転生したら魔女狩りの世界だった件。嫌なので全力で抗います〜絶望少女と魔王達〜

なないろすらいむ

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五章 文明の魔王編

第3話 穢れの意味

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重苦しい沈黙を引きずったまま、一行は宮殿の最深部――「玉座の間」へと続く巨大な扉の前へと辿り着いた。
 
 扉は、まるで訪問者を待っていたかのように、音もなく左右にスライドした。
 
 中へ足を踏み入れた瞬間、ミツキは息を呑んだ。
 そこは、外の廃墟とは比べ物にならないほど異質で、そして美しい空間だった。
 
 壁一面には、幾何学模様が施された赤砂岩と大理石が敷き詰められ、天井からは巨大なシャンデリアがぶら下がっている。
 
 まるで東方の宮殿を思わせるエキゾチックで豪華絢爛な内装。
 だが、その空間には不釣り合いな「無機物」が混在していた。
 
 空中に無数に浮かぶホログラムのモニター。
 床を這う太いケーブルの束。
 そして、玉座の周囲を囲む、用途不明の巨大なサーバー群。
 
「……ようこそ。遠路はるばるご苦労だったな」
 
 その中心。
 豪奢なクッションが敷き詰められた玉座に、一人の男が座っていた。
 
 ラーヴァナ。
 
 褐色の肌に、派手な黄金の装飾品。
 彼は退屈そうに頬杖をつき、入ってきたミツキたちをニヤニヤと見下ろしていた。
 
「ラーヴァナ……!」
 
 ミツキが叫ぶ。ルークが剣を構え、前に出る。
 
「よくも……よくもこんな場所に連れ込んだな! ヴィクラム殿はどこだ!」
 
「ハッ、開口一番それかよ」
 
 ラーヴァナは鼻で笑い、指先で空中に浮かぶ映像ウィンドウを弾いた。
 
「安心しな。あのクソ親父なら、俺の『絶縁結界』で弾いてやったよ。今頃、砂漠でサソリとダンスでもしてるんじゃねぇか?」
 
 彼は玉座から立ち上がり、ゆっくりと階段を降りてきた。
 その一歩一歩に合わせて、空間そのものがビリビリと震えるような威圧感が放たれる。
 
「それより、どうだった? 俺の可愛い国民との触れ合いは」
 
 ラーヴァナの問いに、ミツキの中に怒りが込み上げてきた。
 
「……最低だよ」
 
 ミツキは拳を握りしめ、魔王を睨みつけた。
 
「あんた、自分の国民をあんな姿にして……楽しんでるの?」
 
「……はぁ?」
 
「死ぬことも許さず、何百年も苦しませて……。それに、女の人や子供たちはどうしたの!? あの削られた肖像画もあんたがやったの!?」
 
 ミツキの剣幕に、ラーヴァナはきょとんとした顔をし――次の瞬間、腹を抱えて爆笑した。
 
「ククッ……ハハハハハッ! 俺が? 俺があいつらをあんな風にしただと?
 傑作だ! あいつらの戯言を真に受けたのか?」
 
 ラーヴァナは笑い涙を拭い、急に真顔に戻って吐き捨てた。
 
「とんだ濡れ衣だぜ。俺は何もしてねぇよ。
 ……あいつらを『永遠』という名の漬物石にしたのは、俺じゃねぇ。
 あいつら自身が望んだことだ」
 
「望んだ……?」
 
「ああ。かつてこの街を管理していた神官どもの仕業さ」
 
 ラーヴァナは、侮蔑の色を隠そうともせずに語り始めた。
 
「奴らは『死』を恐れた。だから天上神に縋り、禁断の『アムリタ(不老不死)』の祝福を求めた。
 その結果が、あのアレだ。
 『死にたくない』という願いを、神様が文字通り叶えてくださったのさ。
 ――肉体が腐ろうが、心が壊れようが……『絶対に死ねない』という地獄を与えてな」
 
 ラーヴァナは、天井の彼方を睨みつけた。
 
「さらに、祝福を得た奴らは天上神共の理想の世界の為に『不浄なる穢れ』を排除する必要があった。
 ……それが、女と子供だ」
 
 ミツキが眉をひそめる。
 
「そんな……どうして……女の人と子供が穢れなの?」
 
 ラーヴァナは冷ややかに笑った。
 
「そうだな……そもそもお前らは天上神って奴らが、一番嫌いなモンを知ってるか?
 奴らが忌み嫌うのは、『生命』と『変化』……そして『死』そのものだ」
 
「生命と……変化……?」
 
「ああ。あの潔癖症な神々にとって、世界は永遠に変わらない『停滞』こそが美しいのさ。
 だから、新たな命を産み出す『女』や、日々成長し変化していく『子供』は、秩序を乱す『穢れ』でしかねぇんだよ」
 
 ラーヴァナは吐き捨てるように続けた。
 
「アムリタの祝福を受け、気が狂った神官どもはその教義を真に受けた。
――神のご機嫌を取り、自分たちの永遠性を保つために……妻や娘を『穢れ』として街から排除したんだ」
 
