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しおりを挟む「今日はまた随分大人しくしていらっしゃるのですね?昨夜はあんなに勇ましかったのに」
__身分が高い主賓に自分から話し掛けるわけないだろうが、昨夜のは例外だ。
相手が王子ではあったが平等の場であったし、どうせ追放されるなら後腐れなく言いたい事は言っておこうと思っただけだ。
「勇ましい?」
国王が訝しげに言う。
このひと、どこまで昨夜の報告受けたんだろ?
まさかきいたけどよく覚えてないとかじゃないよね??
「ええ。飛びかかってくるならず者を一蹴した扇術はとても素晴らしかった」
見てたのか。
あんな騒ぎに付き合ってられん、とばかりにとっとと退出してくれてれば良かったのに。
「そ、そうか……」
国王の顔が微妙に引き攣る。
が、コホン、と表情を取り繕うと、
「しかし、夜会の席では些か配慮に欠ける行動だな」
__はあ?あんたのバカ息子がそのならず者をけしかけてきたんでしょうが?
「いや、彼女は自分と自分の友人を守ろうとしただけですよ。どちらかと言えばあの場の非はラインハルト王子にあったと思いますよ?何の咎もない彼女達を捕らえて拷問にかけろ、などとあの場で命じたのですから」
「な、何だとっ⁉︎」
え ほんとに報告受けてないの?
「国王陛下はご存知なかったんですか?」
黒太子の質問にもごもごとなる国王を私も扇子越しに冷たい目で見やる。
「陛下は昨夜遅くに簡単な報告を受けただけなので詳細はまだご存知ないのですわ。本日は朝からこの夜会の準備で皆忙しくしていたものですから。申し訳ありません、ルキフェル殿下」
「いえ。私の為に心を砕いて下さってありがとうございます」
ミリアム妃のフォローに黒太子が如才なく答えるが、いや別に夜会の差配してるワケじゃなし。
昨夜の祝祭ではしゃぎすぎただだけでは?
と私は心の中で突っ込んだ。
学園の祝祭にレオンが行くからと話をした時王妃様は「じゃあその日の公務はミリアムに任せて私は出かけるわ!」
となったそうだが、普段王妃に手綱を握られてる国王としては「羽目をはずせる!」とか思ったんじゃなかろうか?王妃様に内緒で妾を囲ってるって噂もあるし。
普段は王妃様の忠実なしもべ、じゃない誠実な国王は結婚前にさんざんならした女たらしでもある。
第三王妃までいたらもう充分だろうに。
後宮廃止した王様なんか生涯ただ一人の妃を貫いたんだしさ?__異例尽くしの王妃となった人も、大変だったろうけど。
三人まで妃を娶れるというのは見初められた女性にも甘い汁だけでなく一定の責任を持たせる為と、王が無作為に女性に手を出しすぎないようにと牽制の為でもある。
一人だけだと負担も増えるが周りに有用な人材さえ揃っていれば出来なくはない。
だが元が日本人だからだろうか、私はやっぱり一夫一妻制がいい。
この国王は叔父にあたる方で、レオン様と結婚すれば義父となる方ではあるが、どうも好きになれない。
何故かと言えばわかりきってる。
ラインハルトと一番似てるからだ。
だからこそ、この王はラインハルトを甘やかしあんなアホボンに育ったんじゃなかろうか?
