ふざけんな! と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった 旦那様、あなたは私の夫ではありません

詩海猫(8/29書籍発売)

文字の大きさ
20 / 29
連載

アンサー編 彼女が死んだ後 3(原作 マリーローズとハンナ/ロード家使用人/カイゼル侯爵家)

しおりを挟む





「もう一度言って頂戴、モンド」
「……奥様、いえマリーローズ嬢が……お亡くなりになりました」
「なんてこと……!伯爵家で大切に育てられたお嬢様をいただいておきながら_…セントレイ伯爵家の方々に、なんてお詫びすれば……」
「いえ、訃報をお知らせしてすぐ、セントレイ伯爵家は奥様の籍を旦那さまのロード家から抜かれました。流れたお子様共々、お二人の亡骸はセントレイ伯爵家代々の土地に墓碑を建てるゆえ、“当家は一切関わるな“と酷くお怒りでした」
そう小さくなりながら続けたモンドの台詞に、カイゼル侯爵夫人・イザベラは手にしていた扇子を取り落とした。

「……なんですって……?」
「マリーローズ様は、ご懐妊されておりました。先日のお邸襲撃の際、流れてしまいましたが…_それが元で、そのまま回復することなく」
「アベルは…、あの馬鹿息子は知っていたの……?」
「旦那さまは、ご存知ありませんでした。何も」
「“何も“ですって……?」
「ご懐妊がわかった際、マリーローズ様は“自分で旦那さまにお知らせしたいから“と私どもに口止めされました。そして旦那さまに大事な話があると切り出され、旦那さまは“わかった、では今夜“と答えられました」
「そう。それで?」
「いつも通りすっぽかされました。私どもが知る限り、旦那さまは奥様との約束を誠実に守ったことなどありません。嫌な予感は、していたのです…_おそらく奥様も半ば予測されていたのでしょう、旦那さまが時間通りに帰って来なくても、これといった反応は示されませんでした。ですがこの時ならばまだ、間に合ったかと思います」
「間に合った__とは?」
夫人の横で眉を顰めていたカイゼル侯爵が尋ねた。

「奥様を永遠に失うことからです。この後直ぐにロード伯邸は襲撃され、死人こそ出なかったものの怪我人は多数、この襲撃が元でマリーローズ様が流産されました。__普通、邸が襲撃され、妻が怪我を負ったと聞けば、飛んで帰ってくるものではありませんか?たとえ懐妊の事実を知らなかったとしても」
「__そうだな」
「当たり前よ」
「報告を受けた旦那さまは、“死人は出ていないのだろう、怪我人たちの補償などは追って指示する“とだけ言って戻ってこられませんでした。時を同じくして王女宮も襲撃があったとは聞きましたが、王女宮の警備など、大勢おりましょう?」
「そう、だな……」
突然歯切れの悪くなった侯爵に“何か知っているのだろうな“と思いはしたが、モンドは知ったことかと続けた。
これが今、自分がマリーローズに出来るなのだから。

「怪我の報告を聞いてなお何日も帰らない旦那さまに、奥様は殺されました」



*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*


そう報告した際のマリーローズは「腹の子が流れた」と診察した医師に言われた時より遥かに絶望した顔をしていた。

だが、
「そう」
という言葉以外は発さず、ただ宙を見ていた。

まだ流産のショックが抜けきらないのだろう、おひとりにして差し上げようと指示したのが仇となった。

「お薬を飲んで暫く養生すれば回復するでしょう。まだお若いからすぐに次のお子を授かりますよ」
という医師の慰めの言葉も届いてはいなかったろう__いや、むしろ聞いていて無視した可能性の方が高い。

マリーローズは処方された薬を一切飲まなかった。飲まずに捨てていた。
残したスープの中に混ぜたり、花瓶の水の中に溶かしてしまったりしていたらしい。

回復どころか急激に衰弱していったマリーローズに訪れた医師が驚いて訊ねたものの、
「自分でもわからない、ごめんなさい」
とだけ答え、お付きのハンナはじめ皆で必死に看病するも弱っていく一方で、
「このままではいつ命が尽きてもおかしくない。ご家族を枕辺に呼んで差し上げてください」
と遂に医師に告げられた時は目の前が真っ暗になった。



