転生したら魔女狩りの世界だった件。嫌なので全力で抗います〜絶望少女と魔王達〜

なないろすらいむ

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二章 ルーク編

第4話 魔女達の誘い

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廃村の乾いた風が、崩れた石壁の間を抜ける。草に覆われた石畳が朝の薄光を反射し、廃墟の静寂が不穏に響く。
 ルークの隻眼は鋭く、黒いローブを羽織った少女達に注がれている。彼女達――サンクタ・エヴァ――はミツキ達を取り囲むように立ち、黒いフリルと紫色のスカートが風に揺れる。中央に立つ青髪の少女が手を叩き、口を開いた。

「…先程のカドーシュ・ゴーレムとの戦い。とても見事だったわ。流石ね、ネファスの魔女ルーク。」

青髪の少女の声は甘く、だがどこか冷たく響く。

「騙すような真似をしてごめんなさい。私はソフィア。隣の赤髪の子はイザベラ。…私達サンクタ・エヴァには、あなた達の力が必要不可欠なのよ。」

ルークの胸が締め付けられる。ネファスの魔女としての直感が、少女達の言葉に潜む危険を警告していた。

―サンクタ・エヴァ―、闇市で囁かれる過激な魔女集団。教会と天上界を敵視し、禁忌の魔術を操る者達。だが、ルークの関心はそこではない。

「…セレスティアの名を使ったのはお前達か。」

彼女の声は低く、剣の柄を握る手が汗ばむ。ソフィアが微笑む。青い髪が風に揺れ、瞳に狡猾な光が宿る。

「ふふ、鋭いわね。聖女セレスティア――あなたの大切な人、よね? 彼女がこの廃村に現れたなんて、ちょっとした仕掛けよ。あなたをここに呼び出すために。」

その言葉に、ルークの瞳が鋭く細まる。セレスティアの名を弄ぶ態度に、胸の奥で怒りが滾る。

「ルーク、落ち着いて…。」

エリシェヴァがそっと呟く。緑のスカートが風に揺れ、長い金髪が輝く。冷静な瞳はサンクタ・エヴァを観察し、魔力の流れを読み取ろうとしていた。

「この人達…何を企んでるの?」

ミツキが隣で囁く。赤い装束が映え、好奇心と緊張が入り混じった瞳でソフィアを見つめる。ゴーレム戦の疲労が残るが、彼女の手は剣の柄に置かれている。

「企むだなんて、失礼ね。」

ソフィアが肩をすくめた。

「私達サンクタ・エヴァはあなた達と同じ、教会と天上界の偽善を打ち砕くために戦ってるの。教皇アダムス、天使達――彼らの支配は腐ってるわ。ルーク、あなたも知ってるはずよ。セレスティアがどうなったか。」

声には嘲りが混じっていた。

「天使達の裁きの光に焼かれ、村人達に裏切られ、絶望して消えた聖女。あの出来事も、教会の仕業よ。私達に加われば、セレスティアの仇を討てる!」

イザベラがまるで演説でもしだすかのように話し出す。

「私達の目的は偽善に塗れた天上神と腐敗しきった教皇アダムス、教会の奴ら全員を皆殺しにする事よ。魔女狩りと称して理不尽に殺された沢山の罪なき少女達の為に奴らに天誅を下してやるの! そうして私達魔女の為の新しい世界を作るのよ!」

「……そんな……」

ミツキが言葉を失う。

ルークの心が軋む。セレスティアの絶望した顔が脳裏に浮かぶ。あの夏の日、村人達の恐怖、ルーク自身の無力さ――全てが彼女を追い詰めた。だが、サンクタ・エヴァの言葉はあまりにも過激だった。

「…お前達の目的は復讐か。」

ルークの声は冷たく、隻眼がソフィアを貫く。

「セレスティアの名を口にするな。僕には僕の道がある。お前達の過激な思想に与する気はない。」

ソフィアの笑みが消える。

「…ふん、残念ね。ネファスの魔女の力は、私達の盟友がカルデア・ザフラーンで進める計画に必要だったのに。」

その言葉に、ミツキが首を傾げる。

「カルデア・ザフラーン? それって何? 街の名前?」

エリシェヴァが眉をひそめる。

「聞いたことのない街ね…。」

ミツキ達がその地を知らないことに、ソフィアは薄く笑った。

「ふふ、知らなくてもいいわ。いずれわかる時が来るもの。あなた達の力は私達がいただくわ。たとえ強引にでもね!」

イザベラの声が鋭く響き、地面に赤黒い魔法陣が浮かぶ。黒い霧が廃村を覆い、少女達の手から呪術の鎖が放たれる。鎖は蛇のようにうねり、ルーク達を縛ろうと襲いかかる。

「来るよ、ルーク!」

ミツキが叫び、剣を構える。赤い光が奔り、時間停止の権能が発動した。しかし、同時にミツキの額に汗が滲む。鎖の動きは遅くなったものの、完全に止める事は出来ない。

「うっ…さっきの戦いで…ちょっとキツイかも!」

精神はまだ回復しきっていなかった。

「ミツキ、あまり無理するな。……ここは僕に任せて。」

ルークが駆け寄ると、右目の眼帯を外す。青い左目と違い、右目は紫色の瞳をしており、中にはシジルのような模様が浮かび上がっていた。

「――止まれ。」

その瞬間、世界が凍りついた。
黒い鎖は宙に浮かび、まるで意志を持たぬ蛇のように蠢きを止め、イザベラやソフィアの姿もそのまま時に縫い止められている。微かな風だけが動きを保ち、ルークの外套をはためかせていた。