 セレスティアの顔から血の気が引く。
 
「そんな……。家族を犠牲にしてまで、不死を……?」
 
「ああ。だから、この街には男しかいねぇ。
 残ったのは、アムリタの祝福で人間性を失った神官どもと、女を失って発狂した男どもだけ。
 ――つまりここは、俺の都なんかじゃねぇ。
 神に縋り、全てを失った、愚か者たちの老人ホームさ」
 
 あまりにも救いのない真実。
 外の男たちが叫んでいた「王への呪詛」は、自分たちの犯した罪と絶望を、すべて王のせいにしなければ自我を保てなかったからなのだろうか。
 
「……でも、あんたは王様なんでしょ?」
 
 ミツキが、震える声で問う。
 
「だったら……どうにかしてあげられないの? あの人たちを……終わらせてあげることはできないの?」
 
「できないね」
 
 ラーヴァナは即答した。
 
「奴らにかけられた『不死』の術式は、この街(サントーン・カーシャヘル)の動力源そのものと直結している。
 街が動く限り、奴らは死ねない。奴らが生きている限り、街は動く。
 ……この無限ループを断ち切るには、この街ごと消滅させるしかねぇんだよ」
 
 だからこそ、ラーヴァナはこの街を「破壊」しに来たのだ。
 自分の黒歴史を、そして苦しみ続ける元・臣下たちを、物理的に介錯するために。
 
「そのために、セレスティア。お前の『鍵』が必要だと言っている」
 
 ラーヴァナの右手に、黒い稲妻のようなエネルギーが収束していく。
 
「この街のシステムを掌握し、自爆シークエンスを起動させるには、俺自身の魔力か、それと適合する波長を持つ『鍵』が必要だ。
 ……お前の持つ『無敵』の権能がそれだ」
 
 ラーヴァナは手を差し出した。
 
「ヴィクラムの野郎はお前を使って『神に至ろう』としているらしいが、俺は違う。
 お前の力を使って、この呪われたシステムを強制停止させ、街ごと吹き飛ばす。
 ……悪い話じゃねぇだろう?」
 
「……違います」
 
 セレスティアが、震える声で、けれどきっぱりと言った。
 
「あなたは、解放してあげたいんじゃない。
 ただ、自分の過去を……辛い記憶を消したいだけです!
 街の人たちを巻き込んで、無理やり無かったことにしようとしているだけです!」
 
「……あ?」
 
 ラーヴァナの目が剣呑に細められる。
 
「それに……お父様は、私を利用なんてしません!
 お父様は、私の力の暴走を治すために……ここまで連れてきてくれたんです!」
 
 セレスティアは叫んだ。
 父への絶対の信頼。それだけが、彼女を支える唯一の柱だった。
 だが、ラーヴァナはその純粋な信頼を、鼻で笑い飛ばした。
 
「ハッ、まだそんな寝言を信じてやがるのか。
 力の暴走を治す? 笑わせるな。あの男が欲しがってるのは、お前の健康なんかじゃねぇ。
 お前という『鍵』を使って、自分だけがアムリタ(不死)を手に入れることだけなんだよ」
 
「嘘よ! お父様がそんなこと……!」
 
「嘘じゃねぇよ。
 用済みになったお前や、そこの友人たちは、この街で始末される手はずになってる。
 ……俺がここにお前らを隔離(かくま)わなきゃ、今頃お前ら全員、あの男の道具として使い潰されていたところだぜ?」
 
「それ以上喋るな!」
 
 ルークが叫び、剣をラーヴァナに向けた。
 
「貴様の言葉など信用できるか! 僕達を拉致監禁し、暴徒に襲わせた貴様と……ここまで娘を守り抜いてきたヴィクラム殿。どちらが信用に足るかは明白だ!」
 
「チッ……これだから石頭の騎士様は嫌いなんだよ」
 
 ラーヴァナは面倒くさそうに首を鳴らした。
 
「ま、いいぜ。言葉で分からねぇなら、力ずくで従わせるまでだ。
 ここは俺の世界だ。魔法も、科学も、全て俺の意のままだぜ」
 
 バヂィッ!!
 
 ラーヴァナが手を振るうと、黒い電撃が床を走り、ミツキたちの足元で爆発した。
 
「きゃあっ!?」
 
「くっ、皆、離れろ!」
 
 ルークが叫び、全員が左右に飛び退く。
 爆煙が晴れると、ラーヴァナは楽しげに笑いながら、空中に無数の幾何学模様(魔法陣)を展開していた。
 それらは魔法陣でありながら、電子回路のような光を放っている。
 
「さあ、教育の時間だ。お姫様たち。
 本当の絶望ってヤツを教えてやるよ」
 
 赤の宮殿、玉座の間にて。
 ミツキたちはまだ知らない。
 この戦いが、現実世界で起きている「本当の決戦」の余波に過ぎないことを。
 そして、ラーヴァナが本当に守ろうとしているものの正体を。
 
 文明の魔王と、異世界からの旅人たちの戦いが、唐突に幕を開けた。
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