クマの短編ホラー小説

クマミー

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予言師〜心の底からの望み〜②

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 日も暮れそうな頃、老人はまた突然現れた。黒い服、灰色の髪の毛を後ろに束ねている。この人だ。年齢は70代くらいか?
「あなたが予言師ですか?」と聞くと、
「用件は何だ?」と表情も変えずに返事をしてきた。
「この前言う通りにしたら、仕事が上手くいきました!次はどうしたらいいですか?昇進したいなぁ!彼女も欲しいけど、宝くじ3億当選したいなぁ!」
「明日からはしばらく普通に出勤するといい。望んだものが手に入る。」
「えっ?それだけ?」
呆気に取られた。必要最小限の会話しかしない人のようだ。
 
 翌日、会社に行くと、また部署がざわついてる。
「洋介、何かあったのか?」
「晴人?お前知らないのか?部長が帰り道で通り魔に遭って重症らしい。手術が必要とか聞いた…」
「え…」
「でも大きな声で言えないけど、お前いつも部長から怒られてばかりだからラッキーだったな。」
「おい…やめろよ。不謹慎だぞ。」
 その日は昇進や宝くじの話も、ましてや合コンの誘いなどある訳がなかった。
 
 晴人は予言師を探した。今度はすぐに見つかった。
「おい!言う通りにしたのに、何も手に入らなかったぞ!どういうことだ!」
「自分の身の回りで変わったことはなかったか?」
 晴人はハッとした。あんなことは頼んでないし、望んでない。
「俺はあんなこと言ってないぞ。」
「何があったが知らんが、それがお前が日頃から望んでいたことだ。」
「あんたはまさか悪魔か何かか…?」
「あ?何言ってんだ、急に?AIロボットやら3D何 ちゃらが開発されてる時代に…馬鹿馬鹿しい…。君大丈夫か?」
 
 1日の3分の1を仕事に費やす毎日。その職場で毎日怒られる方はたまったもんじゃない。毎日ハズレガチャを引かされている気分なのは否定出来なかった。
 予言師は突然語気を強めて、
 「日頃から思い続けていることは簡単には変わらんし、消えないんだよ。その望みが実現して良かったんだろ?」
 とんでもない奴と関わってしまったようだ。その場で思いついた望みとかではなく、心の底から思っている望みが実現されるようだ。
「次は何が起きるんだ…?」
「知らん。」
「予言師なのにわからないだと!?」
「何を望むかは本人が決めることだ。他人任せじゃおかしいだろう。何が起こるかは君自身がよくわかってるんじゃないか?」
 
 俺は何を望んでいるんだ?自分が分からなくなってきた。人並みに幸せを望む反面、独り善がりな生き方もしてきた。そこにはたくさんの「望み」があった。しかし、どれが「心の底から」なのかわかるはずもなかった。
「今日はもう帰れ。明日になればわかる。」
 
 晴人は気がつくと走り出していた。一刻も早く予言師から離れたかった。もう話を聞きたくなかった。また自分の望みによって、恐ろしいことが現実になるかもしれない。もう何も起きないでくれ。
 
 明日になったが、何も変わってなかった。いや、自分が変化に気づいてないだけかもしれない。あの予言師とはもう2度と会いたくない。
 予言師は忙しく営業に出ていく晴人を見て呟く。
「良かったな。何も起きなくて。」
 
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