闇属性のバーサーカー

雨川 海雲(あまがわ みくも)

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第一章 運命に抗うドブネズミ

8・土と水の村とお清め様

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 あくる日、俺は村を出た。相変わらずチビ達がしがみついて離れなかったりツバメ姉が涙を我慢しながら見送ってくれたりと、バタバタしたけどな。うん。しばらくは前しか見ねえで進むつもりだ。
 そんでよ、もうすぐ土と水の村に到着だ。ホント、隣の村ってもよ、お互いすげー広いから。これが田舎の嫌なところだよな。朝出たのに、もう昼過ぎだ。

「おい、ラット」

 んなこと考えてたら、嫌な声が聞こえた。はぁ、早速面倒くせえことになりそうだな。振り向くと、ゲンとショウがいつものにやけっ面……じゃねえな。なんだよ、その辛気臭え顔はよ。ま、準備運動がてら相手してやってもいいけどよ。

「なんか用か、お前ら」
「そのよ、タコ助のこと、聞いたぜ。その、本当なのか?」
「ああ。もう墓穴に入っちまったよ」
「そうか、今度、挨拶しにいかせてもらうぞ」
「……あぁ、勝手にしろ」

 なんだよ、調子狂うな。ま、こいつらなりに今日は空気を読んでるってことか。空気読む力あったんだな。

「なあ、ラット。町へいくんだろ? 昨日お前んとこの村長に聞いたよ」
「ああ。そっか、ショウは清い水の近くにすんでんだもんな」
「おう。それでよ、町に行くならお清め様に会っていってくれ。身体を清めることもできるし、そういう決まりなんだ」

 ああ、忘れてた。そういやそんな決まりあったな。あったけーお湯にかったあと、お清め様っていう人の話を聞く。それで町へ出立することが許されるんだったな。
 これは町や王都の人間が決めたらしいぜ。メザシ爺に聞いたことあったけど、なんてったっけな……。あぁ、そうそう。きっと田舎臭いのを消してから村に入れ、ってことだった気がする。知らんけど。仕方ねえからコイツらについていくことにすっけどよ。

「なあショウ、お清め様ってどんな人なんだ?」
「どんな人って……。まあ、婆さんだな」

 爺さんの次は婆さんかよ。

「あの人はさ、人の心を落ち着かせて……。そんで、なんだっけ?」
「え? 俺に聞くなよ。……まぁ、なんか自分の心と向き合わせる、とかなんとか言ってたな。よくわからんけど」

 コイツら……。自分の村のお偉いさんのこと、全然わかってねえじゃねえかよ。

「ま、あってみりゃわかるさ。そんで、今日はそこで一泊してくれ」
「え? 面倒くせえ」
「しょうがねえだろ、決まりなんだからよ。それに色々終わったら日が暮れるからな」
「そうそう、兄貴の言う通りだ。明日の朝一番に起こしてやっからさ」
「わーったよ」

 なんだかんだ、コイツらとこんなに普通に話したのは初めてだな。いっつも喧嘩腰けんかごしだったからよ。普通に話せんだな。コイツらも。
 にしてもこの村、ホント畑やら田んぼばっかだな。どんだけ歩いたのか感覚が狂っちまう。平地だから王都の方が見えねえしな。
 だが、案外退屈はしねえですんだ。コイツら、俺が観光客なのかってくれえ案内してくるからな。そこの家には美人が住んでるだとか、この木の実は勝手に食っていいとかよ。あ、ちなみに、その木の実はマジで美味かった。俺らの村にはなかったな。

「ほれ、あそこだ」
「おう」

 ゲンが指差した先には、ちょっと小綺麗な家があった。いつの間にか着いたのか。ちゃんと門があってよ。なんか犬みてえな石像が二つ迎えてくれてら。そんで、なんかいい匂いがしやがる。

「あ、気づいた? ここは常にお香がたいてあるんだよ」
「……わりい、ショウ。お香ってなんだ?」
「え? まあ、臭い匂いのする木? みたいな奴を燃やしてる、感じ?」

