男爵の令嬢であるアレッサ嬢の企みによって冤罪をかけられ、隣国を治める『化物公爵』の婚約者として輿入という名目の国外追放を受けてしまう。
人間以外の種族で溢れた隣国ベルフェナールにいるとされる化物公爵ことラヴェルト公爵の兄弟はその恐ろしい容姿から他国からも黒い噂が絶えず、ガルシア姉妹は怯えながらも覚悟を決めてベルフェナール国へと足を踏み入れるが……
「おはよう。よく眠れたかな」
「お前すごく可愛いな!!」
「花がよく似合うね」
「どうか今日も共に過ごしてほしい」
彼らは見た目に反し、誠実で純愛な兄弟だった。
一方追放を告げられたアミーレア王国では、ガルシア辺境伯令嬢との婚約解消を聞きつけた国王がロズワート王太子に対して右ストレートをかましていた。
※初ジャンルの小説なので不自然な点が多いかもしれませんがご了承ください
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
離婚した彼女は死ぬことにした
はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
私たちの離婚幸福論
桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい
春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。
そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか?
婚約者が不貞をしたのは私のせいで、
婚約破棄を命じられたのも私のせいですって?
うふふ。面白いことを仰いますわね。
※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。
※カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる