記憶が戻った伯爵令嬢はまだ恋を知らない(完結) レジュール・レジェンディア王国譚 承

詩海猫(8/29書籍発売)

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“竜の巣“
それは人の入れぬ領域にあり、また魔法使いやドラゴンマスターが何がしかの方法で近寄っても、決して見る事も触れる事も出来ないという。

_____要するに、“権力で自分をどうこうしようとすれば力は一切貸さない、滅ぶのを黙って見ているぞ“

と、
言い切られた国王はぐうの音も出なかった。

「だ、だが、既に其方がドラゴンを倒してまわった事、目にした者多勢おろう」
「だからフードで顔を隠したのです。皆が目にしたのは"フードで顔を隠した小柄な人物"のみです。それはこの国の者には違いないが正体は不明である、で押し通して下さればよろしいのですわ。誰かがあれは私だろう、などと言ってきても頷かなければ証明の仕様がない。まさか聖竜と共に居る私に向かって顔を見せろ!などという者はいないでしょうし(いたって無視すればいいんだし)、ついでに現在いま問い合わせをしてきている国々には、返答はほぼ不要かと」
「……何だと?」
「それについてはこちらを。お父様」
「む……」
娘が差し出した紙の束にちら、と目を走らせたローズ伯の顔が驚愕に彩られた。
「セイラ、これは…!」
「はい。此度の騒ぎの中心人物はルキフェル・トラメキア、そしてそれに乗ったのがこの五つの国ですわ」
「い五つ……?!」
トラメキアだけでなく、他五つの国から狙われていたと知ってさすがに(能天気な)王の顔も青ざめる。

「これは……連判状、だな?」
広げたローズ伯が確認するように言う。
「はい。各国が互いを裏切らぬようにと誓いを立て、。六枚だけ作られた契約魔法に基づく書類ですわ。あの襲撃を天幕の中から覗き見していた方々の元から拝借してきましたの。ですから、この国々に返信の必要はございません」
「どうやって……?」さすがにレオンも驚いて質問する。
「えぇと、竜眼にしろ魔法の目スパイ・アイにしろ、一定の距離でないと見る事が出来ないでしょう?」
確かにそうだ。
自分がその場にいずに敵を探るには竜眼で遠視や透視をするか、使役した動物を近くに放ってそれの目を通した画像を鏡や水などに映して見るしかない。

セイラはあの戦闘の最中さなかちゃんと連中のスパイ・アイを見つけていた。ひと通りドラゴン達が落とされるのを見せ付けてから、それをあの白竜に攻撃させ視界(ついでに身動きも)を奪ったあと、魔力が届く範囲に必ずいるであろうスパイ・アイのぬしに届けてやったのだ、メッセージ付きで。
「メッセージだと?」
なんだかうすら寒いものを感じつつレオンが聞き返す。
「はい。えぇと、誰であれ天幕の上からドラゴンが降ってきたら驚きますよね?」
そりゃそうだろう、とは誰も言えない。
「で・我先に逃げ出そうとして__まず、一番大事な物から運び出さないと、てそこに走りますよね?」

なるほど。

「そのドラゴンって、貴女あなたがわざわざ連れてったの?」
 という王妃の問いに、
「いいえ?」
と返す多分きっともうすぐ王妃の義理の娘(仮)になるはずの少女はきょとんとする。
「だってどの団体にしろ、必ず数体はドラゴン連れてるじゃないですか?」
 (((______は??)))
と場のほぼ全員の顎ががくんと落ちそうになったが少女は続けて、
「えぇと、最初は凍らせたドラゴン落っことしてやろうと思ったんですけど、凍らすにはブリザードドラゴンの目の前に別のドラゴン引っ張ってこなきゃならないじゃないですか?思いのほか面倒で。直接その辺にいるドラゴン落とす方が簡単かなって」

いや、ドラゴンいるならその近くにマスターいる筈だし。
普通ドラゴンてマスターのいう事しかきかないはずだし、聞いても"ここに向かって落ちろ"なんて指示は多分きかないだろうし。