 なんでお前が疑問に思ってんだよ。それに、この匂いがくせえなんてな。結構いい匂いだと思うぜ、俺は。

「あれだ、空気を清めてるんだ」
「そう、さすが兄貴!」
「……たぶん、な」
「……そか。まあ、その、説明ありがとよ」

 ここで二人とは別れた。ショウなんて、手まで振ってやがった。随分とかわいくなったもんだぜ、あいつらも。

「ほう、お前がラットかい」
「あぁ、そうだ」
「……入んな」

 小綺麗な家で小綺麗な服を着たババアが出迎えてくれた。全身なんで白い服なんだ? お清めって、そういうもんなのか。よーわからん。

「ほれ、まずはここでお湯に浸かるんだ。この砂時計が落ちきるまでな。出たらこの服に着替えな」
「わかった」

 おお、すげえ。こんなにお湯があんの初めて見たぜ。村では雑巾ぞうきんで拭いたり、水を頭からかぶるくらいしか出来なかったからな。

「……っかー!」

 なんか声が出た。身体に染みやがる。あったけー。村にもありゃあいいのにな。

「頭にもお湯をぶっかけとくんだよー」

 遠くからババアの声が反響して聞こえてきやがる。へいへい。どうせ全身汚れてますよっと。……あー、それにしても気持ちいいや。町に行ってからもちょくちょく通わせてもらおうかな。
 っと、あっという間に砂時計が終わっちまった。いや、さっぱりしたぜ。暑い日ならよ、井戸の水を浴びたりして楽しんでたがよ、これはその比じゃねえな。うん。

「ふむ、しっかり清められたようだね」
「ああ、こんなん生まれて初めてだ」
「だろうね。さ、こっちに来てお座り」

 なんだか変な作りの部屋だ。俺らの村だったらよ、床なんか土のまんまの家がほとんどだ。まあ、うちは木を薄く切って敷き詰めてたけどな。じゃねえと、モグラが出たりすっからな。ここはしっかり木が揃えられてやがる。町の職人がわざわざこしらえたのかな。知らんけど。

「まず、大変だったね、昨日は」
「あ、ああ」
「で、あんたは町に行ってどうするつもりだい?」
「おう。町で冒険者になってよ、たんまり稼ぎつつ、力をつけるつもりだ」
「そうかい。うむ。闇属性の冒険者とは、聞いたことがないがね」
「それだけじゃねえぞ。それから騎士団に入って、戦うつもりだ。リーシュ王国とな」
「……まあいい。では、目を閉じて集中しなさい。わたしの魔力で自分の心と対話しやすくしてやるからね」

 ……なんだか、やろうとしてることがタコ助と似てるな。だが、ああ、なんだかいい匂いが漂ってくる。確かに集中できそうだ。だんだんと、部屋の壁がなくなって、床が消えて、何もない空間が広がってくるように感じる。不思議な感じだ。何もない、真っ暗な世界。そういや、これは闇の階段に似てるな。あの階段……結局どうなったんだっけ? 俺は確かにあの時、あの階段が見えて……そんで……。

「やあ、待ちくたびれたよ」

 なんだ? なんか声が聞こえたような気がすっけど……気のせいか。ここは闇の階段……じゃねえのか。同じ感じはするが、部屋、か? 夜目がきくはずなのに、なんだかよく見えねえ。少し寒く感じる空間。俺は……ここを知ってる。だが、こんなにはっきりと感覚があったことはねえ。一体俺はどうしちまったんだ?

「おーい、聞こえてるよね~? さっきから話しかけてるんだけどー?」

 え? ……マジかよ。嘘じゃねえんだよな! いや、嘘なわけねえよ。俺がコイツの声を聞き間違えるはずがねえ。赤ん坊のころから毎日毎日嫌ってほど聞いてんだ。

「おーい。とりあえずこっちに来てよ~」

 やっぱり、間違いねえ。この声は……。

「……そこにいんのか? タコ助」
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