記憶が戻った伯爵令嬢はまだ恋を知らない(完結) レジュール・レジェンディア王国譚 承

詩海猫(8/29書籍発売)

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ーーーここまでの道中がどうだったか、もう思い出せない。
キャパオーバーすぎて。

 今、私はあの時と同じ殿下の私室にいる。
 話すだけなら別にここじゃなくてもいいと思うのだが……

 目の前にはいつもの様にお茶のセットがされている__2人ともお茶に手はのびないが。
「あの、」
「何だ?」
 まずはお礼を言うべきだろう。
「助けていただいて、ありがとうございました。それから、このドレスも……とても高価なものなのでしょう?」
 おそるおそるきいてみる。
「私が自分の妃に贈りたかっただけだ、気にするな」
 気になります。
そもそも、いつ私婚約者に確定したのかもわからないんですが?
「そう睨むな。知らせるのが一番後になったのは悪かったが、元は君のせいだぞ?」
 お茶のカップを持ち上げながら言う。
「まず、広間で言ってた話は全て事実だ」
 ーーーはい?
「国王夫妻は勿論君の家族、親族、式に携わる神官、他国からの招待客にも通達済みだ」
「ーーー家族?って、お父様達はご存知だった、と?」
「もちろんだ。財務大臣を差し置いて結婚話なんか進められるわけないだろう?」
 ーーー殿下から話は聞いている。
 確かに父はそう言っていた、母も承知していると。
 確かに、母は私がもうすぐ嫁ぐかのような言動がちらほらーー見え始めたのはいつ、だった?
私はゴクリ と唾を呑み込む。
「い、いつから」
「準備を始めたのは帰国と同時。生地の指定までは帰国前に出来たんだけどデザインは採寸してからでないと決められないからね?」
 ーーーそういう問題ではなくて!

「帰国される前から、私と結婚するつもりだった、という風にきこえますが」
「だからそう言っている」
 言ってない!
 だったらなんで婚約者の発表あんなに延ばし延ばしになってたんですかっ?!

「君がまだ子供だったからだ」
 まるで心を読んだかのように言われる。
「さっき自分でも言ってたろう?君が私の婚約者候補になったのは10才の時。ーーー正確に言えば君に救われた時だよ、私が君をにと決めたのは」



 ーーー初めて殿下に会ってから3か月、私は殿下の側近で親友(で多分悪友)の兄と共によく登城する様になっていた。
 当時の殿下はあまり人付き合いを好んでする方ではなかったが、親友の兄とは割と砕けた話をしていたし、初対面で殿下の紅い瞳が大好きになった私は何かと殿下に纏わりついていたが、親友の妹だからか邪険にされることもなく、それを良いことにただ憧れの王子様として慕っていた。

 ーーーそんな折り、人と会う約束があるという殿下と騎士団に顔を出してくるという兄と別れて私は1人で庭園をうろついていた。
とにかく王宮の庭はだだっ広い。
 子供が探検したくなるのは当然で、迷子になるのも必然だった。
迷い出てしまった場所で怒られつつ出てきた建物への行き方をきいて、向かう道すがら、私は殿下が城に入りこんだ暗殺者に刺された現場に出くわした。
 そして魔法で傷を治した。
 私が婚約者候補に加えられたのはそのすぐ後だからてっきり、ああいう事がまたあった場合の対処法として加えられたのだと思った。

 ーーーという話をすると。

「なんで、そうなる……」
 目の前の殿下がぐったりと落ち込んだ。
「違うんですか?」
 だって、その時殿下には既に年の近い候補が何人もいた。
 実際、私が候補に加えられてからも他の候補の令嬢が殿下の腕に張り付いてるのを何度か見たし、その令嬢がたはお茶会で会うたびに、
「私は既に殿下の寵愛をいただいてるの。あんたなんか不相応よ、王妃様の姪だからって出しゃばって来てみっともない」
「本当、将来美人になるとも思えないのに殿下もモノ好きですこと」
「まあ、皆さん、相手は子供よ?対等に会話なんかする必要ありませんわ」
「そうですわよねぇ、おほほ」
 てな感じに無視にお茶をかけられるその他色々やられたのだ。
そのうちお兄様が気付いて、その人達とお茶会で会う事はなくなったけど、王宮での公式行事ですれ違う度彼女達の態度は同じだった。
「私はまだ殿下と続いてる」だとか「殿下は私を妃に指名すると言って下さったわ」とかだ。
私も殿下に会う度言われてたので、てっきり全員平等に言ってるのかと思ってた。

 ーーーとこの際だから殿下にその話もしてみると、テーブルに突っ伏してしまった。

「ーーーあぁ、確かにそれは私が悪いな……すまない。大体想像はつくが念のためその令嬢達の名前を教えてくれないか?ーーー対処するから」
 最後のほう、急に声が低くなって聞き取れなかったが、なんとか起き上がりながら殿下が言う。
「婚約者候補だが、君以外は全員既に正式に断りをいれている」
 え?
「私が国を離れてる間はまあどんな噂を流した所で事実でないのは誰にでもわかるし、放っておいたんだ。その間にとっとと別の相手をみつけてくれれば良かったのだが、彼女達みたいに身分に拘る令嬢は”王子の婚約者候補”という肩書きを失くしたくなかったらしい。随分しつこく食い下がってきたので今までかかってしまった。あちらを確実に押さえてからでないと、君に害を及ぼすかもしれないからね」
「お付き合い、されてたんじゃなかったんですか?」
 候補でも、そうでなくても。
当時の殿下は割と取っ替え引っ替えしてたイメージがある。

「そうだろうな。君に会う前、というか会ってからも暫くは、私は乱れた生活をしていた。当時15才の私は身体は一丁前に育ってたが中身は大人に程遠かったし、女性に興味深々だったからね」
「………」
 自覚はあるんですね__で?
「君に出会って惹かれ始めて、君の名前が婚約者候補にあがってきた時、ローズ伯とリュートに言われた。ローズ伯にはこんな悪霊がはびこる城に娘をやるのはごめんだと、リュートにはお前のように下半身の堕落した奴に妹をくれてやる気はないと」
「ーーーじゃあ、父やお兄様は、その頃から…?」
知ってたのか、殿下が私を妃にするつもりだと。
「いや、君の家族全員」
「はぁっ!?」
 一瞬令嬢の仮面がはずれ、素っ頓狂な声が響く。



 それからの殿下の話を要約すると。
 父にはそういった令嬢達(及びその親)から必ず私を守る事、留学して自分を磨き、彼女に相応しい王子になってみせるのでそれまでどこからの縁談も受けないで欲しいと頼み、兄には周りの女性達を一掃し、その上で私が成長して殿下を受け入れたならば良いと許可を取り。
母と2才下の弟は家まで何度か来て説得していた__らしい。



 えぇと……つまり。
 私は、候補になってすぐの頃から殿下の妃にと内々に話は進められていて、後は私の承諾だけのとこまで準備は進められていたという事か?
 そして、両家の家族はそれを知っていた、と?
  ……知らなかったのは私だけ……?
 __私もテーブルに突っ伏していいだろうか。ダメだ、ドレスが皺になる。
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