そもそも凍らせて落とすのも非常識だが、かと言って動きを止めてないドラゴンを意図的にピンポイントに落とすって何だ。

というその場にいる人々の諸々の突っ込みは勿論少女に届く事はなかった。
「ドラゴンが降ってくれば人も馬はもちろん、地上にいる他のドラゴンもパニックを起こします。ので、その騒ぎに乗じてこれを頂いて参りましたの。落としたドラゴンと一緒にあちらの放ったスパイ・アイも一緒に突き返してきたので、あちらにも意図は伝わったかと」
「………」
広間に何とも言えない静寂が満ちた。
 が、
堪えきれずくっく、と笑うレオンの声で場が息を吹き返した。
「__あなた達に関しての心配はなさそうね……」
「それこそ今更ですよ、母上」
気をとりなおした王妃はやおら国王に向き直り、
「そうそう、ついでに国王陛下の御心もはっきりさせておきましょう」
といきなり話を振った。
「そうね。ダリウス、あなたはセイラをどうしようとしてたのだったかしら?」
「確かに、本人に聞かせないのはフェアではありませんな」
そこに王妃、王太后、ローズ伯まで乗っかってしまう。
「セイラ、国王陛下からお話があるそうだ」
「ま、まて!その事に関しては__」
「今は例の審議の最中ですよ?直接本人に話すべきでは?」レオンがたたみかける。
「こっ、こ……」
「鶏の真似ですか父上?」
「わ、儂が三歩 歩けば忘れるトリ頭だと言いたいのか?」
「風見鶏のほうらしいですよ?」
 風見鶏のモデルも大抵ニワトリです、レオン様。
「なるほど風の吹く方に軽々しく向いてしまう__か、言い得て妙だな」
普通に感心しないで下さい、お父様。
「……合いすぎてて返す言葉もないわね」
いやなんか返しましょう?王妃様。
「いっそミドルネームに混ぜたら良いのではないかしら?ダリウス・カザミドーリ国王。案外良いのではないかしら?」
「は、母うえ……」王太后さま……自分の息子の名前にそれはちょっと。
「その名前を名乗る度に己れの浅はかさを思い知れば良いのです、このバカ息子が」
__あ、 言っちゃった。
なんだか一気に十才くらい老けた国王が「すまなかった」としおしおと頭を垂れた。「今さらではあるが、儂に出来る事があれば言ってくれ」


「__では、私を自由民にして下さいませ」
顔色の悪い国王に、セイラはターゲット(?)を変更した。
「なっ……?!」
この世界にはギルドがある。
ギルドの規律や中身はその国によって違うが、どの国でも当たり前ながら申請し許可がなければ入れない。
自由民とは、その各国のギルドに出入り自由の者を指す。
もちろん特例中の特例でそれらのギルドに顔がきく国が特別に許可した者のみに発行される。
この国の王になら充分可能だろう。

「何を驚かれているのですか?ラインハルト王子の祝祭での侮辱行為に始まり国王陛下が仕組まれた黒太子との見合い、ラインハルト王子が妃の筆頭候補としてそばに置いたキャロル嬢の企み、並びに再び国王命によるトラメキアへの派遣?いえ、身売りでしたっけ?どっちでも良いですが。__どれが成功しても私は今ここにはいなかったはずの人間なのですから、構わないのでは?」
「し、し、しかし……!そなたはレオンの、」
「婚約は白紙撤回なされたと伺いましたが?」
蒼白からさらに真っ白になった王様に澄ました顔を崩さず、さらに笑みまでたたえて言ってやる。
 周りを見回すも、取りなす者は誰もいない。
「れ、レオンっ!」
切迫つまった国王が言えば、
「セイラがそう言うなら仕方ありませんね。だが私も彼女と離れたくない。ならば私も身分を捨て自由民になって一緒に行く事にしましょう。今回のように王家のごたごたに彼女を巻き込むのは感心しませんし__父上はまだ若い事ですし?」
 全く止める気配のないレオンに、国王は白い顔のままぴしりと固まった。
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