医師に「手遅れ」と言われた頃、マリーローズは白状した。
「でしょうね。薬は飲んでないし、食事も適度に減らして食べたようにみえるよう捨てていたから」
と。
「回復なんかしなくていいのよ、私はもう疲れたの」
とも。



その際、漸く思い至った。
彼女のあの時の「そう」は、全てに絶望し、もうアベルには何も期待しないという意思表示、同時にもう生きていくつもりもないということだと。
気付いたモンドは自ら王城に出向き、アベルに直談判を試みた。
「もう最後かもしれない」と。

だが、アベルの反応は「命に関わるような怪我人はいなかったと聞いている。今王女宮から離れるわけにはいかない。もうすぐケリがつくから、それまで待っているよう伝えてくれ」というもので、モンドは怒りを通り越して「この男は本当に自分が長年仕えた主人だろうか?」と怒りと悍ましさに震えた。

言葉が通じない。

邸の誰もがここまで夫人を蔑ろにする主に憤り、呆れ、怒りを覚えていた。
彼の乳母でもあった侍女頭のマリアは主人の側を離れないハンナを少しでも休ませようとマリーローズに付き添っている。
「間もなく旦那さまも駆けつけます、お気をしっかり持ってください」
と夫人の手を握りながら。

誰に。

そんな中、誰に、何にこんな言葉を伝えるというのか。
誰が聞くのか。

「もう結構です。お世話になりました」
モンドは深く頭を下げた。

この男が帰った時、邸に待つ者は誰もいないだろう。
いや、この男にとってはこちらが家なのかもしれない。

「忠告はしましたよ。もう二度と夫人と話せなくなっても、苦情は受け付けませんから」
そう言い置いて、モンドはアベルの元を去った。



邸に帰り、マリーローズの部屋を訪れたモンドに、
「モンド!旦那さまはっ?!」
と開口一番に尋ねるマリアに、モンドは黙って首を横に振るほかなかった。
マリアは絶望した顔をみせ、慌ててマリーローズに何か言おうとしたが、マリーローズが
「ハンナと二人にして」
と弱々しく発したので、
「わかりました……」
とモンドと連れ立って退室したものの、やりきれずにドアに隙間を残して閉め切らず、ドアの外に立ち尽くした。
ハンナと共に自死を選んだりしないよう__ハンナならやりかねない__する事のないよう、用心のためでもあった。

が、
「お嬢様、気をしっかり持ってください!あの男のどこにお嬢様が命をかける価値があるのですかっ!馬鹿げています!今すぐ離婚してセントレイ伯爵家に帰りましょう!」
聞こえてきたのはハンナの叱咤激励の声。
嫁いだ先で大声で言う台詞ではないが、今この邸でこの言葉を咎められる者はいない。
モンドもハンナも甘んじて受け入れ、「生きていてくださるなら、いっそその方いい」と俯いた。

そこへ、「そうね……」と弱々しくはあるが答えるマリーローズの声が続いて、二人はホッとした。
そこで玄関ホールの方が騒がしくなったのに気づき、モンドは「奥様を頼む」とマリアに目配せして階下に降りて行った。
マリアはひと言も聞き漏らすまいと、再度耳を澄ませた。