ミツキが見開いた瞳で周囲を見渡す。

「こ、これって私の時間停止の権能、よね……本当にどういうこと……?」

「記憶の中にあった“彼女達の戦術”を再現しただけさ。」

ルークが小さく答える。声は静かだが、どこか余裕があった。

「僕の“記憶魔法”はね……“一度見た戦術や現象”を、相手の記憶から抽出し、再現することができる。さっき、ミツキの能力を観察していた彼女達の脳内に、君の時間停止がきっちり刻まれていたんだよ。」

ミツキの表情が強張ったまま、それでも呆れ混じりに返す。

「……すごい。一体どうやって……!」

「今は悠長に話している場合じゃない。詳しい事は後にしよう。」

言い終えると同時に、ルークはエリシェヴァの腕を引き寄せ、ミツキに頷いてみせた。

「――逃げるぞ。」

三人は行方をくらます為、森へと駆け出した。凍りついた村の風景が、音を立てぬまま流れゆく。
だが――耳の奥に残響のようにこびりついていたのは、あの少女たちの声だった。

 『偽善に塗れた天上神と、腐敗した教皇アダムス……皆殺しにして、魔女の為の新しい世界を創るのよ!』

その響きが、ルークの胸をえぐる。セレスティアの名を弄び、復讐の燃料とした少女たちの姿が、過去の村人と重なって見えた。

 
「……あの人達の言葉、聞いてて……正直、少し怖かった。」

ミツキの声は震えていた。

「何だか……教会と同じことしてるみたいで。敵だからって、皆殺しにしていいなんて……それじゃ、ただの暴力じゃない。」

ルークが黙って頷いた。彼女の中に浮かんでいたのは、あの日のセレスティアの顔。聖女と呼ばれた彼女が、どれほど純粋に人々を信じていたか。その無垢さが、どれほど簡単に裏切られたか。

「セレスティアは……あんなやり方、望まない。」

エリシェヴァも冷静に言葉を重ねる。

「怒りや悲しみを原動力にすることまでは否定しない。でも“皆殺し”なんて……それはただの独善。教会の狂信と同じだわ。」

廃村を吹き抜ける風が、冷たく三人の頬を撫でた。

ミツキは唇を噛み、強く言い切った。

「復讐で作った世界なんて、結局また誰かを泣かせるだけ。……私は、そんなの絶対に嫌。」

その声は、彼女自身を鼓舞するように響いた。

 「逃がさないわよ!あなた達!」 

 森の入り口の方からイザベラの声がする。
 同時に赤黒い魔法陣が輝き、呪術の鎖が廃墟の間を這うように追いかける。 赤黒い炎が森の木々を焦がし、ゴーレム戦で見た不穏な光を放つ。
 どうやら時間停止の権能は溶けてしまった様だ。
 
「足止めするわ、みんな走って!」
 
  エリシェヴァが走りながら何かを念じると、周囲が緑色に光だした。ミツキ達が通った後の通路の草木が急激に成長し、道を塞いでしまった。
 これにより、一部の魔女達は脚を草や蔦に引っ掛け転倒し始める。しかし魔女達は歩みを止める事は無くミツキ達を追い掛ける。
 
「やっぱり、私も戦わなきゃ……。」

 ミツキが応戦しようとするが 、やはりゴーレム戦の疲労の影響か彼女の額には激痛が走り、時間停止の権能は発動できない。
 
「こうなったら、……やむを得無いな。」 

 ルークはそう呟くと足を止め。魔女達の方へと向き直る。
 
「ちょ、ちょっと、ルーク!?」

 エリシェヴァとミツキは困惑しルークへと駆け寄る。
そうしている間にサンクタエヴァの魔女達に追いつかれてしまった。

 「いい加減、観念したかしら?さぁ、私達と一緒に来てもらうわよ。」

 魔女達は三人を取り囲むと勝利を確信したのか、イザベラとソフィアがルーク達を捉え様とじりじりと近づいてくる。
 その途端、ルークの右目のシジルのが輝き出した。

 「――忘れろ」

 一瞬の出来事だった。ルークがそう呟いた途端、真っ白な閃光が魔女達を包み込む。
そして光が収まったかと思うとサンク・タエヴァの魔女達はさっきとは打って変わって皆、気の抜けた顔で呆然としていた。

「――ここは何処?」

「私達は一体何をしていたのかしら……?」

 どうやらイザベラもソフィアも――魔女達は直近の記憶を失ってしまい、皆混乱しているようだ。

「ぐっ、うっ……。」
 
ルークの右目が疼き、紫色の瞳から一筋の血が流れる。彼女は手で目を覆い、息を整える。

 「…これで当分、追ってこれない筈だ。早く、出来るだけ遠くへ逃げよう。」 

 記憶魔法の負担が彼女の身体を蝕んでいる。エリシェヴァが駆け寄り、青い光の治癒魔法を放つ。

 「ルーク、無理しすぎよ! この魔法、身体を壊すわ!」

  彼女の声に心配が滲む。
 
「…問題ない。セレスティアを見つけるまでは。」

ルークの声はかすれ、だが決意に満ちている。
 三人は手を取り合うとそのまま森の奥へと姿を消した。

 セレスティアの行方、サンクタ・エヴァの真の目的――廃村の戦いは、新たな謎を残すばかりなのであった。
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