そう思うと余計腹立つな……
黒太子の指摘に一旦泡をくったもののすぐに威厳(?)を取り戻した王は、
「それは、申し訳なかった」
と私の方を見ずに言い、この話は終わりとばかりに水を向けた。
「ところで、貴公の話にあったドラゴンに関する条約の事だが__」
「それこそこんな場所では話せませんよ。国家機密ですから」
「う、うむ。そうだな……」
完全に主導権を握られている。
__危ういな。
そこへさらにあまり好きではない声がかかった。
「皇太子殿下!帰国するのを延期されたとか」
「来たか、宰相」
「………」
こいつもいたのか。
この国の宰相ゲバル。重臣のなかでは一番年上で、禿げ上がった頭にギラついた目の派手好きなおっさん、というのが私の評価だ。
宰相で年上でもあるのに宮廷での発言力も影響力もお父様に敵わないのを忌々しく思っているのは誰でも知っている。
そして、第三王妃の義父でもある。
せっかく遠縁の娘を養女にして王妃にして王子を産ませ、王のラインハルトへの溺愛を煽って王太子に指名させようと思ってたのに、当のラインハルトが学園でやらかしたせいで今や廃嫡寸前だ。
今は城の一室に軟禁され、沙汰がくだるのを待っていると聞く。
これはやっぱ、敵だろうな~と思う間もなく、
「こちらにいる間に何か見たいものや欲しい物があれば何でも仰って下さい、出来るだけご希望に沿うよう取り計います」
「有り難いお言葉です」
”欲しい物があれば”との言葉と同時にちらりと向けられた視線がたまらなく不快だ。
これ以上ここにいても厄介なだけだ。
__そろそろ行こうか。
レオン様の言う通り”締め”は大人達に任せて、自分の身を守る事に徹するとしよう。
私は目を臥せて小さく息をつく。
「お加減が悪そうですね?ローズ伯令嬢」
ミリアム様が気付いて声をかけてくれる。
助かった。
ここの男性がたはそういった機微に反応しなさそうですからね?
「はい。私はこういった場に一人で出るのは初めてですし、こんな高貴な方々に囲まれて緊張してしまって、何だか呼吸が苦しくなってきてしまいましたの」
「それはいけませんわね。どこか、」
言いかけたミリアム妃を遮って、
「では私があちらのソファにお連れしましょう」
仮にも王妃に対して甚だしく無礼だが咎める者はいなかった。
このまま女性専用の休憩室に行ければ良かったのだが__仕方ないか。
私は差し出された黒太子の手を取った。
広間の端の方へ歩きながら、
「セイラ嬢はサファイアよりルビーがお好みですか?」
私が今付けてるのは紅い薔薇の髪飾りと金のネックレスのアクセントに小さなルビーが使われたものなので一見おかしくはないが唐突な問いだ。
「宝石としてはどちらも好きですわ。やたらに身に付けたいとは思いませんが」
どうせ仮病は察してるのだろう、私は平坦に答える。
ラインハルトよりレオンハルトの方が好みなのか?
という質問に。
「成る程。見目形に拘ってる訳ではないと」
当たり前だ。私が好きなのはレオン様のルビー色の瞳であってルビーではない。
同じ理由でラインハルトが好ましくないだけでサファイアは綺麗な石だと思っている。
「我が国は常に次代に強い血を残そうと相応しい王妃を求め各地をドラゴンと共に飛び廻っています。貴女は竜の背に乗ってみたいと思いませんか?」
「竜の背に、だなんて恐ろしいですわ」
「それは貴女らしくありませんね」
“どれが私らしいか“なんて黒太子に語られたくはないが。
「私は次代の王として強い子孫を残したい。それには私と共に戦い命を落としても構わない__そう思える相手を と望んでいます」
「その言い方では自分の為に死んでくれる誰かを求めてるようにきこえますわ」
「誤解ですよ。わたしの隣で死線をくぐり抜けられる誰かという意味にすぎません。そしてそういう女性こそが王妃に相応しい」
別に貴方の理想のタイプは訊いてない。
し、
興味もない。
だから私は無視して話題を逸らす。
「飲み物を頂いても?」
「ああこれは私としたことが。取ってきましょう」
「いえ、よろしければご一緒に。今日は特別に様々な種類の紅茶が用意されてるようで気になっていましたの」
「そういえばセイラ嬢は大の紅茶好きとか?」
「はい。殿下にはあまりご興味ないかもしれませんが……」
「私は単に詳しくないだけですよ。貴女がご教授下さるなら喜んで」
一緒に紅茶が用意されてる一角へと向かう。
目当ての人物が、そこにいたから。
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