「そうです!あんな男、こっちから捨ててやれば良いんです!」
「うん……、私が決心するのが遅くて、挙句こんなことになって苦労をかけてごめんね?貴女も、居心地が悪かったでしょうに__お飾り正妻のお付きだなんて」
「お飾り正妻って_…、誰がそんなことを言ったんです?!私がきっちり成敗しますから教えてください!いえ一緒に殴りに行きましょう!!」
「ふふっ、そうね……もっと言ってやれば良かったわ。この人でなしって、誰かの夫にも父親にもなれない人間のくせになんで結婚なんかしたんだって、罵倒してやればよかった」
「っ_、そうです!そんな生ぬるい言葉じゃなくもっと言ってやりましょう!その為にもお嬢様!早く動けるようになってください!!」
「貴女はセントレイ伯爵家に戻って_…に伝……て……」
握った手の指先から、力が抜けていくのがわかる。
「お嬢様!セントレイ伯爵家に戻る時は一緒です!!一緒に戻るんですよ?!」
そう必死に叫びながら握る手に握り返す力は感じられない。

「マリーローズ!待ってくれ!!」
モンドの様子に胸騒ぎを感じたアベルが使用人たちに責め立てられながら部屋に辿り着いたのは、マリーローズがまさに息を引き取る瞬間だった。



*・゜゚・*:.。..。.:**:.。. .。.:*・゜゚・*



「襲撃の怪我が元とはいえ、あれは緩やかな自死です。加えてマリーローズ様の最後の言葉は“あなたと結婚なんかしなければよかった“。マリーローズ様の、最初で最後の本音であり、遺言でした」
「「…………」」
侯爵夫妻は言葉を発せない。

「私は今日でお邸を去ります。これをお伝えするのが最後のお役目でございます。家令というお役目をいただきながら全うできず、申し訳ありません」
「あなたのせいではないわ」
「いえ、私もマリアも…_とてももう、あの方を主として仕えることはできません」
「でしょうね。アレを見捨てるのは構わないわ。貴方とマリアはカイゼル侯爵家に戻ってらっしゃい」
「マリアは奥様、いえマリーローズ様とハンナ嬢がセントレイ伯爵家に戻るのを見送って直ぐに故郷に帰りました。“侯爵夫妻に合わせる顔がない“と。手紙を預かっております」
「そう……では返事を書かないとね。あなたは?」
「どこか、別の国で奉公先を探そうと思っております。私が王都にいては、セントレイ伯爵家の皆さまがご不快でしょうから。ロード伯邸の他の使用人も、皆おいおい出ていくつもりのようです」
「探す必要はないわ。我が家で受け入れます。充てがう仕事がない者は他家へ紹介状を出すわ。あなたはそれを差配して頂戴。表向きの仕事を避ければセントレイ伯爵家のご迷惑にはならないでしょう」
「かしこまりました。ありがとうございます」
「セントレイ伯爵家にもお詫びに向かわなくていけないわね__追い返されても、石を投げつけられても、何度でも」

三男であるアベルが爵位を授けられると聞いて、“親としてせめてこれくらいは“とモンドやマリアはじめ、我が家で教育した使用人たちをロード邸へ世話した。
長男や次男に比べ充分なことをしてやれなかった自覚があるぶん、爵位を授かった息子への親からの僅かな手助けのつもりだった。

だが、結果はこれである。
「あの子に、一家の主は向いていなかったのね……」
夫人は遠い目をしながら、拾ったばかりの扇子を叩き折った。



*・゜゚・*:。. .。:*・゜゚・*











原作版は暗いので、一日一話だとかえって読者さま達のストレスになるかな~と最後まで書き上げてから一挙公開にしようとしたのですが、エピローグを先に書き終えてそこまでの過程が「いくら書いても全然終わんないんだけど?いつ終わるのこれ」状態になってしまっており、ハロウィン完結は無理そうです、すみませんm(_ _)m💦
文字数的にそこまで多くないはずなのですが……各キャラ視点という点を考えると仕方ないかもしれません。
公開する順に迷って文章の切り貼りとか入ってますので、時系列も前後している部分がございますがアンサー編までお付き合いくださる方はよろしくお願いします。

また、「暗すぎ!!」と感じる方は今世というか今生?ではアベルは“マリーローズwithその仲間たち“にけちょんけちょんにされているという点を踏まえてギャップをお楽しみくださいm(_ _)m





























しおりを挟む
感想 791

あなたにおすすめの小説

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。